モーツァルト:アレグレットの主題による6つの変奏曲 K.54(K.6.457b)——ソナタ終楽章からの編曲を巡る歴史と楽曲解剖
はじめに
本稿は「モーツァルト:アレグレットの主題による6つの変奏曲 K.54(K.6.457b)」(以下、本作)について、来歴、楽曲構造、表現上のポイント、版や演奏の問題点などを総合的に解説することを目的としています。本作は一見して短い器楽作品ですが、モーツァルトの編曲技法、変奏というジャンルに対する考え方、さらには資料学的な問題(作品番号・ケッヘル番号の異表記や編曲元の特定)など、鑑賞者・演奏家・研究者のいずれにも興味深い示唆を与える存在です。
来歴と版の問題点
本作はしばしば「K.54(K.6.457b)」という表記で紹介され、また一部の目録や楽譜ではモーツァルト自身によるヴァイオリン・ソナタ K.547 の終楽章を編曲したものとされます。歴史的にモーツァルトの作品番号・ケッヘル番号には改訂があり、作品に付される番号や出典の注記が版によって異なるため、本作のカタログ表記にも揺れが生じています。
重要な点は、編曲関係の判断は原典資料(自筆譜、当時の写し、初期出版譜)に依拠する必要があることです。デジタル化が進んだ今日では、デジタル・モーツァルト・エディション(Digital Mozart Edition)や新モーツァルト全集(Neue Mozart-Ausgabe, NMA)の校訂報告が参考になります。これらの資料は、どの版が原典に近いか、後世の写譜士や出版社による改変がどの程度かを判断する際に役立ちます。
変奏曲としての位置づけ
変奏曲は古典派期において、素材(主題)を提示し、その性格を変化させながら再提示することで作曲技法を示す場であり、聴衆にとっても親しみやすい形式です。本作は「アレグレット」と呼ばれる穏やかな主題から出発し、全6曲の変奏を通じて装飾、リズム変化、転調、テクスチュアの対比など、モーツァルトならではの巧みな手法が展開されます。
もし本作がヴァイオリン・ソナタの終楽章の編曲であるなら、原曲のソナタ形式的な語法や対話性(ヴァイオリンとピアノ/チェンバロの掛け合い)が、変奏という別形式にどのように移し替えられたのかを見ることが興味深い課題です。編曲によって生じる声部配分の変更や、和声の単純化/精緻化は、作曲者の実用的判断や出版事情を反映している可能性があります。
楽曲分析(総論)
以下は一般的な変奏曲分析の枠組みを用いた本作の読み解きです。使用する具体例や小節番号は版によって異なるため、ここでは概念的な解説に留めます。
- 主題(アレグレット):短く明瞭なフレーズの反復で構成され、均整の取れた小節群を持ちます。旋律線は歌う性格が強く、装飾を施しやすい素材となっています。
- 変奏1〜2:主にメロディの装飾、短い推進感の付与。右手(旋律側)に細かな装飾音が配され、左手(伴奏側)はベースや和音の進行を保持する役割に徹することが多いです。
- 中間変奏(中央部):リズムや音価の劇的な変更、移調あるいは近接調への展開が行われることが多い。ここで楽曲は表情面で最大の変化を示します。
- 終結変奏:主題の再提示感を保ちつつ、技術的な見せ場(トリルやスケール、オクターヴの跳躍)を設け、最後は短いコーダで収束します。
変奏ごとの聴きどころ(想定される典型)
以下は具体的な版や実演を参照した場合に多く見られる典型的変化手法です。実際のスコアに当たると、より細部が確認できます。
- 第一変奏:主題の装飾化。メロディの音価を細分化し、流麗さを強調する。テンポはやや変えず、歌を保つ。
- 第二変奏:伴奏形の変化。アルベルティ・バス風の分散和音や、対旋律の導入により和声進行が際立つ。
- 第三変奏:モーショナルな変化。短いパッセージやスケールが連続し、緊張を高める。
- 第四変奏:対位法的な処理や転調。主題の断片を動機として発展させる場面がある場合、モーツァルト独特の逆行や模倣が見られる。
- 第五変奏:技巧的見せ場。速いパッセージや跳躍、装飾的な付与で聴衆の注意を引く。
- 第六変奏(終結):主題の総括とコーダ。元の主題の明快さを回復し、最後は典雅に締めくくられる。
演奏上の注意点
演奏に際しては、次の点が重要です。
- 主題の〈歌〉を失わないこと:変奏曲であっても、主題の輪郭は常に意識されるべきです。変奏ごとに変わる装飾やテクスチュアの中で、元の旋律の骨格を浮かび上がらせることが要点です。
- テンポ設定と弾力性:モーツァルト期の演奏習慣を踏まえると、各変奏で極端なテンポ変更を避け、むしろ細かなフレージングやアゴーギクで表情を作るのが自然です。
- 装飾の解釈:トリルや付点音、装飾音は楽譜に明示されない場合でも時代様式に即した扱いが求められます。過度な浪費は避け、音楽的な必然性を持たせること。
- バランス感(ヴァイオリンと鍵盤):もし原作がソナタの終楽章に由来するなら、二者の対話性を意識した柔軟なバランスが重要です。どちらが主題を担うかは変奏ごとに役割を変えて良い。
版と校訂の問題
先述の通り、ケッヘル番号の異表記や、どの版が原典に近いかという問題が存在します。演奏者は可能な限り原典版(自筆譜や近代の学術校訂)を参照すべきです。現代ではデジタル・モーツァルト・エディションや新モーツァルト全集のオンライン資料が手軽に利用でき、版間差異を比較すると、旋律線の違いや加筆の有無が明らかになります。
受容と現代における位置づけ
本作は規模が小さいため、単独で頻繁に演奏されるというよりは、室内楽プログラムの小品として、あるいはモーツァルトの変奏技法を示す教材として紹介されることが多いです。一方で、ソナタとの関係を巡る議論は資料学的にも興味深く、モーツァルト研究の細部を示す好例となっています。
まとめと聴きどころの提案
本作を聴く際の着眼点は次の通りです。まず「主題の輪郭がどのように保たれ、変化していくか」を追い、各変奏でのテクスチュアや和声の扱い、そして編曲という視点から見た原曲(ソナタ終楽章)との相互関係を考えると、短い曲ながら理解が深まります。演奏側は主題の〈歌〉を軸に、装飾や技巧を音楽的必然として配置することが望まれます。
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参考文献
- Digital Mozart Edition(デジタル・モーツァルト・エディション) — 原典資料や校訂に関する情報。
- Neue Mozart-Ausgabe(新モーツァルト全集)/Bärenreiter — 学術校訂版の総覧。
- IMSLP(国際楽譜ライブラリ・プロジェクト) — 楽譜の公開アーカイブ。異版比較に有用。
- Grove Music Online(Oxford Music Online) — モーツァルト研究の概説や作曲技法の文献。
- Köchel catalogue(ケッヘル目録)案内(Wikipedia) — ケッヘル番号の歴史と改訂に関する入門的解説。
- AllMusic — MozartWorks overview — 作品解説や録音案内の参考。
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