モーツァルト:ディヴェルティメント第10番 ヘ長調 K.247(1776)—背景・楽曲分析と聴きどころ
イントロダクション
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1776年に作曲したディヴェルティメント第10番 ヘ長調 K.247は、当時の社交音楽としての実用性と、若き作曲家の成熟しつつある作曲技術が折り重なった魅力的な作品です。本稿では歴史的背景、楽曲構造と和声・主題の分析、演奏/解釈上のポイント、聴きどころ、稿本・版に関する注意点などを詳しく掘り下げます。
歴史的背景:1776年のモーツァルトとディヴェルティメントの位置づけ
モーツァルトは1756年生まれ、1776年は20歳の年です。サルツブルクの宮廷楽長アルヒビショップの下で働きつつ、教会音楽、室内音楽、オペラなど多様なジャンルを手がけていました。ディヴェルティメントは18世紀中頃から宮廷や市民の祝祭・晩餐・屋外演奏などで用いられた軽い管弦楽または室内楽的作品群を指し、社交的・実用的な性格を持ちます。モーツァルトにとってディヴェルティメントは、即興的な楽しさと同時に作曲上の技術を磨く格好の場でした。
作品の概要と編成(概説)
K.247は「ディヴェルティメント」というジャンルに分類され、当時の観客や演奏者の期待に応える多楽章構成と明快な表現を備えています。楽器編成や楽章数は版や稿本によって差異が生じる場合がありますが、一般にディヴェルティメントらしい多彩な色彩感を持つ編成を想定できます。作品は屋内外どちらでも映える軽快さと、しばしば室内楽的な対話を特徴としており、モーツァルトの若き日の抒情性と機知が同居しています。
楽曲構造と形式的特徴
このディヴェルティメントは、いくつかの対照的な楽章から構成され、各楽章で異なる古典期の様式が示されます。以下では一般的な形式的特徴を挙げつつ、作品に見られるモーツァルトらしい特質を解説します。
- 第1楽章(序盤): 快活で明るい性格。古典派のソナタ形式に基づくことが多く、親しみやすい主題、明確な歌謡線、対位的ではないが巧みな動機処理が特徴。対比する副主題や展開部での転調処理が聴きどころ。
- 緩徐楽章: 歌謡的で抒情的。モーツァルトはここで長い歌い回しと繊細な伴奏法を用いて、主題の内面的な表現を引き出します。和声的には機能和声の流れを踏襲しつつ、短いカデンツや装飾的なパッセージで色付けされます。
- 舞曲(メヌエット/トリオ): 社交的要素を反映した舞曲で、均整のとれたフレーズとアクセントの配置、トリオ部では異なる色彩や楽器の独立性が活かされます。
- 終楽章: 典型的には活発なロンドやソナタ・ロンド形式。軽快なリズムと短い動機が繰り返され、作者の機知やリズム感が前面に出ます。
主題と和声の特徴:モーツァルトの「語り口」
K.247においてもモーツァルト特有の「自然な歌」を与える旋律の語法が顕著です。短いフレーズの連結による親和性、呼吸を意識した句切れ、動機の断片的発展と再現といった手法が典型的です。和声面では18世紀後半の様式に忠実に機能和声を用い、属調への転調や順次進行を用いた色彩の変化で楽章間の対比を強めますが、突飛な実験性は少なく、聴衆の理解しやすさを優先しています。
器楽的特色と室内楽的対話
ディヴェルティメントはしばしば小編成で演奏され、個々の楽器が明確に聞こえるように書かれます。K.247でも声部間の会話(応答)や重層的なリズムが効果的に使われ、いわばカジュアルな室内オペラのように役割分担が見られます。装飾的なトリルや短いトリル的パッセージ、ホルンなどの自然楽器の効果的使用は当時の音響環境を反映しています。
演奏・解釈上のポイント
- テンポ感とフレージング:古典派の透明なテクスチャを保つため、過度に遅いテンポは避ける。フレーズ終端の余韻と入口の明確さを心がける。
- 音色とバランス:室内的な編成を想定し、各声部のバランスを重視する。特にホルンや低声部が旋律線を支える場面では、音色を柔らかく保つことで旋律の自然な歌が立つ。
