モーツァルト『わが愛しのアドーネ』による6つの変奏曲 K.180(K6.173a)徹底解説
作品概要
『6つの変奏曲 ト長調 K.180(別番号 K.173a)』は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトがピアノ独奏のために仕立てた変奏曲集で、主題はアントニオ・サリエリのオペラ《La fiera di Venezia》(邦題『ヴェネツィアの定期市』)にあるアリア「Deh, vieni alla finestra(イタリア語原題)」をもとにしています。作品はト長調で書かれており、主題に続く6つの変奏によって構成されます。ケッヘル番号は K.180(古い番号表記では K.173a)で、モーツァルトのウィーン時代のピアノ作品群の一つとして位置づけられます。
主題の由来と歴史的背景
主題となったアリアはサリエリのオペラに由来し、当時ウィーンの歌劇場で親しまれていた旋律でした。18世紀後半の音楽文化では、人気のオペラやシャンソンの旋律を器楽の変奏曲として仕立てることが一般的で、モーツァルトもその流行に応じて数多くの変奏曲を作曲しています。本作もその伝統の延長にあり、オペラ舞台の歌の魅力をピアノという器楽的世界へと翻案した例です。
形式と楽曲の流れ
全体は「主題(テーマ)+6つの変奏(Variations)」という古典的な変奏形式に沿っています。主題は明快で歌謡的な8小節前後のフレーズ構造を持ち、ト長調の整った調性的輪郭を示します。変奏はそれぞれ音色・リズム・テクスチャーを変化させることで、同一のメロディ素材から多彩な表情を引き出していきます。
- 第1変奏:主題の装飾化。旋律線は比較的そのまま残りつつ、装飾音や小規模な音価差で表情が加えられる。
- 第2変奏:伴奏形(和声進行)の変化によりテクスチャーが濃くなり、対位的な動きが導入されることが多い。
- 第3変奏:テンポ感や切り分け(アーティキュレーション)を変えて対照を作る。しばしば内声の動きが活発になる。
- 第4変奏:短調への転換や部分的な暗色化を伴う場合があり、ドラマティックなコントラストを提供することがある。
- 第5変奏:技巧性・装飾性が高まり、速い分散和音やトリル、ト長調内での揺らぎを用いることが多い。
- 第6変奏(終結変奏):最も華やかでピアニスティック。華麗なパッセージや終止に向けた補強が施され、しばしば余韻を残して終わる。
(上記は作品ごとのニュアンスに依存する一般的な変奏の流れを示したもので、本作についても概ねこのような推移が聴かれます。)
和声・調性面からの読み解き
主題はト長調の明晰な和声進行に依拠しており、変奏の中でモーツァルトは古典派らしい機能和声に基づく展開を行います。特に注目すべきは、変奏を通じての即興性を帯びた装飾や、部分的な短調化(マイナーへの転換)による色彩の変化です。モーツァルトは、テーマの枠組みを保ちながら部分和音の借用、二次調への一時的な移行、終止形の巧みな変形などで聴き手の興味を持続させます。
ピアノ技法と演奏上のポイント
本作は技術的な見せ場を含みつつも、あくまで歌(cantabile)を重視した作りになっています。演奏にあたってのポイントは以下の通りです。
- 旋律の歌わせ方:主題由来の歌唱線を失わないこと。装飾が加わっても旋律の輪郭を明瞭に保つ。
- 音色の差別化:変奏ごとにタッチやペダルの使い分けで色彩を変える。特にフォルテッシモとピアニッシモのコントラストを明確に。
- リズムとテンポ感:古典派の均衡を保ちつつ、装飾的パッセージではタイトなリズム感が求められる。
- 左右のバランス:低音の和声的支持と上声部のメロディーを適切に配分することが重要。
歴史的演奏実践(period performance)に基づくフォルテピアノでの演奏は、元来の音色や減衰の仕方を通じて当時の響きを再現し、モーツァルトの意図に近い表現を示してくれます。一方でモダン・ピアノによる演奏は音量や色彩の幅が広く、多彩な解釈を可能にします。
作品の位置づけと受容
この変奏曲はモーツァルトのピアノ作品全集の中では小品に分類されることが多いものの、作曲技法と表現のバランスが光る佳作です。18世紀の習慣である“オペラ主題の変奏”というジャンル的背景もあり、当時のサロン音楽、家庭音楽として需要がありました。今日では、演奏会の小品や録音の中で取り上げられることがあり、モーツァルトの多彩な変奏技法を味わえる好例として評価されています。
モーツァルトとサリエリの関係についての一言
モーツァルトがサリエリの旋律を素材に用いたことは、当時の芸術環境において特段異例のことではありません。近代以降に広まった“モーツァルト対サリエリ”という敵対神話(例:プーシキンや舞台・映画作品による描写)は創作の産物であり、史実に基づく証拠は乏しいことを付記しておきます。実際には互いに音楽的な接点や職業上の関係があり、モーツァルトはサリエリを含む同時代作曲家の作品に敬意を払いつつ、素材として取り入れていました。
聴きどころとおすすめの聴き方
本作を聴く際は、まず主題の歌をじっくり聴き取ることを勧めます。そこから各変奏がどのように旋律を変えるか、リズムや和声、テクスチャーの変化に注目してください。特に終結に向けての緊張の高まりや、短調的な挿入がどのように主題の性格を揺さぶるかを意識すると、作品の巧妙さが実感できます。
楽譜と資料
原典版や信頼できる版を参照することが大切です。新モーツァルト全集(Neue Mozart-Ausgabe)や公開されている写譜・楽譜(例えばIMSLPなど)の比較により、装飾音や強弱記号の差異を確認できます。
まとめ
『6つの変奏曲 ト長調 K.180』は、モーツァルトが身近な歌唱素材を如何にしてピアノの語法に翻案したかを示す好例です。表面的には親しみやすい小品ですが、旋律の扱い、和声の遊び、ピアノ的技巧の組合せにより、聴き手に豊かな発見をもたらします。演奏・鑑賞の両面で、短時間に集中して作品の構造と色彩を味わえる一曲です。
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参考文献
- IMSLP - 6 Variations on "Deh vieni alla finestra", K.180 (Mozart)
- Neue Mozart-Ausgabe / Digitale Mozart-Ausgabe(Mozarteum)
- Oxford Music Online(Grove Music Online) — 関連項目検索を推奨
- Wikipedia: Variations on "Deh vieni alla finestra", K.180 (Mozart)
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