モーツァルトの習作と偽作――真偽を見極める音楽学的ガイド
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はじめに:習作と偽作をめぐる混迷
モーツァルトという名は、天才性と同時に「膨大な作品群」を想起させます。しかしその全てが確実にモーツァルト自身によるものかというと、長年にわたって議論が続いています。本稿では「習作(練習・初期作品としての意味)」と「偽作(誤って帰属された作品や意図的に創作された偽物)」という二つの側面から、歴史的背景、識別方法、そして現代の研究動向までを詳しく掘り下げます。
モーツァルトの「習作」とは何か
ここで言う「習作」は、作曲家が学習過程で残した初期の作品や、技術習得のために書かれた短い作品群を指します。モーツァルトは幼少期から作曲を行い、家族や教師の手伝いで多数の短小なアリア、宗教曲、ピアノ曲、交響曲などを残しました。これらには成熟期の驚異的な完成度は見られないものの、作法や作曲技術の習得過程を知るうえで重要な資料です。
習作はしばしば断片的であり、少年期の書法や当時の模倣習慣が色濃く残ります。学習のために教師や父レオポルトの助言を受けた痕跡が残る作品も少なくありません。これらは作曲者の成長を追跡するうえで貴重であり、真作として扱われる場合が多い一方、形式的に未熟なために後世で疑義をもたれることもあります。
偽作/誤帰属が生まれる背景
18世紀から19世紀にかけて、手稿の流通、出版社の編集、音楽市場の拡大により誤帰属や偽物が生まれやすい土壌がありました。主な要因は次の通りです。
- 手稿の散逸と写本文化:原写(ホログラフ)が失われ、写本のみが残ると写譜者の誤記や注釈が入りやすい。
- 出版社の商業的動機:知名度のある作曲家の名を付して売り出すと売上が期待できるため、意図的に帰属が変更されることがあった。
- 初期目録・研究の限界:ルートヴィヒ・フォン・ケッヘルによる初期目録(Köchel Catalog)など、19世紀の目録編纂時には資料不足により誤分類が入り得た。
- 編曲や補筆の混在:他者の作品に補筆や序奏を加えた例(後述)や、師弟間の共同作業が帰属判断を曖昧にする。
ケッヘル目録と「Anhang(付録)」の役割
モーツァルト研究の基礎となるのがケッヘル目録です。初版以降、資料の発見や研究の進展に伴い番号体系や分類は修正されてきました。とくに重要なのがAnhang(付録)で、ここには疑問作や偽作・断片など本体番号が与えられない作品が収められています。Anhangに入ることは「確定的な真作とみなされない」ことを意味しますが、研究が進めば再分類されることもあります。
具体的な有名ケース(概説)
代表的なケースとしては、長年モーツァルト作とされてきた交響曲や楽曲の中に、実際は別人の作品であったり、モーツァルトが一部を補筆しただけの作品が含まれます。もっともよく知られている例の一つは、モーツァルトの名で流布してきた交響曲のうち、実際には同時代の別作曲家の作品が基礎になっているケースです(詳細な番号や版は研究史の文脈で扱われるため、本文では概説に留めます)。このような事例は、現代の楽曲目録や全集編集で訂正されています。
真偽を見分けるための音楽学的方法
音楽学・系譜学の領域では、多角的な手法で作品の帰属を検討します。主なアプローチは以下の通りです。
- 文献・来歴(プロヴェナンス)の追跡:手稿の来歴、オーナー、出版史を調査し、原本の所在や写本の系譜を明らかにする。
- 筆跡(ハンドライティング)比較:作曲者自身の筆跡(ホログラフ)と照合し、同一性を判断する。
- 紙や水印の分析:紙の種類や水印の年代・産地を比較し、書かれた時期の特定に寄与する。
- 音楽様式分析:和声進行、旋律の語法、形式構成、対位法の扱いなどを比較し、時期や個人のスタイルと整合するかを検討する。
- 科学的検査:インク分析、放射性炭素年代測定、マルチスペクトル撮影など、物理的・化学的手段で文書の真正性を評価する。
これらは単独では決定的でないことが多く、複数の方法を組み合わせることで帰属の確信度を高めます。近年はデジタル画像解析や統計的スタイル解析も導入されつつあります。
演奏と録音の世界への影響
偽作/誤帰属の問題は学者だけの関心事に留まりません。演奏家や指揮者、レコード会社、コンサート・プログラム制作者は作品の帰属情報をもとに解釈や宣伝を行います。ある作品がモーツァルトの真作と判明すれば注目度は上がり、逆に偽作と判明すればプログラムから外されることもあります。しかし音楽的価値は帰属の真偽だけで決まるわけではなく、面白さや演奏上の魅力によって演奏され続ける作品もあります。
現代の全集編集と再評価
20世紀後半以降、特に「Neue Mozart-Ausgabe(新モーツァルト全集)」やデジタル版の編集により、資料に基づく厳密な校訂が進みました。これらの批判校訂版は、注釈欄で帰属に関する議論や根拠を示し、読者に判断材料を提供します。研究者間でのコンセンサスが形成されれば、ケッヘル目録や各種カタログに反映され、教材や演奏版が更新されます。
演奏者・一般読者ができること
演奏者やリスナーとして、作品に接するときに次の点を意識するとよいでしょう。
- 版の出典を確認する:使用する楽譜がどの版に基づくものか、注記や校訂情報を読む習慣をつける。
- 来歴に関心を持つ:ライナーノートや全集の解説を読むことで、作品の真偽や研究状況を理解する。
- 音楽そのものを評価する:帰属の有無にかかわらず、音楽的価値や演奏可能性を独自に見極める。
学際的研究の新展開
近年は、人文学と自然科学の協働が進み、手稿の物質分析やデジタル人文学により新たな発見が相次いでいます。たとえば水印データベースと連携した紙の起源特定、スペクトル画像による消えた筆跡の可視化、機械学習を用いたスタイル比較などです。これらは従来の音楽学的証拠と組み合わせることで、より確かな結論を導く助けとなっています。
まとめ:歴史的事実と音楽的評価のバランス
「モーツァルトの習作」と「偽作」は、単に真偽を問うだけでなく、18世紀以降の音楽文化、出版流通、研究史を照らし出す鏡でもあります。帰属が訂正されることはしばしば学問の成熟を示しますが、音楽作品の魅力や演奏価値は別の次元にあります。聴き手としては、来歴や学術的判断を踏まえつつ音楽そのものを味わうことで、より深い鑑賞が可能になります。
参考文献
- Ludwig von Köchel — Oxford Reference
- Neue Mozart-Ausgabe / Digital Mozart Edition(国際モーツァルテウム財団)
- Wolfgang Amadeus Mozart — Encyclopaedia Britannica
- IMSLP — Works of uncertain authenticity (Mozart)
- Bärenreiter — Neue Mozart-Ausgabe(批判校訂版)
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