モーツァルト『ディヴェルティメント第5番 ハ長調 K.187(Anh.C 17.12) (1773)』徹底解説:成立背景・編成・楽曲分析・演奏上の注意
作品概説
モーツァルトの『ディヴェルティメント第5番 ハ長調 K.187(Anh.C 17.12)』は、1773年頃(モーツァルト17歳前後)に作曲されたとされる小規模な管弦楽・室内楽系のディヴェルティメントに位置づけられる作品です。ディヴェルティメントというジャンルは18世紀の宮廷や市民的な社交の場で演奏されることを想定した軽快で多楽章から成る娯楽音楽であり、モーツァルト自身も若年期に多数を書いています。
この作品はカタログ上では K.187 とされる一方で、注記として「Anh.C 17.12」との表記が付されることがあり、版や目録によっては成立年代や真筆性、原編成に関して異説・不確定要素がある点に注意が必要です。本稿では、そのような背景を踏まえつつ、ジャンル的・作曲技法的観点から楽曲を深掘りし、演奏・聴取に際してのポイントや参考資料をまとめます。
歴史的背景(1773年のモーツァルト)
1773年はモーツァルトが十代後半に当たり、宮廷楽長レオポルトのもとサルツブルクでの活動を中心に、オペラや交響曲、室内楽など多岐にわたる作品を手がけていた時期です。ロマン的情緒よりはガラン(galant)様式や古典派の様式美が強く、対話的な楽想や形式感の明瞭さが目立ちます。
ディヴェルティメントという形式は、当時の宮廷晩餐や舞踏会、社交的集いで求められる“使いやすい”音楽で、短めの楽章を複数持ち、場の雰囲気に合わせて刈り取りやすいことが特徴です。モーツァルトはこのジャンルで、若くして既にコンパクトながら魅力的な楽曲造形を示しました。
真偽と目録表記について
楽曲に付された「Anh.(Anhang)」表記は、ケッヘル目録(Köchel)において真筆ないし確実な作曲年の判定が難しい、あるいは偽作・属作扱いの可能性がある作品群を示します。K.187 と付される場合でも、写本の出所や題辞の信頼性、楽譜の筆跡比較などから議論が生じることがあります。
したがって、本作を扱う際は「モーツァルトの作風に合致する楽想が多数認められるが、一部の目録では疑義が示されている」ことを明記しておくのが適切です。現代の演奏会や録音では、作品の音楽的価値を重視して採り上げられることが多く、真偽論は音楽学的検討の対象となります。
編成と楽章構成(一般的な理解)
18世紀中期のディヴェルティメントは編成に幅があり、弦楽だけの編成から、ホルンやオーボエなどの管楽器を加えた小編成管弦楽までさまざまです。K.187 に関しては史料に基づく確定的な編成表記が版によって差異を示す場合がありますが、一般的な扱いとしては弦楽を基盤にした小編成(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)に、ホルンや他の管楽器が加わる形が想定されます。
楽章構成はディヴェルティメントの典型に従い、速い楽章—緩徐楽章—メヌエット(または舞曲)—速い終楽章といった4楽章構成が基本ですが、楽章数が増減することもあります。モーツァルトの若年期のディヴェルティメントでは、ソナタ形式を簡潔に用いた第1楽章、歌を重視した第2楽章、舞曲的な第3楽章、軽快なロンドやソナタ形式の終楽章という配列がよく見られます。
楽曲分析(形式・ハーモニー・主題展開)
本作を形式面から観察すると、モーツァルトの若い時期に共通する以下の特徴が浮かび上がります。
- 短いフレーズと均整の取れた4小節単位の造形:フレーズ感が明確で、聴衆にとって把握しやすい構築。
- ソナタ形式や二部形式の簡潔な運用:主題提示・展開・再現が圧縮され、展開部では和声的転換(属調や並行調への移行)を効果的に用いる。
- 動機の経済的利用:小さな動機がリズム的・和声的に変形され、楽章を通じて結びつけられる。
- ホルン等の色彩使用(写本が示す場合):管楽器は和声的支えや響きのアクセントとして用いられ、対位法的要素は少なめだがところどころで効果的に配される。
和声面では、平行調や副属調への短い迂回、II-V(副次的なドミナント)を介した導入、終結に向けた確実な整合が典型的です。旋律は歌謡的で、時折装飾が添えられますが、全体として明るく前向きな性格が支配的です。
楽章ごとの聴きどころ(一般的指針)
- 第1楽章(典型的には速楽章):明快な主題提示と短い展開が魅力。主題のコール&レスポンス的扱い、対位法的な追いかけは控えめで、リズムの跳躍とホルン等による色彩が聴きどころ。
- 第2楽章(緩徐楽章):歌のような旋律線。ヴィヴラート少なめの素直な音色で旋律の曲線を大切にすること。途切れることのない呼吸感と自然なフレージングが重要。
- 第3楽章(舞曲/メヌエット):舞曲的な躍動と優雅さの両立。トリオ部分では編成や音色が変化することが多く、対比を明確にする。
- 終楽章(ロンドや速いソナタ形式):軽快なリズムと明瞭な主題再現。終結部ではテンポ感を失わず、勢いよく締めるのが効果的。
演奏上の注意・実践的助言
演奏する際は以下の点に留意してください。
- 編成の選定:原典または信頼できる版(Digital Mozart Edition=Neue Mozart-Ausgabe など)を確認し、管楽器の有無や配置を決定する。
- テンポ設定:当時の舞曲的要素と社交音楽としての性格を意識し、過度に速くしない。一方で停滞感を避けるためにリズムの明快さは重視する。
- アーティキュレーションと音色:モダン奏法でも古典的フレーズ感を再現するため、短いフレーズの頭は軽めに、レガートが求められる箇所は滑らかに。ホルンの音色は響きの輪郭を作るために重要。
- 反復の取り扱い:原典の反復指示を尊重する。反復は内部対比や装飾の可能性を示す重要な要素であり、扱い方で曲の印象は大きく変わる。
- アンサンブル:均衡あるバランスを最優先に。特に弦楽と管楽の混合編成では音量と音色の均衡を慎重に取る。
版・録音・研究資料
この種の作品は版によって編成や断片的な違いが出ることがあるため、演奏準備の段階で原典版や信頼できる校訂版を確認することが肝要です。近年はデジタル化により写本や初版が参照しやすくなってきました。録音は主要な交響楽団や古楽アンサンブルが取り上げることがあり、時には他の若年期のディヴェルティメントと組み合わせて収録されています。
総括—本作の魅力と現代的意義
『ディヴェルティメント第5番 K.187(Anh.C 17.12)』は、もしモーツァルト自身の作品であるならば、彼の若年期における様式感と天賦の旋律センス、社交的機能を満たす実用性が同居した作品です。真筆性の議論を超えて、演奏・聴取の対象としては十分な音楽的価値を持ち、モーツァルト研究や古典派形式理解の教材としても有益です。原典を参照しつつ、形式的な均衡感と舞台性(社交場での即興的な機微)を表現することで、聴衆に18世紀の軽快さと清新さを伝えることができます。
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参考文献
- Digital Mozart Edition(Neue Mozart-Ausgabe) — モーツァルト作品のデジタル原典版・目録情報。
- IMSLP(Petrucci Music Library) — 写本や版のスキャン資料、スコア検索に有用。
- Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart — 年表や生涯の概要。
- Köchel catalogue(Wikipedia) — ケッヘル目録とAnhang表記の解説(注:百科事典的参照)。
- Maynard Solomon, "Mozart: A Life"(伝記的研究、作品解釈に関連する文献)
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