モーツァルト「ディヴェルティメント第11番 ニ長調 K.251(ナンネル七重奏曲)」:成立・編成・音楽の深層を読む
概説 — なぜK.251は注目されるのか
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのディヴェルティメント第11番 ニ長調 K.251(1776年)は、〈ディヴェルティメント〉というジャンルのなかでも、軽やかさと室内楽的親密さを併せ持った作品として頻繁に演奏・録音されてきました。作品番号と成立年から見ても、ザルツブルク時代の室内音楽作法を反映しており、社交的な場での演奏目的と、若き作曲家の技巧的・感情表現の成熟が交錯する興味深い写し鏡になっています。
歴史的背景:1776年のザルツブルクとモーツァルト
1776年はモーツァルトが地元ザルツブルクで活躍していた時期です。この時期の彼は宮廷や市のための礼拝音楽、オペラ、そして舞踏会や社交の場で用いる軽音楽(ディヴェルティメントやセレナーデなど)を頻繁に作曲していました。ディヴェルティメントは通常、ダンス性や親しみやすさを重視しつつ、室内楽的な対話や独立した楽章構成を特徴とします。K.251はその代表例として、舞曲的要素と高度な対位法的手法、そしてハーモニーの鮮やかな展開を併せ持つ点で注目に値します。
作品の呼称と編成について
この作品は時に「ナンネル(Nannerl)七重奏曲」と呼ばれることがありますが、愛称の由来や定着には諸説あります。モーツァルトの家族、とくに姉マリア・アンナ(愛称ナンネル)との関係から付された名称であるとする見方もありますが、必ずしも一次資料に基づく確証があるわけではありません。学術的にはKöchel目録に基づくK.251の表記が標準です。
編成については、ディヴェルティメントというジャンルの柔軟性から、版や史料によって差異が見られます。一般に今日の演奏で採られる編成は弦楽とホルンなど金管・木管を含む小編成で、室内楽的なコントラストを重視する編曲が多いのが特徴です。史料に基づく原典版(Neue Mozart-Ausgabe やデジタル・モーツァルト・エディション)を参照すると、モーツァルト期の慣習がより明瞭に浮かび上がります。
楽章構成と音楽的特徴(概観)
K.251は、ディヴェルティメントとして期待される複数楽章から構成され、楽章ごとに舞曲的性格や対位法的処理、そして独立した主題展開が見られます。以下は各楽章に共通する主要な聴きどころです。
- 序奏的・提示部の明快さ:ニ長調という調性の明るさを活かした、快活な主題提示が印象的です。
- 対位法と和声的転回:短い主題を素材にして、模倣や対話を行う箇所が随所にあり、単なる背景音楽を超えた構築性を示します。
- 舞曲と劇性の交錯:メヌエットやメロディアスな中間部が舞曲らしさを保ちながらも、時に叙情的・劇的な表情に転じる場面があります。
- ホルンや管による色彩化:当時のホルン音色は和声の輪郭を提示し、弦とのテクスチャー差で各楽章の性格付けに寄与します。
各楽章の聴きどころ(深堀り)
以下は、実際にスコアを追いながら聴く際に注目したいポイントです。版や解釈により楽章の数や配置に差異があり得るため、ここでは典型的な楽章構成に基づいた聴取ガイドを示します。
- 第1楽章(アレグロ系):快活な主題提示と、それを受けての短い展開部。序盤のリズムの明快さに注目すると、モーツァルトが社交場の“場”を音で作る術が分かります。
- 第2楽章(緩徐楽章):シンプルな歌謡性を持つ旋律が弦楽器に委ねられ、管楽器が和声的な支えや応答を行います。フレーズの呼吸やポルタメントを控えめに使うことで古典派特有の透明感が出ます。
- メヌエット/スケルツォ:ダンスの格好を取りつつ、内声に細かな対位法が忍ばされていることが多く、耳を澄ませると各声部の独立性が楽曲の奥行きを生み出しているのが分かります。
- 終楽章(ロンドやアレグロ):主題の再現と変奏を織り交ぜ、明るく締めくくります。モーツァルトのロンド扱いは、親しみやすい主題性と即興的な装飾のバランスに成功している点が魅力です。
作曲技法と様式的意味
K.251における魅力は、軽快な表層と高度な内部構造の同居にあります。短い動機が模倣・転調・リズミカルな配列によって効果的に再利用され、ディヴェルティメント特有の“楽しませる”機能を維持しつつ作曲家の技巧が示されます。特に和声進行のスムーズな転回や、短いモティーフのリズム置換などは、モーツァルトが古典派様式の中で持つ独自性をよく表しています。
演奏と解釈のポイント
- アーティキュレーション:古典派のクリアなアーティキュレーション(短めの弓使い、明確なスタッカートと接続)を意識すると、楽曲の躍動感が際立ちます。
- ダイナミクスの扱い:余分なロマン派的拡大を避け、モーツァルト的な呼吸に沿った自然な強弱を心がけると良いでしょう。
- ホルンと弦のバランス:ホルンは和声と色彩を付与する役割に徹する場合が多く、弦との対話を損なわない音量で演奏することが望まれます。
- 装飾と反復:装飾は時に楽曲の性格を変えうるため、版や古楽の慣習を参照して節度ある装飾を行うのがポイントです。
受容史と今日の評価
K.251は、モーツァルトの主要オペラや大作交響曲ほど注目されることは少ないものの、室内演奏会や教育的なプログラムで根強く取り上げられています。その理由は、短時間で聴衆に親しみやすい表情を届けつつ、演奏者にとっては対話的・技術的な訓練の要素を多く含んでいるからです。近年の歴史的演奏実践(HIP)運動の影響により、ピリオド楽器や古楽奏法による鮮やかな再発見も進んでいます。
聴きどころのまとめ(ガイド)
- 主題の簡潔さとその再利用に注目すること。
- 弦と管(特にホルン)の対話を聴き分け、どの声部がメロディを受け渡すかを追うこと。
- 舞曲的リズムのなかに潜む対位法や和声の意外性を聴き取ること。
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参考文献
- Digital Mozart Edition(Mozarteum) — モーツァルト作品の原典版・データベース。
- IMSLP: Divertimento in D major, K.251 — スコアと出典情報(アクセス時の版に注意)。
- Oxford Music Online / Grove Music Online — 作曲家・作品論の総合的参考文献(要購読)。
- Köchel catalogue(ウィキペディア) — モーツァルト作品番号の概説(研究用途には一次文献を参照)。
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