モーツァルト ホルン協奏曲第1番 K.412(K.386b)を深掘り:作曲背景・楽曲解析・演奏の聴きどころ
概要と注意点
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのホルン協奏曲第1番 ニ長調 K.412(K.386b)は、しばしば同時代の名ホルン奏者ヨーゼフ・ロイトゲープ(Joseph Leutgeb)を念頭に書かれた一連のホルン協奏曲群の一部として語られます。本稿では主にK.412(通称ホルン協奏曲第1番)を中心に、その歴史的背景、楽曲構成、演奏上の特徴や聴きどころ、譜面や版の扱いなどを深掘りして解説します。なお、問題提起としてご提示の「+K.514(1782)」については、一般的な版や目録ではK.514がこの協奏曲の標準付番として用いられている例は少なく、ケッヘル目録の改訂や版によって番号表記が異なる場合があります。ここでは一次的な慣行に従いK.412(K.386b)を主題にします。
歴史的背景:ウィーンとロイトゲープの関係
1780年代初頭のウィーンは、交響曲・協奏曲・室内楽が盛んな音楽都市でした。モーツァルトは1781年にザルツブルクを離れてウィーンに活動拠点を移し、当地で多様な楽曲を創作します。ホルン協奏曲群はこの時期あるいはその直前に成立したと考えられており、作曲の発端にはロイトゲープという黄鐘(自然)ホルンの名手の存在が深く関わっています。
ロイトゲープはモーツァルトの旧友であり、しばしばモーツァルトは彼の技量や奇行にユーモアをこめた献辞や手紙を書き残しています。ホルンは当時クローク(トロンボーンや弦楽器と異なり)による調整でキーを変える天然楽器であり、奏者の手技(hand-stopping)や巧みな管理が高い要求を課しました。モーツァルトはロイトゲープの技術を理解した上で、その音色や表現力を生かす楽想を協奏曲に盛り込みました。
版と目録番号について(K.412 と K.386b の表記)
ケッヘル目録(K. 番号)はモーツァルト作品を年代順に整理した体系ですが、改訂により番号の併記や再編が生じます。ホルン協奏曲第1番はK.412と表記されることが多く、補助的にK.386bと併記されることもあります。研究・演奏の場ではHenleやBärenreiterなどのウルトラテキスト版が基準として用いられ、現代の演奏家はそれらの版に記された演奏上の注記や指示を参照します。
楽曲構成と音楽解析(概説)
典型的な古典派協奏曲の3楽章形式(速 — 緩 — 速)を採る点では、K.412も同様です。以下は各楽章の性格と聴きどころを音楽学的に整理したものです。
- 第1楽章(Allegro、ソナタ形式的)
オーケストラによる序奏(主題提示)があり、その後ソロ・ホルンが応答して展開に入ります。モーツァルト特有のシンプルで明瞭な主題作りが光り、ホルンの音域を効果的に使った旋律線が続きます。和声進行は機知に富みつつも決して過度に複雑にならず、ソナタ形式の明確な輪郭の中でソロとオーケストラの対話が展開します。
- 第2楽章(緩徐楽章)
ホルンの歌心を最大限に引き出す場面。ナチュラルホルンの素朴で穏やかな音色が、モーツァルトの典雅な旋律に溶け込みます。呼吸の取り方、ヴィブラートの少ない自然な歌い回し、フレージングの明確さが重要です。和声的には属調や並行調への短い寄り道を用い、抒情性を際立たせます。
- 第3楽章(ロンド/ロンド風の終楽章)
終楽章は明るく跳ねるようなリズムで曲を締めくくり、ホルンにとっても技巧的な見せ場を提供します。ロンド主題が何度も回帰する構成で、モーツァルトの機知と即興的な装飾の余地が見られます。終結部では鮮やかな調性確認と活気あるフィナーレが待っています。
ホルンという楽器の特性とモーツァルトの書法
18世紀のホルン(ナチュラルホルン)はバルブを持たず、管の長さを変える"crook"で調を変え、奏者は右手をベルの中に差し入れて半音を作り出す手法(hand-stopping)を多用しました。これにより音色は部分的に変化し、特定の音域では音程や音色の制約が生じます。モーツァルトはこれらの制約をよく理解した上で、ホルンの自然倍音列を活かす開放音域や、手の技術で作る半音の色合いを織り込んでいます。