- 装飾の扱い:モーツァルト期の装飾は装飾ではなく歌い回しの延長と考える。トリルやカデンツは文脈に応じて控えめ/華やかに使い分ける。
- ピリオド奏法の選択:原典に即した自然管や古楽器を用いる演奏は当時の響きに近づける一方で、現代楽器による明晰なアンサンブルも作品の魅力を豊かに伝える。解釈はいずれも一長一短があるため曲想と会場を考慮して選択するのがよい。
聴きどころ(章ごと/注目箇所)
第1楽章の主題提示部ではモーツァルトのメロディメーカーとしての才が典型的に現れます。展開部では短い動機が巧みに分割・転調され、再現部での回収が聴衆に快感を与えます。緩徐楽章は声部間の柔らかな掛け合いと、単純に見えて緻密な和声進行に耳を傾けるとよいでしょう。舞曲楽章ではリズムのグルーヴと舞踏性、トリオの対比に注目してください。終楽章は軽快さとリズム推進力が魅力で、短いモティーフがどのように発展し曲を締めくくるかが最大の聴きどころです。
稿本・版と演奏史のメモ
モーツァルト作品の多くと同様に、K.247にも複数の稿本や版が存在する可能性があります。現代の版(楽譜出版社)やデジタル版を比較する際は、装飾やダイナミクスの表記、速度標記の差に注意してください。原典版(Neue Mozart-Ausgabe など)やデジタル・モーツァルト・エディションの校訂を参照することで、作曲当時に近い読みが可能になります。
K.247の位置づけと評価
ディヴェルティメント第10番は、モーツァルトのより大きな宗教・舞台作品群や後年の交響曲・室内楽に比べて地味に見えるかもしれません。しかし、短い楽章ごとの洗練された対位的技巧、愛らしい旋律、そして古典様式の中で磨かれた構成感は、若きモーツァルトの作曲的成熟を示す良い証拠です。室内的で親密な魅力を持ち、コンサートの前半や小規模な室内楽演奏会で抜群の説得力を持ちます。
実演と録音を聴く際のガイド
- まずは全曲を通して、フレーズの『呼吸』と和声進行の心地よさを味わう。
- 第二に、声部ごとの独立性(特に低弦とホルンあるいは低声部の動き)を追って、モザイク的に配置されたモーツァルトの声部術を確認する。
- 最後に複数の録音(古楽器編成/現代楽器編成)を比較し、解釈の違いが楽曲の印象にどのように影響するかを聴き分けると理解が深まる。
演奏者への実践アドバイス
アンサンブルで演奏する際は、テンポの柔軟性を共有すること、フレーズ終わりでの小さな呼吸を統一することが重要です。装飾は楽曲文法に従い控えめに用いる方が全体の均衡を保てます。また、ホールの響きに応じてダイナミクスを微調整し、室内的な透明感を損なわないように配慮してください。
まとめ
ディヴェルティメント第10番 K.247は、モーツァルトの若年期における社交音楽としての機能と芸術的な完成度の両立を示す作品です。軽やかな表情の中に確かな構築性と深い音楽的センスが息づいており、聴く側にも演奏する側にも多くの発見を与えてくれます。史料的な背景や版の差異に留意しつつ、複数の演奏を聴き比べることでその魅力はより一層深まるでしょう。
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参考文献
- IMSLP: Divertimento in F major, K.247 (Mozart)
- Digital Mozart Edition (Neue Mozart-Ausgabe) — Mozarteum
- Encyclopaedia Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart — Biography & Works
- Oxford Music Online / Grove Music Online (記事検索推奨)
- JSTOR(音楽史・論文検索)
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