モーツァルト「ホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407 (K.386c)」──1782年の名作を深掘りする

はじめに

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの「ホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407(旧表記 K.386c)」(作曲年 1782年)は、ホルンと弦楽四重奏(2つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)から成る室内楽作品で、モーツァルトがホルンをソロ楽器として際立たせた数少ない例の一つです。本稿では作曲の背景・編成・演奏・形式・楽器技術的特徴・受容史などを丁寧に解説し、楽曲の魅力を多角的に読み解きます。

歴史的背景と作曲の経緯

Köchel目録では K.407 と記載され、作曲年は1782年と一般にされます。モーツァルトは同時期にウィーンで活動しており、宮廷や私的なサロンでの演奏機会が多く、特に名手たちとの協演のために室内楽作品を提供していました。本作は当時の名ホルン奏者ジョゼフ・ロイトゲープ(Joseph Leutgeb)を念頭に置いて書かれたとされることが多く、彼の名を冠したモーツァルトのホルン作品群(協奏曲を含む)と同じ系譜に位置づけられます。

編成と楽器—ナチュラル・ホルンの特性

編成はホルン(変ホ長調のホルン)と弦四重奏。18世紀末のホルンは現在のバルブ式ホルン(ヴァルヴ=ホルン)ではなく、ナチュラル・ホルンが主で、クローク(管長の差し替え)で調を変え、倍音列に頼る演奏法が基本でした。そのため作曲家はホルンの自然倍音系列で演奏しやすい音域やフレーズを考慮して書き、半音や複雑な内声の扱いは弦楽器側で補うことが多くありました。これが本作におけるホルンの「歌う」性質と、しばしば穏やかなリズムに収まる理由の一つです。

楽曲構成(概要)

  • 第1楽章:Allegro(変ホ長調)— ソナタ形式に基づく明快な楽想。ホルンは主題の提示や装飾的な応答を担い、弦が伴奏と対位を行う。
  • 第2楽章:Romanze(LarghettoまたはAdagioに準ずる)— 歌謡的で内省的。ホルンの表情豊かな旋律が中心となり、弦は静的かつ支えとなる和声を提供する。
  • 第3楽章:Rondo(Allegro)— 軽快なロンド主題が何度も返り、コントラストあるエピソードが間に挟まれる。終楽章らしい開放感と技巧性が示される。

所要時間は演奏解釈にもよりますが、概ね約18〜25分程度が標準です。

形式と楽想の特徴(各楽章の深掘り)

第1楽章は、ホルンの自然倍音的な性質を生かしつつ、弦楽器と密な対話を行うソナタ形式。主題は明るく朗らか、ホルンがテーマ提示に関与する場面では「独奏的性格」が出ますが、同時に弦楽器群が能動的に動き回り、室内楽としてのアンサンブル性を強く保っています。展開部では調性の変化を使った対位法的処理や転調があり、ホルンの登場が局面を色づけます。

第2楽章のロマンツァは、しばしば歌唱的な独唱のように聴こえ、ホルンの中低音域を生かした温かみのある旋律が中心。装飾は控えめで、悲喜の幅を穏やかに移動する構成です。弦は密やかな和音と分散和音で支え、しばしばホルンのラインに対する応答や対旋律を与えます。

第3楽章のロンドはモーツァルトらしい機智とリズム感に満ち、主題の反復ごとにヴァリエーション的要素や管弦楽的な対比が導入されます。ここではホルンの技巧的なパッセージも見られ、終結部へ向けてテンションが高まります。

演奏上のポイントと歴史的演奏慣習

現代のヴァルヴ・ホルンで演奏する場合、音域や音色の自由度が高いため、より流麗で装飾的な解釈が可能です。一方、歴史的演奏(HIP)やナチュラル・ホルン使用の演奏では、倍音列の制約が音楽的表情に直接影響し、フレーズ作りや音価の取り方に独特の呼吸感と抑制が生まれます。選択は解釈の方向性を決める重要な要素です。

アーティキュレーションでは、ホルンと弦がしばしば互いに主導権を交換するため、バランスとダイナミクスの綿密な調整が必要です。特に第2楽章では弱奏での音色の温度差が情感を左右します。

楽器技術面の工夫と作曲術

モーツァルトはホルンの物理的制約を理解しており、自然倍音で出しやすい音を多用しながらも、和声の中での機能や旋律的な流れを損なわないよう配慮しています。また、弦楽器に対してホルンを単なる伴奏役とするのではなく、室内楽的対話の相手として扱った点は評価に値します。結果として、技巧と音楽表現が両立した小品に仕上がっています。

受容と位置づけ

モーツァルトのホルン五重奏曲は、彼のホルン作品群(協奏曲群や協奏的な作品)と合わせて、18世紀末のホルン音楽を代表するレパートリーの一角をなします。演奏会や録音の機会も多く、ホルン奏者のレパートリーとして古典派の室内楽における重要作と見なされています。また、弦楽四重奏とホルンの「対話」という観点から、室内楽愛好家にも高い人気があります。

おすすめの聴きどころ

  • 第1楽章の提示部でホルンと第1ヴァイオリンがどのように主題を共有するかを追う。
  • 第2楽章ではホルンの音色の変化(中低域の温かさ)と弦の繊細な支えに注目する。
  • 第3楽章ではロンド主題の反復ごとに生じる色彩の違い(テンポ・強弱・装飾)を比較して楽しむ。

結び — なぜ今この作品を聴くべきか

K.407はモーツァルトの語法が凝縮された室内楽作品であり、豪奢さではなく「親密な会話」によって聴き手に訴えかけます。ナチュラル・ホルンの温度感、弦楽との対話、古典派の均衡美が見事に融合しており、初心者から演奏家まで幅広い層に新たな発見をもたらすでしょう。

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参考文献