モーツァルト「2台ピアノのためのラルゲットとアレグロ 変ホ長調 K. deest(断片)」の解読と聴きどころ
モーツァルト:2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ 変ホ長調 K. deest(断片)とは
「K. deest」と付される作品は、一般的なケッヘル目録(Köchel-Verzeichnis)に番号が与えられていない、あるいは欠番として扱われる作品群を指します。ラテン語の 'deest' は「欠けている」を意味し、作品がケッヘル目録の正規番号に収められていないことを示します。本稿で扱う『2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ 変ホ長調 K. deest(断片)』は、そのような扱いを受ける断片作品の一つで、現存する楽譜の断片から復元的に議論されることが多いものです。
重要なのは、この作品がモーツァルトの真作か否かについて学術的に明確な合意がない点です。断片の存在自体は報告されていることがあるものの、筆跡、紙の種類、和声進行や曲想の分析から真贋を巡る議論が続いているため、「モーツァルト作」と断定して扱う際には慎重さが求められます。
作品の来歴(伝来と資料)
断片として伝わる楽譜はしばしば写譜や弟子、関係者のコレクションの中で発見されます。『K. deest』扱いの資料は、ケッヘル目録の補遺やモーツァルト関連の補遺目録、または音楽学者が編纂した断片集に収録される場合があります。現存資料の所在や写本の伝来は個々の断片で異なり、確定的な一次資料の所在については、各専門機関(例:モーツァルテウム財団、主要図書館やRISMカタログ)で確認する必要があります。
資料検証のために学者が用いる主な方法は以下の通りです。
- 筆跡学的調査(モーツァルト本人やその写譜係の筆跡との照合)
- 紙やウォーターマーク(透かし)の年代測定
- 和声進行・動機展開・形式の様式分析
- 写譜の出所や書誌的情報の追跡
これらの総合的判断により、真作性は高評価されることもあれば、異作者説が唱えられることもあります。現時点での学術文献では、本断片を巡る決定的な結論は広く受け入れられていないため、本文では「断片」としての性格と、モーツァルト作品としての可能性を両面から掘り下げます。
楽曲構成と音楽的特徴(断片の分析)
タイトルに示された「ラルゲット(Larghetto)」と「アレグロ(Allegro)」という二部構成は、古典派的なソナタ形式や複合二部形式と親和性があります。断片に残る音形や和音進行を分析すると、以下のような特徴が読み取れることが多いです(断片の箇所により個別差あり)。
- ラルゲット部分:歌うような主題線を片方のピアノが提示し、もう片方がアルペジオや支えの和音で伴奏する形。モーツァルトの緩徐楽章に見られる簡潔で明晰なフレージングと、装飾的ながら過度でない装飾が特徴的。
- アレグロ部分:二台ピアノの対話が活発になる。テーマ提示部での対位的なやり取り、シーケンスやスケールの展示的反復、転調による緊張の構築が見られる。ソナタ形式の提示–展開–再現のプロポーションを志向する痕跡が認められるが、断片ゆえ完全な展開を確認できない場合が多い。
- 和声と旋法:変ホ長調という調性はモーツァルトにとって温和で祝祭的な色彩を持つことが多い。和声進行は古典派的な機能和声に従いつつ、部分的に色彩的な副和音や短調的な挿入が見られる。
これらの要素はモーツァルトの他のピアノ作品、特に二台または二重奏的作品に見られる語法と共通する点を持ちますが、同時に個性的な表現や断片固有の簡素さも残ります。断片が故に、曲全体の大局的構成や繋がりを推定するには創造的な補填が必要となります。
様式論的観点からの真贋検討
モーツァルト作品と認めるか否かを判断する際、学者は細部の様式特徴を重視します。具体的には以下のポイントが重要です。
- メロディの動機展開:モーツァルトは短い動機を働かせて曲全体を発展させる傾向があるか。
- 和声進行の巧緻さ:予想外の和声や巧妙な転調を用いるか。
- テクスチャの扱い:二台ピアノの対話(あえて片方に主題を割り振り、もう片方が装飾や応答を担当する)を洗練された形で設計しているか。
- リズムとフレーズの明瞭さ:モーツァルト特有の短いフレーズと休止の機能的使用が見られるか。
断片に残る例証をこれらの観点で評価すると、モーツァルト的要素と他者による模倣・補作の可能性が混在していることがしばしば示されます。したがって学術的には「可能性があるが確証はない」といった慎重な表現が用いられます。
演奏上の留意点(断片を演奏会で扱う場合)
断片作品を演奏会や録音で扱う場合、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- 補筆の公開性:断片に演奏上の補筆や編曲を行う場合、その箇所はプログラムや録音の解説で明確に示すこと(聴衆に対する誠実さ)。
- 二台のバランス:二台ピアノは響きの重なりが大きいため、音量とタッチの調整で対話性を際立たせる。旋律を提示する側のタッチはやや前に出し、伴奏側は色彩的に抑える。
- 装飾とテンポ感:ラルゲットでは歌わせるがしつこくならないようにし、短い装飾は時代的慣習に倣いつつ過度なロマンティシズムは避ける。
- スタイルの整合性:もし他のモーツァルト作品と連続して演奏する場合は、楽器の調律(ヴァロットン低音域の響きなど)や演奏上のアクセントを揃えると曲間の違和感が減る。
版と録音、学術的取り扱い
断片作品は商業的に広く流通する楽譜や録音が少ないため、編集者や演奏家による補筆版が散見されます。編集する際は元の写譜の忠実な転写、補筆部分の明示、解説付きのクリティカル・アパラタス(校訂報告)を付すことが望ましいです。学術誌や音楽辞典では、断片の真贋や様式分析を扱った論考が一定数存在しますので、検討する場合は一次資料と合わせて参照してください。
プログラムノートの書き方(紹介文の構成例)
聴衆に断片を紹介する際には、以下の点を押さえると親切です。
- 楽曲の性格と断片である旨(真作性に関する学術的な不確定性を簡潔に説明)
- 断片に残る具体的な聴きどころ(ラルゲットの旋律、アレグロの対話性など)
- 演奏上の補筆がある場合は、その範囲と方針の明示
- 参考文献や原典に関する案内(聴衆がさらに調べられるように)
まとめ:断片が我々に与えるもの
『2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ 変ホ長調 K. deest(断片)』は、確定的な真作性の判定が難しいため音楽学的には注意深く扱われる一方で、演奏面では貴重な音楽的素材を提供します。断片はモーツァルトの全貌を埋めるパズルの一片であり、その音楽語法や楽想は我々に古典派の表現の幅と当時の作曲・演奏習慣を再考させる契機を与えます。演奏・研究ともに、原資料へのアクセスと透明な補筆方針が求められることを忘れてはなりません。
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参考文献
- JSTOR - 音楽学論文データベース(関連論考検索)
- RISM(Répertoire International des Sources Musicales) - 手稿譜・写譜の索引
- IMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト) - 楽譜と写本の公開資料
- モーツァルテウム財団(Fondation Mozarteum) - モーツァルト資料の所蔵機関
- Köchel catalogue(ケッヘル目録) - 作品番号と補遺について
- Grove Music Online(Oxford Music Online) - モーツァルト論考(要購読)
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