モーツァルト:フルート四重奏曲第2番 ト長調 K.285a(1778)――成立・構成・演奏上のポイントを読み解く
作品概説
フルート四重奏曲第2番 ト長調 K.285a は、フルートと弦三重奏(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)による小編成の室内楽作品として知られる。一般にはモーツァルト作と伝えられ、1777–78年にかけてのマンハイム/パリ滞在期に成立したとされる。楽器編成の親しみやすさと旋律の歌いやすさから、古典派の室内楽レパートリーの中でも人気のある小品である。
作曲の背景と成立事情
1777年から1778年にかけてのモーツァルトは、マンハイムやパリを経て新たな楽壇や依頼主と接する機会が増えた時期である。特にオランダ出身の音楽愛好家フェルディナント・ド・ジーン(Ferdinand De Jean)からの委嘱はよく知られており、フルート協奏曲やフルート四重奏曲の作曲と関連づけられている。K.285a はそうした委嘱群のうちの一曲と考えられており、手稿や出版史からおおむね1778年頃の作曲と推定されている。
ただし、K.285a に関しては番号付けや写本・出版史の影響で扱いが流動的であり、版によっては K.285 と関連づけられたり、補遺(a, b 等)で表記されることがある。主要なカタログはケッヘル目録(Köchel)であり、そこで K.285a として扱われているため現在の便宜的な呼称となっている。
編成と演奏時間
編成:フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。演奏時間は約12〜16分程度とされ、演奏者やテンポ設定により変動する。室内楽的な扱いで、フルートが主に旋律線を担う一方で、弦楽器は和声的支えだけでなく対位的な応答や伴奏上の装飾を担う。
楽曲構成と簡潔な分析
一般的に三楽章形式(速—緩—ロンド)をとることが多い。各楽章の性格と特徴を以下に示す。
- 第1楽章:アレグロ(ソナタ形式)
鮮やかなト長調で始まる提示主題は、歌うようなフルートの旋律と弦の伴奏が対話的に進行する。古典派のソナタ形式に沿いつつも、フルートの特色を活かした装飾や間の取り方が特徴。展開部では主題の断片や転調を通じて緊張が生まれ、再現部で安定に戻る。調性感は明快で、モーツァルト特有の旋律美と透明な和声進行が聴きどころである。
- 第2楽章:アダージョ(またはアンダンテ)
短い緩徐楽章は歌唱性を重視した設計で、フルートのカンタービレなラインが中心。弦は柔らかな和声と細やかな対話で支え、モーツァルトの感傷的でありながら過度に装飾しない抑制された美が表れる。装飾の扱い(トリルやモルデント等)は時代演奏の指針を踏まえて処理すると効果的である。
- 第3楽章:ロンド(アレグロ)
躍動感のあるロンド形式で締めくくられる。主題の反復とエピソード的挿入部のコントラストで動きが生まれ、終結に向けて活気が高まる。フルートの技巧的なパッセージや弦との掛け合いが楽章を盛り上げる。
主題と楽器間の役割分担
この種のフルート四重奏では、フルートがしばしば主旋律を担うが、モーツァルトは弦の能動性も重視している。特に第1楽章やロンド部では、ヴァイオリンがフルートと二重唱的に主題を分かち合ったり、ヴィオラ・チェロがリズムやハーモニーにおいて独立した動きを見せることがある。したがって演奏においては弦が単なる伴奏に終始しない、室内楽的な対話意識が重要となる。
演奏上の注目点(解釈と実践)
- フレージングと呼吸:フルートのフレーズは歌うように処理し、呼吸位置は音楽的なフレーズ区切りに合わせる。
- バランス:フルートと第1ヴァイオリンが同音域で重なる場面では、音量調整と色彩(トーン)の共有が必要。弦は常に柔らかくとも輪郭を失わないように。
- 装飾とカデンツァ:原典にない派手な即興的カデンツァは避け、古典派の節度ある装飾を心がける。適度なモダレーションや小さなトリルが楽曲には沿う。
- テンポの選択:各楽章のテンポは作品の透明感を損なわないことが優先。過度に速すぎると対話性が失われるため注意する。
- ピリオド奏法の選択肢:古楽器や古典的な発音を採ることで、当時の音色やアーティキュレーションの特色を再現できるが、モダン楽器でも表現の幅は十分にある。
版と校訂の問題
K.285a は手稿の現存状況や初版の流通により、版ごとに細かな差異が見られることがある。常備される編集は、信頼のおけるウルトラテキスト(Urtext)版や学術版(Neue Mozart-Ausgabe など)を参照するのが望ましい。これらの版はモーツァルトの筆写譜や初期写本、当時の慣習を元に装飾や反復、スラーなどの表記を整理している。
受容と録音史(概説)
フルート四重奏という編成自体は18世紀のサロン音楽や愛好家層に支持され、K.285a もコンサートや教育的な場で広く演奏されてきた。20世紀以降、フルートの名手たちによる録音が増え、古典派レパートリーの定番曲として定着している。録音を比較する際は、テンポ感、アーティキュレーション、装飾の有無、ピッチ(A=430Hz 等)などの解釈差に注目すると面白い。
作品の位置づけと魅力
K.285a は劇的大作ではないが、モーツァルトのメロディメーカーとしての真価が窺える洗練された小品である。短い時間の中に歌心、機知、古典様式の均整が凝縮されており、フルート奏者と弦楽器奏者のアンサンブル能力を試す好曲と言える。伴奏に回されがちな弦の役割にも魅力的なパートが配されているため、室内楽としての完成度も高い。
実践的なおすすめ
- 練習法:フルートはスラーの中での息の流れを意識し、弦は対旋律の独立感を磨く。
- アンサンブル練習:テンポをゆっくりから合わせ、フレーズ終端の処理とダイナミクスの一致を重点的に確認する。
- 演奏会プログラミング:モーツァルトの他の室内楽(例えばフルート協奏曲や弦楽五重奏など)と組み合わせると聴衆に親しみやすい構成になる。
結び
フルート四重奏曲ト長調 K.285a は、モーツァルトのサロン音楽における小品ながら、古典派の美意識と室内楽的な対話性が凝縮された佳作である。演奏・鑑賞の双方において、細部の表現やアンサンブルの均整が楽しめる作品としておすすめできる。
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参考文献
- IMSLP: Flute Quartet in G major, K.285a (Mozart)(楽譜・写本資料)
- Neue Mozart-Ausgabe (Mozarteum Foundation)(学術版・校訂情報)
- Oxford Music Online / Grove Music Online(作曲家と作品に関する総説)
- Köchel catalogue(ケッヘル目録) - Wikipedia(作品番号付与の歴史的背景)
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