モーツァルト 弦楽四重奏曲第4番 K.157(1772-1773)徹底ガイド:成立背景から楽曲分析・演奏のポイントまで
作品の概観と成立
モーツァルトの弦楽四重奏曲第4番 ハ長調 K.157(1772-1773)は、彼の十代半ばにあたる時期の作品群に属します。一般に「ミラノ四重奏曲群」としてまとめられることもある初期の弦楽四重奏曲群の一つで、古典派の若き天才が弦楽四重奏というジャンルに取り組み始めた段階を示す重要な作品です。K.157は形式的には当時の弦楽四重奏の標準に従った四楽章構成をとりつつも、モーツァルト自身のメロディメーカーとしての個性と対位法的な工夫、そしてハ長調ならではの明るさと機能的和声が発揮されています。
歴史的背景:いつ、どのように書かれたか
この曲が作られた1772年から1773年は、モーツァルト(1756-1791)がまだ十代で、父レオポルトと共にイタリア巡業やザルツブルクでの活動を続けていた時期です。オペラや宗教曲、協奏曲の作曲で評価を高めていた彼ですが、室内楽、とりわけ弦楽四重奏というジャンルはハイドンや当時のウィーン・ミラノでの作品群に触発されつつ、自分の技法を磨く場でもありました。初期の四重奏曲群は規模的に短く、演奏時間も後年の大作に比べればコンパクトです。しかし、その中に現れる主題の明快さや展開部での転調処理などは、後の成熟した作品へとつながる萌芽が見て取れます。
編成と演奏時間
編成は標準的な弦楽四重奏(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)。演奏時間は録音や解釈にもよりますが、おおむね15分前後とされ、モーツァルトの初期四重奏のなかでは比較的短い部類に入ります。各楽章は簡潔でありながら構成は明瞭で、奏者間の対話とバランスが作品の魅力を決定づけます。
楽章構成と音楽的特徴(詳細分析)
典型的な古典派ソナタ形式を基盤としつつ、モーツァルト特有の歌うような主題が登場します。第1主題は明快なリズムと歌謡性を備え、伴奏の内声に短い対位の動機が繰り返されることで、単なる旋律の提示以上の層を作り出します。展開部では短調への転調や主題断片の分割・模倣が行われ、緊張を高めた後に主調へと帰結します。古典派の機能和声に基づいた明瞭な流れが聴き取りやすい一方、楽器間の対話的処理により室内楽ならではの親密さが表現されています。
緩徐楽章では歌謡的なメロディが第1ヴァイオリンに委ねられることが多く、内声とチェロが和音進行を支える形が典型です。モーツァルトは短い装飾や装飾的反復を用いながらも簡潔さを保ち、陰影のある表情を引き出します。和声的に見ると近親調への短い移行や第II主題の対比的提示があり、古典的均衡感と感情表現が両立しています。
古典派の伝統に則った舞曲楽章ですが、モーツァルトは簡潔なフレーズ構成の中でリズムのオフセットや内声の独立性を生かし、単純な舞曲以上の精緻さを与えます。トリオでは調性の変化やテクスチャの薄化が行われ、全体のコントラストを強めます。演奏においてはダンス的なグルーヴと同時に、フレージングの滑らかさが鍵になります。
終楽章は活気に満ちたリズムと短い主題の反復・展開で構成され、作品全体を軽やかに締めくくります。ロンド形式的要素を含むことが多く、主題の回帰とエピソードの挿入が聴きどころです。第1楽章に比べ構造は単純化されつつも、四重奏としてのまとまりやアンサンブル感が最も顕著に示されます。
作曲技法と様式的特徴
K.157は古典派初期の語法を踏襲しつつ、若年のモーツァルトがすでに示していた旋律の豊かさ、対位法的思考の芽生え、そして楽器の有機的な会話を特徴とします。第1、第4楽章のソナタ形式やロンド的性格、メヌエットの舞曲性など、形式感は明晰であり、和声進行は機能和声に忠実です。とはいえ、モーツァルトの感性によって主題が歌い上げられる点、また短いモチーフが分割・模倣されることで曲全体に統一感が生まれる点は特筆に値します。
