モーツァルト:チェロ独奏曲 K.33h(散逸、通奏低音付か)をめぐる考察 — 来歴・楽曲像・演奏実践の可能性
序論 — K.33h とは何か
「K.33h」と表記される楽曲は、モーツァルトの作品目録において断片的・散逸的あるいは帰属の疑わしい作品に付与される記号類のひとつを示しています。現存する自筆譜が確認できない、あるいは散逸しているために作品そのものを直接聴くことはできませんが、歴史的資料にその存在をほのめかす記載が残っている場合があります。本コラムでは、K.33h が「チェロ独奏曲(通奏低音付か)」と伝えられている点を出発点に、目録学(コーへル目録の付番法)、史料の状況、楽曲の可能性としてのスタイルや編成、演奏・復元の現実的なアプローチを含めて総合的に考察します。
コーへル目録と「付番」のしくみ
モーツァルト作品の標準的な通し番号はコーへル(K., Köchel)番号ですが、原典や新たな発見により改訂版が作られる過程で追加の文字(a, b, c…)や添付番号(Anh.=Anhang)が付されることがあります。こうした付番は、作品の成立年代が不確か、真作性が疑われる、あるいは断片や散逸で確認できるのは題名や短い記述だけ、というケースに用いられます。したがって「K.33h」という表記自体が、作品が確固たる自筆譜として残っていないことを示唆するものだと理解できます(注:具体的な資料照合は後述の参考文献を参照してください)。
史料・来歴の現状(何が残っており何が残っていないか)
自筆譜の欠如:現時点で確たるモーツァルト自筆の譜面(チェロ独奏のための 完整な楽譜)は確認されていないとする見解が一般的です。つまり「散逸(loss)」に分類されうる作品である可能性が高い。
目録上の記載:K.33h のような付番は、古い目録やモーツァルトの伝記的文献、あるいは後世にまとめられた作品一覧の脚注や補遺に根拠を持つことが多い。一次史料(出版目録、注文書、家族・関係者の手紙など)に断片的に言及がある場合、そこから楽曲の存在が推察される。
二次文献と音楽学の扱い:Neue Mozart-Ausgabe(NMA)やモザルテウム(Mozarteum)などの学術機関は、発見された史料を慎重に評価し、真作か非真作か、断片か散逸かを明記する。K.33h に関しても、目録上は「散逸」または「疑わしい」扱いとして扱われている文献がある。
楽曲の想像図:どのような曲だったのか(様式的推定)
証拠となる楽譜がない以上、以下はあくまで様式的・史料的に推測される「可能性」の記述です。モーツァルトの幼年期から青年期にかけてのチェロ扱いを手がかりにすると、次のような点が考えられます。
- 時代と様式:モーツァルトの初期作品(1760年代〜1770年代)はガラン(galant)様式やシンプルなソナタ形式が中心で、旋律の歌わせ方と明確な和声進行が特徴です。仮にK.33h がこの時期に属するとすれば、チェロの独奏旋律は歌謡的で、伴奏(通奏低音)は和声的骨格を提供するかたちになった可能性が高い。
- 楽器編成:「チェロ独奏+通奏低音」と記される場合、通奏低音はチェンバロ(あるいはハープシコード)やフォルテピアノ、そして低音を補強する弦低音(コントラバスやヴィオローネ)で構成されるのが当時の常識です。伴奏は単純な通奏低音図(数字付きベース)だったか、あるいは通奏低音に加えて簡単な通奏低音風の和声楽譜が与えられたかもしれません。
- 形式と長さ:短いソナタ形式(2楽章または3楽章)やロンド形式の小品である可能性が考えられます。モーツァルトは若年期にも室内楽やソロのための小品を多く作っており、それらは演奏実用性を重視した短めの曲が多いです。
通奏低音(Basso continuo)付きという表記が意味するもの
「通奏低音付か」という記述は、編成や演奏慣習について重要な示唆を与えます。18世紀中葉のヨーロッパでは、室内楽やソロ楽器の伴奏に通奏低音を付すことが一般的でした。通奏低音は和声の骨格を担い、チェロの旋律を支える役割を果たしました。以下の点を押さえておくと、楽曲の実像に近づけます。
- 演奏形態:通奏低音はハープシコード/チェンバロ(または初期のフォルテピアノ)と、低音弦楽器(チェロ、コントラバス、ヴィオローネなど)で行われた。チェロが独奏を担当する場合、低音の二重弦(チェロとコントラバス)で低音を支え、ハープシコードが和声を補う編成が想像されます。
