モーツァルトの失われたフルート独奏曲 K.33a — 由来・真偽・演奏の可能性
序論:K.33aとは何か
「K.33a」と付された作品番号は、モーツァルト作品目録(通称ケッヘル・カタログ)において散逸または出典不明として扱われることのある項目の一つです。一般にはフルート独奏曲として記載されることがあり、同時代の様式から通奏低音(basso continuo)を伴っていた可能性が示唆されてきました。しかし、現存する自筆譜や確実に同定できる筆写譜が見つかっていないため、作品の実体・編成・成立時期には不確定要素が多く、研究者や演奏家の間で議論が続いています。
歴史的背景と年代づけ
ケッヘル番号が30番台に属する作品群は、モーツァルトが少年期(おおむね1764〜1767年前後)に作曲した作品と対応することが多く、当時のザルツブルクや欧州宮廷社会での器楽需要に応じた小品が数多く含まれます。フルートは18世紀を通じて室内楽や舞曲で重要な位置を占め、王侯や上流階級の庇護者に向けた独奏曲の需要も高まりました。そのため、若きモーツァルトがフルート独奏のための短い協奏風あるいは独奏曲を作曲した可能性は十分に考えられます。しかし、K.33aに関しては確たる一次資料が欠如するため、年代や成立状況は資料上の断片的記述や後世の目録付記に依拠することになります。
出典・現存状況と信憑性の問題
K.33aの最大の特徴は「散逸(現存楽譜がない)」という点にあります。ケッヘル目録やその追補版、Neue Mozart-Ausgabe(新モーツァルト全集)などの学術目録では、断片的な記載や疑問符つきで掲載されることがありますが、これは一次資料の欠如と過去の目録編纂時に伝聞や誤記が混入した可能性を意味します。18世紀末〜19世紀に行われた楽譜の移転・紛失、目録作成時の誤同定など、散逸作品に共通する事情がここにも当てはまると考えられます。
学界では次のような慎重な立場が一般的です。第一に「K.33aという項目は史料上で確認されるが、確実な自筆譜がない以上、作曲者=モーツァルトであることを断定できない」。第二に「当該曲が実在したとしても、現在我々が想定する編成(フルート独奏+通奏低音)や楽曲の性格は類推の域を出ない」。このため、研究論文や注釈ではしばしば仮説的な記述が用いられます。
通奏低音を伴った可能性について
18世紀の器楽曲(特に独奏楽器と通奏低音の組合せ)は一般的な編成でした。通奏低音はチェンバロやオルガン、チェロやコントラバスなどで和声と低声部を補強する役割を果たし、独奏楽器は旋律的・装飾的な線を担当します。モーツァルト自身も少年期から通奏低音を伴う宗教曲や室内楽に親しんでおり、仮にフルート独奏曲を作曲していれば通奏低音が付された可能性は高いと言えます。
しかし、ここで重要なのは「可能性」と「証拠」の区別です。現存譜がないため、通奏低音が確実に付されていたとは言えません。目録や副次資料に「basso continuo」「b.c.」等の記述が残る場合にはより確証が得られますが、K.33aに関してはそのような明瞭な注記が欠けています。従って、演奏・再構成を行う場合には、当時の伴奏実践(チェンバロの中声和音の即興省略やチェロによる低声強化)に基づいた再現が妥当である、というのが現状の学術的合意に近い立場です。
楽曲の様式的特徴(推定)
楽曲がもし存在したとすれば、モーツァルトの少年期のフルート曲に見られる以下の特徴が考えられます。まず短い二部形式(A–B)や単純なソナチネ風の構成、旋律は平易で歌いやすく、短い装飾やトリルが用いられることが多い点です。和声は基礎的で、属調への動きや短い副次的調性感が挿入される程度。フルートの扱いは当時の演奏技術に合わせたもので、高度なヴィルトゥオーゾ的技巧よりも音楽的な趣向や舞踊性が優先される傾向にあります。
こうした様式的推定は、モーツァルトの同時期の確実な作品(例えば小品や宗教曲の器楽部分、あるいは他の若年期の協奏的小品)との比較に基づくもので、K.33aを再構成または復元する際の指針となります。ただし、具体的なメロディーや和声進行は推定に過ぎず、現存譜が発見されればこれらの推定は根本から見直される可能性があります。
再構成と演奏上の実務
散逸作品の再構成は音楽学と実践演奏の接点に位置する活動です。K.33aについては、既知のモーツァルト作品の文体を参照してフルート旋律および通奏低音の伴奏を創作することが可能です。再構成にあたっては次の点が重要です。
- 史料に基づく根拠の明示:どの素材(類似作品のモチーフ、当時の通奏低音パターンなど)を基に再構成したかを明記する。
- 演奏実践の配慮:奏者が用いるフルートがモダン・フルートか古典管(バロック/古典派横笛)かで音色や音域感が変わるため、楽器選定を明確にする。
- 和声と伴奏の簡潔さ:当時の通奏低音はしばしば簡略化され即興が前提だったため、チェンバロ実演者や編曲者に即興余地を残す設計をする。
実際に再構成を公開する場合、復元の方法論とその限界を注記することが研究倫理上も求められます。再構成譜は「模擬的な提示」であり、発見された原典に取って代わるものではないからです。
学術的・演奏的意義
散逸作品をめぐる研究は、単なる「失われた作品の復元」以上の意義を持ちます。第一に、モーツァルトの作曲習慣や編曲実践、あるいは当時の楽曲流通と所蔵状況についての理解が深まります。第二に、演奏家にとっては世に出ていないレパートリーの可能性を探り、歴史的演奏実践に基づく新たな解釈を提示する機会となります。K.33aのような項目は、モーツァルト研究の曖昧領域を可視化し、学際的な検討(音楽学、図書館学、保存史など)を促します。
現代におけるプログラミングと録音の提案
演奏会でK.33aの仮再構成を披露する際は、プログラムノートで出典の不確かさと再構成の根拠を明確にすることが大切です。たとえば同時代の確実なモーツァルト作品や同時代作曲家(ハイドン、ルクレールなど)のフルート曲と組み合わせ、聴衆に時代的な文脈を提示するとよいでしょう。録音では、複数の再構成案(たとえばチェンバロ伴奏版と弦楽通奏低音版)を比較収録することで、聴き手に当時の伴奏バリエーションを示す教育的価値も生まれます。
結論:不確実さを抱えた魅力
K.33aは「確証のない名前」が付された作品ですが、その不確実さこそが学術的興味と演奏的創造性を刺激します。現時点では自筆譜は発見されておらず、通奏低音の有無も含めて多くが推定に頼るしかありません。ただし、18世紀の通奏低音実践やモーツァルト少年期の様式を慎重に参照することで、妥当性のある再構築や演奏を行うことは可能です。研究者・編曲者・演奏家が透明性を持って仮説を提示し続ければ、将来、より確かな資料が出現した際に速やかに検証・更新することができます。
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参考文献
- Neue Mozart-Ausgabe / Digital Mozart Edition(モーツァルト全集のデジタル版)
- Köchel catalogue(ケッヘル目録) — Wikipedia(概説、目録史)
- IMSLP(モーツァルト作品一覧と公開譜)
- International Mozarteum Foundation(モーツァルテウム財団)(所蔵資料・研究支援の参照先)
- Neal Zaslaw(モーツァルト研究の概説書・論考)(研究入門として参照)
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