モーツァルト K.264(9つの変奏):N.ドゼード《リゾンは森で眠っていた》をめぐる徹底解説
作品概要
モーツァルトの「N.ドゼードの『リゾンは森で眠っていた』の主題による9つの変奏曲 ハ長調 K.264(K6.315b)」は、短く親しみやすい主題を素材に、創意に富んだ変奏を積み重ねていく鍵盤小品です。通称どおり、主題は当時人気を博したオペラ(もしくはオペラからのアリア)に由来しており、モーツァルトがよく行った“時代の歌”を素材にした変奏曲のひとつです。K.264という番号は古いケッヘル目録・新訂版の付番差異(K6表記など)に由来する二重表記で言及されることがあります。
歴史的背景と題材の出所
18世紀後半、イタリアやフランスのオペラ・アリアは広く欧州で親しまれ、鍵盤奏者たちはそうした旋律を素材に変奏曲を作ることが流行しました。モーツァルト自身も少年時代からそうした素材で練習・創作を行い、作品全体にオペラ的な歌謡性や即興性を取り入れていきます。本作は短い主題と9つの変奏から成り、教育的側面と聴衆を意識した娯楽性を兼ね備えています。
主題の作者として譜面上に記される“N.(あるいはNicolas)ドゼード(Dezède)”は、当時のオペラ界で知られた作曲家の一人で、モーツァルトが歌ものの旋律を出典として取り上げた例は他にもあります。作品目録や近代の版では「Lison(リゾン)」「Lison dort(リゾンは眠っていた)」などの表記で紹介されることがありますが、現存する伝承や表記揺れにより題名の細部は版によって差異があります。
楽曲の構造と音楽的特徴
曲は典型的なテーマ+変奏形式で、以下の要素が特徴的です。
- 主題は簡潔で歌いやすく、二部構成の短いフレーズで表されます。ハ長調の明朗さが全体の基調を決定しています。
- 変奏は全9曲で、基本的に和声進行(ベースの骨格)は主題に忠実に保たれつつ、音形、リズム、装飾、演奏技法を次第に変化させていきます。
- モーツァルトは各変奏でさまざまな鍵盤的効果を試みます。右手の装飾的な旋律化、左手による伴奏形の変化(アルベルティ・バス風の分散和音や跳躍的な伴奏)、両手を交差させたり反復音型を用いるなど、技術と音楽性の両面を満たします。
- 調性の大きな移ろいは多くないものの、和声の扱いにウィットや驚きを挟み、最終的には華やかな技巧的展開へと向かっていきます。
変奏の聴きどころ(概観)
ここでは各変奏の細かな小節単位の分析までは踏み込まず、聴きどころを段階的に示します。
- 第1変奏:主題の装飾化。旋律線に軽い装飾が加わり、原形の歌心を失わずに色彩をつけます。
- 中間の変奏群:リズム変化や伴奏形の転換によって性格が変わり、たとえば分散和音を主に据えたものや、右手に速い三連符を配して軽やかさを強調するものが現れます。
- 技巧的な変奏:音階的な上昇下降や跳躍を多用し、鍵盤上の妙技を聴かせる変奏があります。ここでは左右の独立性や音域の広がりが聴きものです。
- 最終変奏:しばしば最も華やかで技巧的な処理が施され、短めのコーダや終結的な装飾で締めくくられます。モーツァルトの“聴衆を喜ばせる”才気が感じられる部分です。
様式・解釈上の注意点
演奏にあたって重要なのは、モーツァルトの古典派的均整と歌心を損なわないことです。以下は実践的なアドバイスです。
- 音楽的フレージングを優先する:装飾や速いパッセージに追われすぎず、旋律線の呼吸を保ちます。
- 装飾は時代感に合わせる:当時の装飾語法(短いモルデントやトリルの扱い)を意識しつつ、過度なロマンティック解釈は避けると効果的です。
- フォルテピアノと現代ピアノの違い:原曲はフォルテピアノやクラヴィコード等を想定した響きで書かれているため、現代ピアノで演奏する際はレガートとスタッカートのバランス、ペダリングの節度に注意が必要です。
- ダイナミクスはしばしば譜面に明示されていません:歴史的に見てモーツァルトの手書き原稿は演奏家の裁量を許すため、曲想に応じた微妙なクレッシェンドやディミヌエンドを付けることが望まれます。
編曲・版・演奏史的観点
この種の変奏曲は学校教材としての価値も高く、様々な編曲や校訂版が存在します。現代では以下のような版や資料が参考になります。
- デジタル・モーツァルト版(Neue Mozart-Ausgabe/Digital Mozart Edition)やIMSLPに収録されているスコア:原典に近い校訂や、手稿譜の画像を参照できる場合があります。
- 演奏史的観点からは、フォルテピアノや古楽器奏者による録音が、18世紀的な響きとテンポ感を示してくれます。一方で現代ピアノの名演も数多く、曲の多様な面が浮かび上がります。
曲の位置づけ—教育的価値と音楽史的意義
本作は高度に革新的というよりは、モーツァルトの作曲技法を小規模で凝縮した好例と言えます。和声的な安定感、旋律処理の洗練、バランス感覚は教育素材として理想的であり、演奏会用の小品としても十分に聴き映えします。こうした短い変奏曲群は、モーツァルトが歌の素材をどうクラヴィーア音楽に転用したかを知る上で貴重な手がかりを与えてくれます。
おすすめの聴き方
初めて聴く場合は、最初に主題のメロディーを把握してから変奏を追うと、各変奏の変化が明瞭に感じられます。演奏の違いを確かめるには、フォルテピアノによる演奏と現代ピアノによる演奏を聴き比べると時代感やダイナミクスの扱いの違いがよくわかります。
結び(まとめ)
「N.ドゼードの『リゾンは森で眠っていた』の主題による9つの変奏曲 K.264」は、短いながらもモーツァルトの構成感覚、旋律の扱い、鍵盤技法への嗜好が凝縮された作品です。古典派の明晰さと歌心に満ちたこの小品は、学習用としても演奏会用としても幅広く楽しめる一曲であり、モーツァルト研究や演奏実践の入口として非常に有益です。
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参考文献
- IMSLP: 9 Variations on “Lison dormait”, K.264 (score and sources)
- Digital Mozart Edition / Neue Mozart-Ausgabe(デジタル・モーツァルト版/NMA)
- Wikipedia: List of compositions by Wolfgang Amadeus Mozart(作品目録)
- AllMusic(録音情報や作品解説の参照)
- Oxford Music Online / Grove Music Online(総説・解説、要購読)
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