演奏上のポイント(解釈と実践)
バランスの取り方:初期作品ゆえに各声部がはっきりと独立している場面が多い。第1ヴァイオリンの旋律を立てつつも内声(第2ヴァイオリン、ヴィオラ)の対話を潰さないようにすること。
テンポとアゴーギク:舞曲性のある楽章では躍動感を保ちつつもリズムの柔軟性を持たせ、歌う楽章ではフレージングで自然な息継ぎを作る。
ヴィブラートと装飾:歴史的演奏慣習を踏まえるなら、過度なヴィブラートは控えめに。装飾は楽曲の文脈に応じて慎重に用いる。
アンサンブルの聴き合い:短い動機の模倣や応答が多いので、互いの音をよく聴いて即座に反応することが求められる。
この曲を聴くためのガイド
初めてこの曲に触れる聴き手は、まず第1楽章の主題の明瞭さとその展開に注目してください。短い楽章ごとの対比を意識して聴くと、モーツァルトがいかに短い素材から多様な表情を引き出しているかがわかります。メヌエットでは舞曲的リズムに身体感覚を合わせ、緩徐楽章では旋律の息遣いを追うと、作曲家の繊細さに気づきます。
レパートリーとしての位置づけと価値
K.157は全集的な観点では初期作品に分類されるため、しばしば後期のハイドン四重奏曲群やモーツァルトの『ハイドンへの6つの四重奏曲』ほど注目されないことがあります。しかし、若きモーツァルトの様式習得過程や、旋律造形力、室内楽的対話の初期形態を理解するうえで重要な資料です。演奏会プログラムに組み込めば、聴き手に作曲家の成長の過程を示す良い対比を提供します。
おすすめの聴きどころ(短いチェックポイント)
第1楽章冒頭の主題提示:旋律の形と伴奏の動きの関係を確認する。
展開部での転調とモチーフの断片化:どのように緊張を作るかを聴く。
緩徐楽章の開始メロディ:フレージングの呼吸を追う。
メヌエットのリズムのズレと内声の独立性:舞曲以上の表現を探す。
終楽章での主題回帰:ロンド的回帰とエピソードの対比を確認する。
演奏史と録音に関して(概要)
この作品はモーツァルトの初期四重奏曲群の一部として多くの四重奏団に取り上げられてきました。演奏解釈は演奏年代や楽器(モダン弓・モダン楽器 vs. 古楽器)によって差が出やすく、歴史的演奏実践を採る団体はテンポやアーティキュレーションで古典派的な透明さを重視する傾向があります。一方でモダン楽器の伝統的解釈では柔らかい音楽づくりと豊かな音色で曲の歌心を前面に出す録音も多く存在します。
まとめ:K.157を聴く意義
モーツァルトの弦楽四重奏曲第4番 K.157は、短いながらも作曲家の早熟な才能と古典的様式の理解が結実した作品です。旋律の美しさ、対話的な構成、そして簡潔ながら効果的な和声処理は、モーツァルトが後年に至るまで洗練させていく要素の原型を示しています。室内楽入門のレパートリーとしても、作曲史の流れを辿る教材としても有益な一曲です。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- IMSLP: String Quartet, K.157(スコア)
- Neue Mozart-Ausgabe / Digital Mozart Edition(モーツァルト全集デジタル)
- Encyclopaedia Britannica: Mozart — String quartets(総説)
- Oxford Music Online / Grove Music Online(参考文献・解説)
投稿者プロフィール
最新の投稿
ビジネス2025.12.29版権料とは何か|種類・算定・契約の実務と税務リスクまで徹底解説
ビジネス2025.12.29使用料(ロイヤリティ)完全ガイド:種類・算定・契約・税務まで実務で使えるポイント
ビジネス2025.12.29事業者が知っておくべき「著作権利用料」の全体像と実務対応法
ビジネス2025.12.29ビジネスで押さえるべき「著作権使用料」の全知識――種類、算定、契約、税務、リスク対策まで

