モーツァルト:ディヴェルティメント第17番 ニ長調 K.334 (K6.320b) — 作品の背景・分析・演奏のポイント
導入 — ディヴェルティメントという形式
ディヴェルティメント(divertimento)は18世紀の宮廷や上流社会の社交の場で演奏されるために書かれた軽快な室内楽作品群を指します。モーツァルトも若年期から晩年にかけて多くのディヴェルティメントを書いており、その中には気軽な余興としての性格と、深い音楽構成を併せ持つ作品が混在します。今回取り上げる「ディヴェルティメント第17番 ニ長調 K.334(K6.320b)」は、典型的なディヴェルティメントの枠組みのなかに、モーツァルト独特の古典派ソナタ様式の技巧と歌心が滲む作品です。
作曲年代・成立事情
このディヴェルティメントは通説では1779年ごろの作とされていますが、作曲の正確な日付や成立事情についてはいくつかの異説があります。作品番号に示されるように、ケッヘル(Köchel)目録の改訂によってK.334とする表記に補助番号K6.320bが付される場合があり、目録編纂史のなかで番号が変動した例の一つです。1770年代後半、モーツァルトはザルツブルクに在住し、宮廷や町の社交に向けた器楽曲を多数手がけていた時期であり、このディヴェルティメントもそのような文脈で演奏を想定して書かれたと考えられます。
編成と形式
一般にディヴェルティメントは弦楽合奏(弦楽4~5重奏)に管楽器を加えた編成で演奏されることが多く、この作品も小編成の弦楽アンサンブルを想定していると見られます。具体的な自筆譜や初期写本の編成表記には地域差や写譜時の補作があるため、演奏編成は版や指揮者によって柔軟に選ばれることが多いです。
楽曲構成(楽章ごとの概観と分析)
ディヴェルティメント第17番は、複数の短い楽章から成り、全体としては軽快で行楽的な色彩を持ちながらも、細部にモーツァルトの作曲技巧が表れます。以下に楽章ごとの主要特徴を概観します(版によって楽章名や順序に差が出ることがあるため、一般的な聴きどころに焦点を当てます)。
第1楽章 — 快活な序奏から主部へ(ソナタ風)
冒頭は明るいニ長調で開始し、古典派ソナタ形式の枠組みを採る場合が多いです。主題は流麗で歌い回しがはっきりしており、短い副主題との対比や展開部での動機的発展が聴きどころです。モーツァルトは主題の反復と変形を巧みに用いて、聴衆の注意を保ちながらも簡潔に楽章をまとめます。
第2楽章 — 歌的な緩徐楽章
中間楽章はしばしばアンダンテやアダージョのようなテンポで、歌謡的なメロディを持ちます。弦の厚みやビブラートの扱い(歴史的演奏の観点からは控えめに)によって情感の幅が変わります。和声進行中に見られる短いモーダルな色合いや、装飾的パッセージが楽章の深みを増しています。
中間の舞曲楽章(メヌエットなど)
ディヴェルティメントの伝統に従い、軽快な舞曲楽章が含まれます。ここではリズムの揺らぎやホルンなど管楽器のコール・アンド・レスポンス的な役割が演出されることもあります。メヌエットはしばしば三拍子の明快さと優雅さを示し、中間部(トリオ)で調性やテクスチャに変化が生じることがポイントです。
終楽章 — 快活なロンドまたはソナタ形式
終楽章は再び明るいテンポで、しばしばロンド形式やソナタ風の快活な終結部となります。モーツァルトらしい短い主題の反復と装飾的パッセージが特徴で、終結に向けてエネルギーが高まる構成になっています。
和声と対位法上の特徴
モーツァルトはディヴェルティメントのような軽音楽でも、和声進行の中に巧みな色彩感を織り込みます。ニ長調という明るい調性を生かしつつ、属調や副属調への短い移行、短調への一時的な転調を用いてドラマを生み出します。また対位法的な書法を部分的に導入し、簡潔な模倣や動機のやり取りでアンサンブルの聴きどころを作ります。特に第1楽章や終楽章の展開部では細かな動機発展が立体感を与えます。
演奏と解釈のポイント
- アーティキュレーションの明確さ:モーツァルトのディヴェルティメントは抜けの良さが大切です。短いフレーズごとの切れ目を意識し、リズムの輪郭を保つことが求められます。
- テンポ感のバランス:快活さを保ちつつ、歌うべき箇所では柔らかさを与える。緩徐楽章での呼吸と、舞曲楽章での軽快さを明確に区別すると良いでしょう。
- 音色の層別化:弦と管(もし加えるなら)の対話を際立たせるため、音色を巧みに変えること。主題提示では第一ヴァイオリンを前面に、伴奏は透明感を持たせます。
- 歴史的演奏慣習の理解:装飾やダイナミクスの付け方は時代感を反映させると効果的です。ただし過度なロマンティック表現は避け、古典派の均衡を重視します。
版と校訂の注意点
本作はケッヘル目録の改訂や写本の差異により、版によって細部が異なる場合があります。演奏・録音を行う際は、信頼できる校訂版(ニュー・モーツァルト=オーラトリア/Neue Mozart-Ausgabe など)や原典版を確認し、誤記や後補の可能性を検討することが重要です。特に音域やホルンの扱い、スラーやスタッカートの記譜は版によって相違が出ることがあります。
代表的な録音と演奏例
ディヴェルティメントは演奏編成の自由度が高いため、多様な録音があります。歴史的演奏を志向するものから、近代的な室内楽編成での演奏まで、解釈の幅が広いのが魅力です。録音を聴く際は編成(弦楽五重奏なのか弦楽合奏に管楽器を加えたものか)に注意すると、演奏の意図が掴みやすくなります。
音楽史的意義と今日への影響
モーツァルトのディヴェルティメント群は当時の社交音楽としての役割を超え、古典派の室内楽の発展に寄与しました。形式の柔軟さと歌曲風の美しさを兼ね備えたこれらの作品は、ベートーヴェン以降の室内楽進展にも影響を与えます。本作は、とりわけ「日常の余興」としてだけでなく、演奏者の表現力とアンサンブルの技術を磨く教材的価値を持つ点で現在でも重要です。
まとめ — 楽しみ方と聴きどころ
ディヴェルティメント第17番 K.334は、明るさと均整のとれた構成、そして細部に宿るモーツァルトの玩味が同居する作品です。初見では軽やかさが目立ちますが、反復して聴くことで和声のほんの小さな揺らぎや動機の再利用が浮かび上がり、作曲家の巧妙さに気づかされます。演奏にあたっては音色の透明性、フレーズごとの呼吸、そして古典派的な均衡感を大切にすることが良い結果を生むでしょう。
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参考文献
- IMSLP: Divertimento in D major, K.334 (Mozart)
- Digital Mozart Edition (Neue Mozart-Ausgabe) — Mozarteum Foundation
- List of compositions by Wolfgang Amadeus Mozart — Wikipedia
- Oxford Music Online / Grove Music Online (記事検索推奨)
- AllMusic(録音検索・解説参照)
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