モーツァルト 弦楽五重奏曲第6番 K.614(変ホ長調)を深掘り:晩年の成熟と温度感を聴く
モーツァルト:弦楽五重奏曲第6番 変ホ長調 K.614(1791) — 概要と位置づけ
弦楽五重奏曲第6番 変ホ長調 K.614(1791)は、モーツァルトが残した六つの弦楽五重奏曲の最後を飾る作品であり、彼の室内楽の到達点のひとつと評価されます。標準的な弦楽四重奏(2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)にもう一人のヴィオラを加えた編成は、豊かな中音域を得るための工夫で、K.614はその可能性を最も成熟した形で示しています。1791年はモーツァルトの創作活動が非常に多彩かつ激烈だった年で、オペラ『魔笛』、クラリネット協奏曲、レクイエムなどと並んで室内楽の領域でも深い表現が結実した年でした。
歴史的背景と作曲の環境
モーツァルトは1770年代以来、たびたび五重奏曲に取り組んできましたが、K.614はその集大成とも言えます。この編成(2ヴァイオリン、2ヴィオラ、チェロ)は、ヴィオラの内声が充実することで和声の厚みと中低音の歌を可能にします。当時のウィーンのサロンや私的演奏会において、より親密で色彩豊かな室内楽が求められており、K.614はそのニーズに応えると同時に、作曲家自身の表現的成熟を示しています。
編成と音響的特徴
- 二つのヴィオラによる中低音の厚み:中音域に存在感を持たせることで旋律線が柔らかく包まれ、和声の動きがより深く感じられる。
- 声部間の均衡と対話:五声体的な書法により、各声部が独自の役割を持ちながらも重なり合い、しばしば室内カンタータのような合唱的効果を生む。
- 対位法的要素の導入:晩年の作品に見られる対位的な処理や細やかな装飾が、楽曲全体の立体感を高める。
楽曲構成と分析(概観)
K.614は典型的な四楽章構成をとり、各楽章が明快ながら深い音楽的意味を持っています。以下は各楽章の性格と聴きどころの概略です。
第1楽章(序奏的エネルギーとソナタ形式)
開始部は明るい変ホ長調の提示で、ソナタ形式における主題の扱いが巧みです。第1主題は歌うような開放感を持ち、第2主題は対照的に幾分内省的。展開部では中音域を担当するヴィオラ群が主導的にモティーフを展開し、和声の転回や斬新な転調で聴き手を引き込みます。再現部の扱いも単なる回帰ではなく、細部に装飾や声部間の入れ替わりが加わり、同じ主題でも異なる色彩を与えます。
第2楽章(緩徐楽章:歌と和声の深まり)
K.614の緩徐楽章は、非常に歌心に富んだ楽想が展開されます。二つのヴィオラが主体となって中声を歌わせることで、旋律が厚みを持ちます。ハーモニーは柔らかく時に陰影を帯び、経過部では短い対位法的な挿入が現れて情感を増幅させます。モーツァルト特有の『歌うような器楽』がここで最も明瞭に感じられます。
第3楽章(メヌエットとトリオ:古典的な雅と躍動)
メヌエットは古典的な舞曲形式を保ちながらも、リズムの微妙なズレや内声の装飾で洗練された味わいを作ります。トリオ部では編成の利点が生かされ、ヴィオラが旋律線を引き継いだり、対旋律を担ったりして色彩を変えます。舞曲の形式美と内省がうまく混ざり合う楽章です。
第4楽章(終楽章:精密さと解放感の融合)
終楽章はしばしばロンド風、あるいはソナタ・ロンドの要素を持つ構成で、活力に溢れています。主題は明快で親しみやすく、コントラストの効いたエピソードが繰り返し登場します。ここでもヴィオラ群は単なる伴奏にとどまらず、主題提示や対位に参加して曲全体の動きを牽引します。フィナーレは技巧的な切れ味とともに、穏やかな余韻を残して閉じられます。
演奏・解釈上のポイント
- バランスの取り方:中声(ヴィオラ)が豊かなため、ヴァイオリンが常に前面に出ると重心が高くなりすぎます。ヴィオラの音を活かす配置や音量配分が重要です。
- フレージングと歌わせ方:モーツァルトの歌心を表出するために、弧を描くフレーズ作りと適切な呼吸感(フレーズの区切り)が求められます。
- アーティキュレーション:装飾的なパッセージは軽やかさと明晰さを保ちつつ、内声が交錯する箇所では滑らかさを優先する判断がしばしば必要です。
- テンポ設定:古典派の透明さを保ちながら、感情表現の深みを損なわないテンポ選びが肝要です。速すぎると和声の響きが凡庸になり、遅すぎると古典的な躍動が失われます。
K.614の位置づけと聴衆へのメッセージ
この作品は、モーツァルトの室内楽が単なる形式的な洗練を越えて、より深い人間的な表現へと向かったことを示します。短い主題の扱い、対位法的な挿入、ハーモニーの微妙な色合い——それらは一見すると古典的な均衡の範囲内にあるものの、聴くほどに内面の充実を伝えてきます。演奏者に向けては協働の美学、聴衆に向けては精緻な音の対話を堪能することが提示されます。
おすすめの聴き方とレコーディングの楽しみ方
初めて聴く際は、楽章ごとに集中して聴き、特に中声の動き(ヴィオラのパート)を意識すると新たな発見があります。複数の録音を聴き比べることで、テンポ感、ヴィオラの音色・位置づけ、フレーズの作り方の違いが鮮やかに分かります。歴史的演奏(古楽器)と近代的な録音の比較も面白く、古楽器は透明な響きとナチュラルなアーティキュレーションで別の側面を見せます。
総括 — なぜK.614を聴くべきか
K.614は、外形的な美しさと内的な深みを兼ね備えた室内楽作品です。二つのヴィオラを生かした中低音の表現は、モーツァルトが声部の均衡にいかに心を砕いていたかを如実に示します。形式的には古典的でありながら、表情や和声の微細な揺らぎが聴き手の感受性を深く刺激します。室内楽ファンのみならず、モーツァルトの晩年の精神性に触れたいリスナーにも強く勧められる作品です。
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参考文献
- IMSLP - String Quintet in E-flat major, K.614 (Mozart)
- Wikipedia - String quintet (Mozart): String quintet in E-flat major, K.614
- AllMusic - String Quintet No. 6 in E-flat Major, K.614
- Neue Mozart-Ausgabe (Mozarteum) - String Quintet K.614
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