モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番 ヘ長調 K.459(第2戴冠式)徹底解説 — 1784年の成熟と演奏の魅力
作品概要と歴史的背景
ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459 は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1784年にウィーンで作曲したピアノ協奏曲の一つです。1780年代前半から中盤にかけてのモーツァルトは、ヴィーンで自らピアノを弾いて聴衆の前で演奏する機会が多く、これらの協奏曲群は当時のサロンや公開演奏での実演を念頭に置いて書かれました。K.459 はその中でも技巧と歌謡性、室内楽的な対話性を高い水準で兼ね備えた作品であり、モーツァルトのピアノ協奏曲の成熟期を示す代表作の一つとされています。
なお、楽曲にまつわる“第2戴冠式(Second Coronation)”という呼称は、一般に広く定着している愛称ではありません。ピアノ協奏曲の「戴冠式(Coronation)」という通称は通常は第26番ニ長調 K.537 に付されることが多く、K.459 に関しては確立された通称はほとんど存在しないことに留意してください。
編成と様式
編成は独奏ピアノ(当時はフォルテピアノを想定)と弦楽合奏、オーボエ2本、ホルン2本を基本とする伝統的な古典派の配列です。クラリネットやファゴットは用いられておらず、透明感のある木管と温かいホルンの響きが弦と溶け合う、典型的なモーツァルトのサウンド・ワールドが展開されます。
形式面では、古典派の協奏曲に期待される「オーケストラによる序奏(オーケストラ序奏)」と「独奏による展開(ソリストの応答)」という二重奏的な展開が踏襲されていますが、モーツァルトはここで単なる対立ではなく、オーケストラとソロの対話や相互参照を巧みに設計しています。また、第1楽章ではソナタ形式の明快さ、第3楽章ではロンド(またはソナタ=ロンド的な性格)の跳躍感が際立ち、全体を通じてバランスの取れた構築性が感じられます。
楽章ごとの詳細な解説
第1楽章:Allegro
第1楽章は快活で明るい気分に満ちたアレグロ。典型的な協奏交響的二重奏の構造を持ち、オーケストラの序奏に続いて独奏ピアノが主題を受け継ぎ、装飾や即興的な反応を見せます。主調はヘ長調、主題は歌謡性が高く、展開部では短調への切り替えや遠隔調へのひねりを織り交ぜながら、再現部での戻りが巧緻に処理されます。
特に注目すべきは、モーツァルトがここで示す“ピアノとオーケストラの平等化”の志向です。古典期の協奏曲ではピアニストが目立つ場面が多い一方で、K.459 ではオーケストラが単に伴奏に徹するのではなく主題提示や応答に積極的に関与し、室内楽的な対話が生まれています。リズムや付点的アクセントの扱い、内声の扱いなどが演奏解釈のポイントになります。
第2楽章:Andantino(遷移的な緩徐楽章)
緩徐楽章は穏やかで歌心に富み、ホルンやオーボエの色彩を活かしたハーモニーの美しさが際立ちます。多くの場合、主調の下位関係(たとえばヘ長調の下属調である変ロ短調や変ロ長調)を用いることで、温かみのある調性感が表現されます。独奏ピアノは装飾音や内声の処理によりカンタービレ(歌うような表情)を要求され、呼吸感や音色の変化が重要です。
ここでは簡潔な主題とそれに対する装飾的変奏のような扱いが見られ、モーツァルトの美しい旋律作法と簡潔な対位法的処理が同居します。過度なロマンティックな遅延よりも、節回しとフレージングの明確さを保つことが伝統的な解釈の要となります。
第3楽章:Rondo(Allegro)
終楽章は軽快なロンド主題を中心に、対照的なエピソードが繰り返される構造です。リズミカルな活力と機知に富んだ動機操作が魅力で、ピアノは華やかなパッセージやトリル、交差奏法などを交えながら主題を彩ります。ここでもオーケストラとの掛け合いが妙味で、ロンドの反復ごとに新たな色合いが付加されていきます。
終結部に向けては勢いを増しつつも均衡を保ち、フィナーレでは明快な締めが用意されます。モーツァルトの様式美が最もわかりやすく示される楽章の一つです。
演奏上のポイントと様式的留意点
- 音量とタッチのバランス:当時のフォルテピアノにおけるダイナミクスの幅を想定しつつ、現代ピアノで演奏する場合はオーケストラと対等な均衡を取ること。
- 装飾と即興:モーツァルトはソリストにある程度の即興装飾を期待したと考えられ、繰り返しの扱い(反復時に適度な変化を付ける)やカデンツァの導入は演奏者の個性が出せる箇所です。
- フレージング:歌うようなラインを保つこと。特に第2楽章ではポルタメント的な遅延や過度なルバートを避け、各フレーズの始まりと終わりの形を明確にすることが重要です。
- オーケストラとの対話:和音に埋もれず、内声の線(ヴィオラやオーボエの旋律)を尊重することで室内楽的な質感が生まれます。
楽譜・カデンツァ・版について
原典資料や校訂版は、イモルスプ(IMSLP)やネウエ・モーツァルト=アウスガーベ(Neue Mozart-Ausgabe)などで入手可能です。モーツァルト自身によるカデンツァが現存しない場合もあり、後世の名手や校訂者によるカデンツァが用いられることが多い点に注意してください。歴史的演奏慣習に基づく装飾やカデンツァの選択は、演奏のスタイルを大きく左右します。
おすすめの聴きどころ(リスナー向けガイド)
- 第1楽章:序奏と独奏のやり取りに注目。主題が単に提示されるだけでなく、各楽器群がどのように主題の表情を変えるかを聴き取ってください。
- 第2楽章:旋律線の歌いまわしと木管の彩りを味わってください。ピアノの内声処理やペダリングの控えめさが曲の品位に直結します。
- 第3楽章:リズムの跳躍、対位的な小フレーズの応酬、ロンド主題の回帰ごとの微妙な表情変化を楽しんでください。
代表的な演奏・録音の選び方
録音を選ぶ際は、以下のポイントを参考にするとよいでしょう。
- 歴史的奏法(フォルテピアノ+少人数オーケストラ)を試したい場合は、古楽器系の演奏を探すと当時に近い響きを得られます。
- 現代ピアノによる演奏は音色の豊かさが魅力ですが、オーケストラとのバランスや解釈の軽快さに注目しましょう。
- カデンツァや装飾の違いも楽しみの一つです。録音ごとに選ばれたカデンツァや反復の扱いが異なるので、いくつか聴き比べるのがおすすめです。
結び:K.459 の位置づけと魅力
K.459 は、モーツァルトがウィーンで築いたピアノ協奏曲様式の豊かさをよく表す作品です。技巧的な側面と抒情的な側面が均整よく統合されており、ソリストとオーケストラ双方の魅力を堪能できる構成になっています。愛称に関する混同が見られる場合もありますが、楽曲そのものの価値は揺るぎなく、演奏・鑑賞の双方で多くの示唆を与えてくれます。
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参考文献
- Wikipedia: Piano Concerto No. 19 (Mozart)
- IMSLP: Piano Concerto No.19 in F major, K.459 (score)
- Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart (biography and works)
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