モーツァルト:四手のためのピアノソナタ ハ長調 K.19d — 幼年期の名作を読み解く

はじめに — K.19dはどんな曲か

モーツァルトの「四手のためのピアノソナタ ハ長調 K.19d」は、彼が幼少期に手がけた鍵盤作品群の一つとして分類される楽曲です。ピアノ(当時はクラヴサン・フォルテや初期フォルテピアノ)を用いた四手連弾という編成は、親密な室内音楽の性格を持ち、ウィーン古典派に至る前のガランとした様式と幼少期の創意が濃縮されています。本稿では史的背景、楽曲構成、演奏上の注意点、版と版の差異、教育的価値や聴きどころまで、できる限りの事実確認を踏まえつつ深掘りします。

史的背景と成立事情

K.19dはモーツァルト一家の欧州演奏旅行(特にロンドン滞在、1764–1765年頃)に関連する幼年期作品群と同時期に属する可能性が高いとされます。ヴォルフガングは1756年生まれなので、この時期はおよそ8〜10歳。父レオポルトの管理のもと、家族で各地に招聘される中で数多くの短いソナタや宗教曲、交響曲などが作られました。

ただし、K番号(ケッヘル番号)や成立年代、さらには四手用に後年編曲された可能性など、いくつかの点で資料に差異があり、学界では番号付けや細部の成立事情に議論が残ります。若年期の作品は散逸や写譜による伝承が多く、後代の校訂によって楽曲の形が固定された例もあります。したがって、本稿では一次資料と信頼できる資料(楽譜写本、デジタル版、主要図書館の所蔵情報など)に基づく一般的見解を中心に述べます。

楽曲の構成と音楽的特徴

この種の幼年期ソナタは、次のような特徴を持つことが多いです(K.19dも同様の枠組みで理解できます)。

  • 楽章構成: 多くは3楽章構成(速—遅—速)で、第一楽章はソナタ形式的な構成を模したアレグロ、第二楽章は緩徐楽章、第三楽章はロンドや軽快な終楽章。
  • 様式: ガラン(galant)様式の影響が強く、短いフレーズ、明快な対位よりは和声進行とメロディの歌わせ方に重きが置かれる。
  • 四手の扱い: Primo(上側)とSecondo(下側)の役割分担が明確で、第一奏者に旋律、第二奏者に伴奏・低音を担わせることでテクスチャーが豊かになる。ときに二者が交互に主導する場面もある。
  • 旋律と装飾: 幼少期らしい愛らしい主題と、当時の実演慣習に基づく即興的な装飾やトリルが想定される。

これらの特徴は、K.19dを演奏・分析する際の基本的な見取り図となります。初期のソナタ形式の「模倣」を含みつつも、形式的厳密性よりは歌心と即興性が前面に出るのが魅力です。

楽曲分析(演奏者への示唆を含む)

以下は演奏や聴取のポイントとして実用的な観点からまとめた分析です。

第1楽章(序章的アレグロ)

主題提示部は短い動機の連結から成り、対位的な展開よりも対話的な呼応が特徴になります。第一主題は歌い、第二主題はより軽快で舞曲風の性格を持つことが多いです。テンポ設定は軽快さを保ちつつ、フレーズ終わりでの小さな呼吸(テンポルバート)を用いると当時の演奏感に近づきます。

第2楽章(緩徐楽章)

簡潔で歌心のある緩徐楽章は、内省的な旋律と和声の温かさが魅力です。四手連弾の編成を生かし、内声を豊かに歌わせることで音色的な深みが出ます。ペダリングは控えめに、音の明晰さを保つことが肝要です。

第3楽章(終楽章)

終楽章はロンドやプレストに近い性格で、リズムの切れと反復主題の変奏が楽しめます。二人の呼吸を合わせること、特にスケールやアルペッジョの受け渡し箇所での接続に注意しましょう。

演奏上の実践的注意点

  • 椅子の配置・右左の配置: Primo(上)とSecondo(下)で譜めくりや視界を互いに妨げないよう十分に位置調整する。練習時に役割を入れ替えて各声部の独立性を理解すると良い。
  • 音量バランス: 四手連弾は二台の奏者で一台を共有するため、第一旋律が埋もれないようSecondoは伴奏のダイナミクスを抑える配慮をする。
  • 装飾と即興: 幼年期の作品であるため本来の即興的装飾は許容される。史実的演奏習慣に倣い、過度にならない範囲で装飾を用いると効果的。
  • 奏法と楽器: 当時のフォルテピアノに近い響きを念頭に、現代ピアノではタッチの軽さ・音の均衡を意識する。

版と研究上の注意点(真作性と校訂)

K.19dに関しては、若年期作品にありがちな写譜由来の誤記や後年の版による改変が存在する可能性があります。校訂版を利用する際は、以下の点に注意してください。

  • 原典版(主に写譜や初出楽譜に基づく版)を参照することで、後年の誤った指示や不自然な装飾を避けられる。
  • デジタル版(デジタル・モーツァルト・エディション等)と伝統的な出版社版(Bärenreiter、Breitkopfなど)を比較し、異同を確認する。
  • 演奏史的な背景を踏まえ、各種記譜(装飾、速度記号、強弱記号)の意図を検討することが重要。

教育的価値とレパートリーとしての魅力

K.19dのような幼年期の四手連弾作品は、演奏教育上非常に有用です。二人でのアンサンブル感覚、リズムの統一、音色の調整、そして楽曲構造を読む力が鍛えられます。加えて、家族や学生同士で取り組めるレパートリーとしてコンサートや公開レッスンでも人気があります。

聴きどころのガイド

聴く際は以下の点に注目すると、楽曲の魅力がより伝わります。

  • フレーズの呼吸: 各楽句の終わりにおける小さな呼吸や間(ま)が、楽曲の語り口を決定づけます。
  • 声部間の対話: PrimoとSecondoがどのように主題を受け渡すか、その“会話”を追うと面白い。
  • ハーモニーの進行: 単純に聞こえる和声にも抑揚と色彩変化があるため、転調点や和声の解決感を意識して聴く。

まとめ

K.19dはモーツァルト幼年期の創意と室内楽的な親密さを併せ持つ作品です。史料上の不確定要素があるものの、演奏・教育・鑑賞のいずれの面でも魅力が大きく、四手連弾という形式を通してモーツァルトの早熟なメロディメーカーとしての才能を感じ取ることができます。本稿が演奏者・愛好家の両方にとって、楽曲理解の一助になれば幸いです。

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参考文献