モーツァルト:ディヴェルティメント 変ロ長調 K.137 — 若き天才の弦楽作品を深掘りする

作品概要

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの「ディヴェルティメント 変ロ長調 K.137(K.6.125b)」は、1772年に作曲された若き日の弦楽作品群の一つです。しばしば同年に書かれたK.138、K.139と並んで論じられ、いずれも弦楽四重奏(一般には2つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)編成で演奏されることが多い写譜が残っています。これらはモーツァルトが16歳前後の頃、ザルツブルクに在住していた時期の作品で、後の弦楽四重奏や弦楽五重奏に見られる成熟した室内楽技法への端緒を示しています。

歴史的背景と成立事情

1770年代初頭のモーツァルトは、イタリアやザルツブルクでの活動を経て、すでに高度な作曲技法を身に付けていました。1772年に作曲されたK.137〜139は、宮廷や社交界での演奏需要に応えた室内楽・ディヴェルティメント群の一部であり、気軽な娯楽音楽としての性格を持ちながらも、作曲技術と音楽的想像力が凝縮されています。

当時の“ディヴェルティメント”というジャンルは、必ずしも厳密な形式に縛られない軽快な室内楽・舞曲的作品を指し、演奏場面も屋外の行列や宮廷の社交など多様でした。モーツァルトはこの伝統を踏まえつつ、古典派の均整と感情表現を取り入れた洗練された楽曲を書き上げました。

楽曲構成と形式的特徴

K.137の具体的な楽章構成は、他のディヴェルティメント同様に複数楽章から成ることが一般的で、楽章ごとに舞曲的な要素やソナタ形式的な構成が見られます。第1楽章はしばしば明朗な主題を持つアレグロ風の楽想で始まり、主題提示-展開-再現というソナタ圏の扱いをさりげなく取り入れています。中間楽章には抒情的なアンダンテやメヌエット様式が置かれることが多く、終楽章は軽快でリズミカルなフィナーレで締めくくられます。

特徴的なのは、16歳の作曲家とは思えない対位法的な細工や各声部の独立性です。特に内声のヴィオラや第二ヴァイオリンに与えられる趣向的な動機処理は、後の弦楽四重奏作品への布石ともとれます。また、和声進行は典型的な古典派の語法を踏襲しつつ、時折見せる臨時記号や短いモデュレーションが色彩を添えています。

演奏と解釈のポイント

  • 音色のバランス:若いモーツァルトの音楽は透明感と軽やかさを求められます。強奏部分でも重厚になりすぎないよう、各声部の対話を大切にすることが重要です。
  • アーティキュレーション:舞曲性を帯びたフレーズでは明確なアーティキュレーションを、抒情的なパッセージではレガートと内声の歌わせ方に注意すると効果的です。
  • テンポ設定:各楽章のテンポ感は過度に急がず、古典派特有の均衡を保つことで構造が見えやすくなります。第1楽章のソナタ的処理はテンポの安定で説得力を得ます。
  • 装飾と慣習:1770年代の演奏慣習を踏まえ、過度なロマン的表現は避けるのが無難です。ただし、奏者自身の音楽性に基づく適切な装飾やフレージングは許容されます。

作風上の位置づけ:若きモーツァルトと古典派の架け橋

K.137は派手な技巧を誇示する作品ではありませんが、その控えめな美しさこそが重要です。イタリアのオペラ的な歌心、ドイツ・オーストリアの舞曲伝統、そしてバロック由来の対位法的要素が混ざり合い、モーツァルトの個性を早くも示しています。後年の名高い弦楽四重奏曲や弦楽五重奏への直接的な延長線上にあるとは言い切れないものの、そこで培われた声部の扱い方やフレーズ構築の感覚は確実に後の傑作に通じます。

おすすめの聴きどころ

  • 第1楽章の主題対比:主題と副主題の対比、そして短い展開部での主題操作に注目すると曲の構造が見えてきます。
  • 内声の自立性:ヴィオラや第二ヴァイオリンに現れる短い動機を拾い上げると、室内楽としての会話が鮮明になります。
  • リズムの微細な推進力:舞曲的要素が随所にあり、それが全体の流れを支えています。細かなリズムの揺らぎやアクセント配置を聞き分けてみてください。

楽譜と版について

K.137を含む若年期のディヴェルティメントは写譜や版に差異のあることがあり、演奏前には信頼できる校訂版や原典版(Neue Mozart-Ausgabe、Digital Mozart Editionなど)を参照するのが望ましいです。IMSLPなどのオンライン・スコアも便利ですが、原典版と突き合わせる習慣を持つと解釈の精度が上がります。

録音の薦め

この作品群はレパートリーとして必ずしも頻繁に録音されるわけではありませんが、若きモーツァルトの室内楽世界を俯瞰するうえで貴重な資料です。演奏スタイルの違い(古楽系の軽やかなアプローチ、近代弦楽器による温かい音色)を聴き比べることで、曲の持つ多面性がより深く理解できます。

まとめ:若き日の成熟と可能性

ディヴェルティメント K.137は、派手さを抑えた中にも作曲技法と音楽的感性がしっかりと宿る作品です。短めの楽章構成と明瞭な楽想は聴き手に親しみやすく、同時に室内楽としての深い魅力を伝えます。モーツァルト研究や室内楽の教養を深めたいリスナー、演奏者にとって、K.137は若き天才の工房を覗く格好の入口となるでしょう。

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参考文献