モーツァルト 弦楽四重奏曲第17番 K.458「狩」──背景・楽曲分析・聴きどころ(完全ガイド)
はじめに — 「狩」と呼ばれる名作
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 K.458(通称「狩」)は、1784年に作曲された、モーツァルトの代表的な弦楽四重奏の一つです。しばしば「ハイドンセット」と総称される6曲の中の一本であり、作曲家ジョセフ・ハイドンに捧げられたことから、その影響と対話性がしばしば語られます。「狩」の愛称は、狩猟のファンファーレを想起させるような明るく朗々とした主題やリズム感に由来すると言われています。
歴史的背景と成立
モーツァルトがこの作品を作曲したのは1784年、ウィーン滞在中です。1782年から1785年にかけて作られた6曲(K.387, 421, 428, 458, 464, 465)は、総じて「ハイドンに捧げる弦楽四重奏」として知られており、室内楽の表現と構成技術の新境地を示しました。ハイドンの弦楽四重奏曲に見られる対位法や動機の発展を受けつつ、モーツァルト独自の旋律美と歌うような器楽的語法が融合しています。
楽曲構成(楽章一覧)
- 第1楽章:Allegro(ソナタ形式に基づく明快な始まり)
- 第2楽章:Adagio(歌のような緩徐楽章)
- 第3楽章:Menuetto(古典的な舞曲の形式)
- 第4楽章:Allegro assai(活発な終楽章)
4楽章構成は古典派の標準に則っていますが、それぞれの楽章における声部の独立性と対話性、そしてモーツァルト特有の旋律的魅力が際立ちます。
楽章ごとの深堀り分析
第1楽章:Allegro
冒頭は明朗で雄大な主題から始まります。しばしば「狩り」を連想させる跳躍や短調のアクセント、リズミカルな切れ味が印象的で、主題素材が細かく展開される点はハイドンへの応答とも読めます。ソナタ形式の提示部では、第一主題の動機が提示された後、調性の対比とともに第二主題が登場し、以降の展開部でこれらの素材が巧みに変容されます。モーツァルトはしばしば声部間の掛け合いで短いフレーズを再配分し、弦楽四重奏という編成の会話性を最大限に活かします。
第2楽章:Adagio
緩徐楽章は深い歌心に満ち、第一ヴァイオリンに語りかけるような旋律が印象的です。伴奏部は和声的に安定しつつ、内声に繊細な動きを置くことで表情を豊かにします。モーツァルトはこの楽章で単純な伴奏と旋律の対比を巧みに使い、聴き手に静謐さと内省的な感情を喚起させます。
第3楽章:Menuetto
古典的なメヌエットは形式的には整っているものの、リズムやアクセントで遊び心を見せる箇所があり、トリオ部ではより柔らかく歌う旋律が登場します。ここでも各声部のバランスが重要で、メロディーと伴奏を分担する配置が曲の「舞曲感」を生み出します。
第4楽章:Allegro assai
終楽章は活力に満ちたフィナーレで、しばしばロンド風の性格を帯びます。主題が回帰するたびに微妙に変化し、技術的な受け渡しや対位法的な処理が盛り込まれます。ここでも「狩」を連想させる明るい色彩が最後まで持続し、全曲を締めくくります。
演奏・解釈のポイント
- 声部の会話性を重視する:モーツァルトの四重奏は“合奏”というより“対話”に近いため、各声部の独立した線を明確にすること。
- アゴーギクとフレージング:旋律線の歌わせ方、呼吸の取り方で楽曲の表情が大きく変わる。特に第2楽章は歌い手としてのヴァイオリン表現が鍵。
- ダイナミクスの微細化:古典派の様式を尊重しつつ、微妙なクレッシェンド/デクレッシェンドで有機的な流れを作る。
- テンポ感の自由度:急速すぎると対話性が損なわれる。跳躍やユニゾンの場面でテンポ感を揃えること。
- 歴史的奏法の選択:ピリオド・アプローチ(古楽器)とモダン楽器アプローチでは音色・アンサンブルの狙いが異なるため、録音や舞台に応じた解釈が重要。
聞きどころガイド(初めて聴く人へ)
まず第1楽章の冒頭主題をよく聴いてください。明快な主題がその後どのように分解・再配置されるかを追うと、モーツァルトの作曲術が見えてきます。第2楽章ではヴァイオリンの歌いまわしと内声の柔らかい支えに耳を向け、第3楽章では舞曲のリズム感を感じ取りましょう。終楽章ではフレーズの呼応とエネルギーの推移を追うと、曲全体のまとまりが実感できます。
主要録音と比較のヒント
演奏スタイルの違いを楽しむための代表的な演奏例を挙げます。モダン楽器ではエモーソン弦楽四重奏団(Emerson Quartet)、アマデウス弦楽四重奏団(Amadeus Quartet)、タカーチ四重奏団(Takács Quartet)などが評価されています。古楽(ピリオド)志向ではクヴァルテット・モザイク(Quatuor Mosaïques)などが興味深い比較対象です。録音によりテンポ感や音色の扱い、ダイナミクスの幅が異なるため、複数の録音を比べて聴くことをおすすめします。
モーツァルトとハイドンの対話
K.458を含む6曲の四重奏曲は、ハイドンへの敬意と同時に創造的な応答を示しています。ハイドン的な動機の発展技法や対位法的処理を取り入れつつ、モーツァルトはより歌的で器楽的な旋律表現を付加しました。結果としてこれらの四重奏は、古典派室内楽の到達点の一つと評価されています。
まとめ
弦楽四重奏曲第17番 K.458「狩」は、明快な主題、深い歌心、精緻な構成が見事に結びついた作品です。ハイドンへの敬意を基盤にしながらモーツァルト自身の声を強く打ち出したこの曲は、室内楽の持つ対話性と表情の幅を味わうのに最適なレパートリーです。演奏・鑑賞の両面で繰り返し楽しめる名作といえるでしょう。
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参考文献
- IMSLP: String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 (score and parts)
- Wikipedia: String Quartet No. 17 (Mozart)
- Neue Mozart-Ausgabe (Mozarteum) — 楽譜情報
- Encyclopaedia Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart (biography and works)
- AllMusic: String Quartet in B-flat major, K.458 'Hunt' — recording guide and notes
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