モーツァルト:フルート四重奏曲第3番 ハ長調 K. Anh.171(K.285b)──成立・分析・聴きどころ
作品概要と成立の背景
モーツァルトのフルート四重奏曲第3番 ハ長調 K. Anh.171(K.285b)は、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという編成のために書かれた小品群の一つに位置づけられます。成立は1777–78年頃、モーツァルトがマンハイムおよびパリを訪れた時期にあたります。これらの四重奏曲群は当時のフルート奏者フェルディナント・ド・ジャン(Ferdinand De Jean, 表記に揺れあり)からの注文に関連していることが知られており、軽やかな室内合奏曲として市民層のサロン音楽需要に応える形で作曲されたと考えられます。
作品番号については、K. Anh.(付録)に収められているように、伝承や自筆資料の不完全さから確定的な番号づけに揺れがあります。K.285系統(K.285, K.285a, K.285b 等)と関連付けられる場合もあり、現代の版や目録によっては K. Anh.171 と表記されたり、K.285b の表記が見られることがあります。こうした番号の差異は、19世紀以降の作品カタログ化の歴史に起因するもので、作品の成立年代や真作性に関する学術的検討が続いています。
編成と様式
編成はフルート独奏と弦楽三重奏(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)という古典派の典型的なフルート四重奏の編成です。素材は比較的軽快で歌謡的、均整の取れたフレーズ、分かりやすいハーモニー進行、透明な対位法的処理が特徴です。モーツァルトの他のサロン用小品と同様に、旋律の優雅さと即興的装飾の余地が残されており、演奏者による表情付けが作品の魅力を大きく左右します。
楽章構成と音楽の特徴(概要)
本作は一般に3楽章構成(速-緩-速)で、古典派の室内楽に見られる典型的な流れを持ちます。以下は楽章ごとの聴きどころの概説です。
- 第1楽章(速い楽章): 典型的なソナタ形式の性質を持ち、主題提示部ではフルートが中心に立ち、弦が対話的に支えます。主調ハ長調の明るさを活かした主題と、属調への短い展開・回帰が見られ、簡潔な再現部へと戻ります。技巧的過ぎず旋律重視の書法で、古典的均整感が際立ちます。
- 第2楽章(緩徐楽章): 歌謡的で親密な性格を持つ緩徐楽章は、しばしばアリアのようにフルートが長い歌いまわしを担います。装飾音やアゴーギクの扱いにより演奏表現が大きく変わる箇所があり、表情付けの自由度が高い点が魅力です。和声進行は穏やかで、短い転調や同主調内の色彩変化が効果的に用いられます。
- 第3楽章(終楽章): ロンド風もしくはソナタ・ロンドの性格を持つことが多い終楽章は、リズミカルで生き生きとした主題が繰り返され、間に挿入される副主題や対位的発展が曲全体に軽快さと統一感を与えます。ダンス的なニュアンスを帯びることもあり、曲の締めくくりとしての快活なエネルギーを提供します。
和声と対位の扱い、作曲語法のポイント
本曲では古典派らしい機能和声の明確さと、フレーズごとの安全な終止—継続選択が読み取れます。主調と属調のやり取り、二次的和音による短い色合いの変化、順次進行やシーケンスを多用した簡潔な発展が主たる構造となっています。対位法的な扱いは控えめで、全体としては旋律の明快さを優先する書法です。
演奏上の注意点(奏者と聴衆のために)
- フルートの扱い:当時のフルート(一本鍵の古典派フルート)と現代フルートでは音色や運指が異なるため、バロック〜古典派の弾き方を意識した息づかいとヴィブラートの節制が有効です。装飾は譜面に示されていない即興的な装飾を加えてもよく、様式に即した控えめな装飾が曲想に合います。
- 室内楽的バランス:フルートが主旋律を担う場面が多い一方で、弦楽器の支えは和声進行やリズム面で重要です。弦が単に伴奏に徹するのではなく、色彩感や反応を示すことで会話的な演奏が生まれます。
- テンポと表現:第1楽章はやや軽快に、第2楽章は歌うように、第3楽章は躍動感を持ってまとめるのが一般的ですが、楽句の均整や句末の処理で個々の解釈が光ります。
受容史・真作性の問題
本作がK. Anh.(付録)に収められていることからも分かるように、史料の不完全さや写本の伝承過程により、真作性については慎重な検討が続いてきました。20世紀以降の研究でモーツァルト作品として扱われることが多い一方、版によっては注記が付されることがあります。演奏レパートリーとしては広く親しまれており、サロンや教育的なレパートリーとしての位置づけが強い作品です。
代表的な録音・版について
この種の作品は多くの室内楽団体やソロ奏者によって録音されており、古楽器編成(ピリオド奏法)による解釈と現代楽器による解釈で音色やアプローチが大きく異なります。楽譜は国際楽譜ライブラリ(IMSLP)などで原典写本や校訂版にアクセスできるほか、現代の校訂版(出版社によるUrtext版など)を用いるのが無難です。
聴きどころのまとめ(初めて聴く人へ)
・全体としての明るさと均整の取れたフレーズ感を楽しむこと。 ・フルートの歌い回しと弦の対話的伴奏に注意し、特に第2楽章ではフルートの表情変化を味わうこと。 ・終楽章のロンド風主題の戻りを追い、モーツァルト特有の簡潔な動機操作の妙を感じてください。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- IMSLP: Flute Quartet in C major, K. Anh.171 (Mozart)(楽譜・写本資料)
- Digital Mozart Edition(Neue Mozart-Ausgabe)(モーツァルト作品のデジタル版総覧)
- Encyclopaedia Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart(伝記・活動史の概説)
- Oxford Music Online / Grove Music Online(モーツァルト研究の総覧、要登録)
投稿者プロフィール
最新の投稿
ビジネス2025.12.29版権料とは何か|種類・算定・契約の実務と税務リスクまで徹底解説
ビジネス2025.12.29使用料(ロイヤリティ)完全ガイド:種類・算定・契約・税務まで実務で使えるポイント
ビジネス2025.12.29事業者が知っておくべき「著作権利用料」の全体像と実務対応法
ビジネス2025.12.29ビジネスで押さえるべき「著作権使用料」の全知識――種類、算定、契約、税務、リスク対策まで

