モーツァルト:弦楽五重奏曲第1番 変ロ長調 K.174(1773)――作品解説と聴きどころ
導入 — 作品概要と歴史的位置づけ
弦楽五重奏曲第1番 変ロ長調 K.174 は、若きモーツァルトが1773年に作曲した弦楽五重奏曲の初期作のひとつです。モーツァルトは当時17歳で、ザルツブルクに滞在しており、この作品は彼が弦楽器群に対して豊かな中声部と対位法的処理を探求し始めた段階を示しています。形式的には典型的な古典派の四楽章構成をとり、親しみやすい主題と洗練された室内楽的対話が特徴です。全体の調性は変ロ長調で、明るさと温かみを兼ね備えています。
作曲の背景 — 1773年のモーツァルトと弦楽五重奏への挑戦
1773年はモーツァルトが青年期に差し掛かる時期で、家族とともにザルツブルクを拠点に活動していました。管弦楽曲や協奏曲、室内楽作品を多作したこの年、彼は弦楽四重奏や五重奏というジャンルにも力を注ぎます。五重奏曲という編成は、弦楽四重奏にもう一つの中声を加えることで和声の厚みや内声の独立性を高めることが可能になります。モーツァルトはこの特性を活かして、声部間の会話や和声的な細やかな色合いを作品に反映させました。
編成と音響の工夫
この作品は典型的な弦楽五重奏の編成(ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1)で書かれています。第二のヴィオラを加えることで、中低域に豊かな響きと柔らかな連結が生まれ、和声の推移や内声の独立した旋律をより細やかに表現できます。モーツァルトはこの編成を用い、単に低音を増やすだけでなく、内声の対話や対位法的な構成を巧みに配し、室内楽アンサンブルとしての『会話』を際立たせています。
楽章ごとの分析と聴きどころ
- 第1楽章(速いテンポ、ソナタ形式的)
冒頭は明快な主題提示から始まり、管弦楽的な広がりではなく室内楽ならではの緊密さが印象的です。主題の動機は分かりやすく、導入部から内声の対話が活発に行われます。展開部では短い動機を分割・変形して各声部へ受け渡すことで緊張感を作り、再現部では再び和声的な安定へ戻ります。モーツァルトらしい均整の取れたフレーズ処理と、五声のバランス感覚が光ります。
- 第2楽章(メヌエットとトリオ)
古典派の典型に従ったメヌエット楽章は、舞曲特有のリズムと優雅さを保ちつつ、トリオでは対照的な質感や調性感の転換が用意されています。五重奏という編成により、メヌエットの中でも内声が独立して小さな対話を展開できるため、単なる装飾以上の構造的意味が生まれます。ここでもヴィオラ群の活躍が際立ち、全体の色彩を引き締めます。
- 第3楽章(緩徐楽章)
緩やかな楽章では歌謡的な主題が導かれ、表情豊かなカンタービレが中心になります。モーツァルトは単純な旋律美だけでなく、和声の微妙な移ろいと内声の装飾的役割を用いて、短いフレーズの中に深い感情の揺らぎを織り込みます。この楽章は演奏者間の音色のバランスやフレージングの統一が特に求められる部分で、良い演奏だとその密やかな感動が伝わってきます。
- 第4楽章(終楽章)
終楽章は軽快でリズミカルな性格を持ち、しばしばソナタ形式やロンド風の構成要素を含みます。ここでは対位法的な応答や短いモティーフの反復が全体を推進し、曲の締めくくりとしてエネルギー感を高めます。五重奏の各声部がフレーズを分け合い、最後に調和的な結びへと導く手腕が冴えます。
作風的特徴と影響
本作には、単に若書きの技巧を示すだけでなく、形式的均整と表情の幅を両立させるモーツァルトの成熟しつつある作曲観が表れています。特に中声部(ヴィオラ群)の役割を重視する点は、彼が五重奏という編成の可能性を深く理解していたことを示します。影響源としては、同時代のイタリアやドイツの室内楽伝統、さらにはザルツブルクやウィーンで聞かれた諸作曲家の技法が考えられますが、モーツァルト自身の独自の清澄な旋律処理と和声感がそれらを超越している点が特長です。
演奏と解釈のポイント
この五重奏を演奏する際の重要点は、声部間の均衡とフレージングの統一です。ヴィオラを2本有することから中声が厚くなりがちですが、低弦(チェロ)と高弦(ヴァイオリン)の間で透明性を保つことが求められます。また、モーツァルト特有の「呼吸」を反映させるテンポの微妙な柔軟性、アーティキュレーションの明確さ、そしてダイナミクスを適切に用いることが、古典的な清澄さと情感を両立させる鍵となります。ピリオド奏法と近代的な楽器のどちらでも解釈の幅があり、それぞれに特色ある響きが得られます。
受容と位置づけ — 初期五重奏群の一環
K.174はモーツァルトの弦楽五重奏作品群の端緒をなす作品として評価されます。後年の大作(1780年代の弦楽五重奏など)に比べ派手さは控えめですが、素材の扱い方や室内楽的な会話の構築は明らかに成熟の兆しを示します。演奏会や録音でも取り上げられることがあり、室内楽レパートリーの中で手堅く愛される作品です。若き日のモーツァルトの深化過程を知る上でも重要な資料的価値を持ちます。
おすすめの聴きどころ(まとめ)
- 第一楽章:主題の提示と内声の扱いに注目。短い動機の受け渡しが曲を牽引する。
- メヌエット:舞曲の優雅さとトリオの対照的表情を比較して聴く。
- 緩徐楽章:歌うような旋律線と和声的な色合いの変化を味わう。
- 終楽章:リズムの推進力と声部間の掛け合いがもたらす高揚感を楽しむ。
楽譜と校訂版について
スコアは複数の版が存在しますが、現代の演奏では信頼できる校訂版(新モーツァルト全集や主要な楽譜出版社の校訂)を使用することが推奨されます。インターネット上ではパブリックドメインとして自筆譜や古い版が閲覧できる場合もあり、初期稿の流れや異稿を比較することで作曲当時の解釈へ深みを加えることができます。
結び — 若き天才の室内楽観
弦楽五重奏曲第1番 K.174 は、若きモーツァルトが既存の様式を学びつつ自身の室内楽的表現を模索した成果を見ることができる作品です。重厚さと透明感を兼ね備えた編成を活かし、内声の充実や対位法的処理を通じて、聴き手に豊かな音楽的会話を提示します。モーツァルトの成長過程を辿るうえで味わい深く、演奏・鑑賞双方において発見のある一曲です。
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参考文献
- IMSLP: String Quintet No.1, K.174 (Mozart, Wolfgang Amadeus)
- Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart — 作曲年代・生涯に関する概説
- Oxford Music Online / Grove Music Online — Mozart関連項目(要購読)
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