結果として楽曲は以下の点で特徴的です。
- 開放音(自然倍音)を中心とした雄大で豊かな旋律
- 手法による音色変化を活かした表情付けの余地
- 高音域での柔軟なラインと、低音部での落ち着いた支え
演奏上の実際的ポイント(現代奏者への示唆)
- 楽器選択: 歴史的解釈を重視する場合はナチュラルホルン(古楽器)を用い、音色の素朴さを追求します。現代的な響きや安定性を優先する場合はバルブホルン(フレンチホルン)で演奏されることが一般的です。
- ピッチとテンポ感: 当時の基準ピッチは今日より低かった可能性があるため、演奏会や録音の方針によりA=430〜440Hzの選択が影響します。テンポは楽章ごとの性格と共演オーケストラの反応を重視して決めます。
- カデンツァ: モーツァルト自身による詳細なカデンツァ譜は残されていないため、多くの演奏家は自作のカデンツァや歴史的奏者の伝承を参考にします。カデンツァは技術の見せ場であると同時に楽曲の様式に沿った音楽的表現を求められます。
- 装飾と発音: 18世紀様式に即したディテール(トリルや小節の装飾)は不可欠ですが、過度な装飾はモーツァルトの透明感を損なうので注意します。
譜面と版の選択
現在流通する主要な版としてはHenle、Bärenreiter、Wiener Urtext などのウルトラテキスト系があり、校訂に基づく注記や原典資料の解説が付されます。演奏家や研究者は原典譜(autograph や早期写譜)や信頼性の高い校訂版を照らし合わせて、地方的な読み替えや誤記を判断します。インターネット上ではIMSLPに複数の版が公開されており、比較研究には有益です。
録音と聴きどころ(おすすめ)
演奏史上、多くの名演が録音されています。歴史的演奏慣習に即したナチュラルホルンの録音と、近代ホルンによる録音とでは色彩や表現が大きく異なるため、比較して聴くと理解が深まります。聴く際のポイントは以下の通りです。
- 第1楽章:主題の提示とソロの入り方、楽器間の対話
- 第2楽章:息づかい、フレージング、余韻の扱い
- 第3楽章:リズムの切れ味、ロンド主題の再現と変奏の巧みさ
この作品がもつ音楽史的意義
ホルン協奏曲第1番は、モーツァルトが自然楽器の特性を深く理解し、それをクラシック期協奏曲の形式内でいかに活かしたかを示す好例です。ロイトゲープとの個人的関係を背景に、器楽表現の幅を拡げると同時に、ホルンという楽器のソロ楽器としての地位を確かなものにしました。今日では教科書的なレパートリーであると同時に、演奏解釈の余地を多く残す名作として愛されています。
まとめ:演奏と鑑賞のためのチェックリスト
- 演奏版の選択(Urtext推奨)
- 歴史的奏法(ナチュラル vs バルブ)の決定
- 楽章ごとの呼吸とフレージング設計
- カデンツァ方針の検討(即興的要素の可否)
- 録音を複数比較して様式感を養う(古楽器と近代楽器を聴き比べる)
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参考文献
- IMSLP: Horn Concerto No.1 in D major, K.412 (Mozart)
- Encyclopaedia Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart - Horn concertos(記事内参照)
- Naxos Music Library / CD 解説(Mozart Horn Concertos 各録音の解説)
- AllMusic: Mozart Horn Concertos(作品解説・録音案内)
- G. Henle Verlag(Urtext 出版社)
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