- 楽譜の形:通奏低音は数字付きベース(figured bass)で記譜されることが多く、実演者の即興的な和声填補が想定されます。現代の復元においては、このfigured bass を現代の鍵盤楽器用の和声に置き換える作業が必要です。
なぜこの作品が重要か(音楽史的意義)
モーツァルトのチェロ作品は、ハイドンやボッケリーニのように大量のチェロ協奏曲やチェロ独奏作品を残した作曲家に比べると少数派です。したがって、もしK.33h のようなチェロ独奏曲が確証されれば、以下の点で興味深い資料になります。
- モーツァルトのチェロに対する扱い(書法、技術、表現)を補填する資料になりうること。
- 幼年期・青年期のレパートリーにおける編成選択(なぜチェロを独奏に据えたか)の理解が深まること。
- 通奏低音との結びつきから、当時の室内楽の実演慣習を具体的に示す手がかりとなる可能性があること。
復元・再構築の可能性と実践的考察
散逸した作品を現代に甦らせる方法はいくつかありますが、それぞれメリットと限界があります。
- 一次史料に断片が残る場合:短い主題やバス線だけが残っているケースでは、その断片を基に同時代の類似作例(同年代のモーツァルト作品、あるいは同世代作曲家の作品)を参照して補完を試みることが可能です。和声進行や装飾付与は様式に沿って行います。
- 一次史料がまったくない場合:作品の実在を示す記載(書簡や業者目録など)しかないときは、確定的な復元は難しく、当該作品名での「再創作的再構築」になりがちです。学術的には復元と称するには慎重さが求められます。
- 実践上の提案:演奏会で「K.33h をもとにした再構築」として提示する場合は、資料の実情(断片の有無、推定年代、補作部分の根拠)を明示することが求められます。これにより聴衆は史実と創作の境界を理解できます。
他作例との比較 — モーツァルトのチェロ扱い
モーツァルトは交響曲、室内楽、オペラでチェロを重要に扱いましたが、チェロを独奏楽器として取り立てる例は比較的少ないです。したがって、K.33h の存在が確かめられれば、同時代の他のチェロ作品(ハイドン、ボッケリーニ、ロッシーニ以前のチェロ小品など)と対比して、モーツァルトの書法の独自性を考察することが可能になります。
聴衆・演奏家へのメッセージ
散逸作品の研究は史料学・批判的編集学・演奏実践が交叉する領域です。演奏家にとっては、K.33h のような未確定の作品に取り組むことは表現の幅を広げ、同時に歴史に根ざした判断力を磨く機会でもあります。聴衆には、復元や再構築の際に示される学術的根拠に注意を払い、作品史と創作のどこまでが確証されているかを知ることが大切です。
結語 — K.33h をめぐる現状と今後の研究課題
K.33h は「存在が示唆されるが、原典は散逸している可能性が高い」作品と理解できます。決定的な自筆譜の発見がない限り、楽曲の具体的な形態は推測の域を出ませんが、コーへル目録やモザルテウムなどの学術的資源を通じて継続的に検討する価値は高いと言えます。今後の研究課題としては、関連する一次史料の再検証、伝承や目録記述の電子化・横断検索、同時代の類似作例との比較研究、そして慎重に根拠を示した復元プロジェクトの促進が挙げられます。
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参考文献
- Neue Mozart-Ausgabe(デジタル・メンバー・エディション) — International Mozarteum Foundation
- Mozarteum Foundation Salzburg(モザルテウム財団)公式サイト
- IMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト): Mozart, Wolfgang Amadeus カテゴリ
- Köchel catalogue — Wikipedia(コーへル目録の解説)
- List of compositions by Wolfgang Amadeus Mozart — Wikipedia
- Neal Zaslaw, "The Compleat Mozart: A Guide to the Musical Works"(参考概説書 — 出版社サイト)
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