モーツァルト:戴冠ミサ ハ長調 K.317 — 歴史・分析・名演ガイド
概要
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの〈戴冠ミサ(Krönungsmesse)〉ハ長調 K.317は、1779年にザルツブルクで書かれた典礼ミサ曲で、明るく祝祭的な性格と緻密な対位法的処理が共存する作品です。通称「戴冠ミサ」と呼ばれる由来は確定していませんが、華やかなトランペットとティンパニを擁する編成や、典礼上の祝祭行事で頻繁に用いられたことからその名が定着しました。作曲当時のモーツァルトはザルツブルク大司教に仕えており、多くの教会曲を手掛けていましたが、本作はその中でも特に広く親しまれる一曲です。
作曲の背景と歴史
1779年当時のザルツブルクは、典礼音楽が盛んに制作・演奏される都市でした。モーツァルトは宮廷・教会音楽の作曲家としての職務を果たしつつ、オペラや室内楽など多様なジャンルに取り組んでいました。K.317はそのような環境の中で生まれ、当初は教会の祝祭日に用いるために書かれたと考えられます。
「戴冠ミサ」という呼称の起源については諸説あり、特定の戴冠式のために作曲されたという確証はありません。18世紀末以降、本作が諸君主の戴冠や即位礼などの式典で演奏されたことが繰り返し記録され、それが通称成立に関与した可能性が高いとされています。
編成と所要時間
一般的な編成は以下の通りです。
- 独唱:ソプラノ、アルト、テノール、バス
- 合唱:混声四部合唱(SATB)
- 管弦楽:2オーボエ、2ホルン、2トランペット、ティンパニ、弦楽器、通奏低音(オルガン等)
演奏時間はおよそ25〜35分程度で、演奏解釈やカットの有無により幅があります。
楽章構成(概説)
典礼ミサの標準に従い、以下の大きな流れで構成されています。各大節はさらに小節に分かれ、テンポや性格を変えて展開されます。
- Kyrie — 開始は厳格かつ明快な主題で、短めにまとめられることが多い。
- Gloria — 祭儀的で陽光に満ちた音楽。複数の小節("Gloria in excelsis Deo", "Qui tollis"等)に分かれ、響きの対比が鮮やか。
- Credo — 古典派らしい明快な語り口。 "Et incarnatus" などでテンポを落とし、独唱を中心に表情を付ける。
- Sanctus / Benedictus — Sanctusは荘厳かつ合唱中心、Benedictusは独唱や室内楽的な扱いで穏やかに。
- Agnus Dei — 平和への祈りを込めた柔らかな音楽で締めくくられ、最後に短い平和の応答(Dona nobis pacem)が挿入されます。
音楽的特徴と詳細分析
本作の特徴は、祝祭的な編成と明るいハ長調を基調にしつつ、短く切れの良い楽想を積み重ねることで全体に緊張感と統一感を与えている点です。トランペットとティンパニの用法は、聴衆に「祝祭」を強く印象付けますが、モーツァルトは単に派手さを狙うだけではなく、対位法やフーガ的な展開を巧みに織り交ぜています。
例えば、GloriaやCum Sancto Spirituの終結部では対位法的な書法が用いられ、古典派における宗教音楽の伝統を継承しつつ、モーツァルトならではの旋律感とリズム感で若々しくまとめられています。一方、"Qui tollis" や "Et incarnatus est" のような部分ではテンポを落とし、独唱や小編成の響きによって内省的な表現を与えています。こうしたコントラストが、ミサ全体のドラマ性と聴衆の注意を惹き続ける要因です。
声楽と合唱の扱い
合唱は全体の骨格を担いつつ、独唱者との対話も多く見られます。モーツァルトはオペラの経験を通じて身につけた「声の扱い方」を教会曲にも応用し、独唱パートに劇的な色合いを与えます。とはいえ、典礼音楽としての配慮から過度な演技性には走らず、宗教的な厳粛さと歌謡性のバランスを保っています。
演奏上の留意点
- テンポ設定:典礼音楽としての性格を損なわない範囲で、各小節ごとのテンポ変化を自然に行うことが重要です。
- バランス:トランペットとティンパニがあるため、オーケストラが合唱や独唱を圧する危険があり、適切なダイナミクス管理が必要です。
- アーティキュレーション:古典派らしい明確なアーティキュレーションを保ちつつ、抒情的な部分ではレガートを確保すること。
受容とレガシー
K.317は18世紀末から19世紀にかけて頻繁に演奏され、特に祝祭的な行事で好まれました。20世紀以降は歴史的演奏実践(HIP)の台頭により、ピリオド楽器や古楽奏法でも再検討されるようになりました。伝統的なフルオーケストラによる演奏と、古楽のアプローチとでは響きやテンポ感が大きく異なり、楽曲の多面性を示しています。
名盤・指揮者の選び方(簡潔に)
録音は解釈の幅が広く、選び方は好みに依ります。伝統的で壮麗な響きを好むなら大編成・ロマン派的な音色を志向した指揮者の録音が向きます。対して、古典派本来の軽やかさや明快さ、細部の透明性を重視するならHIP系の指揮者や古楽アンサンブルの録音が有力です。複数の録音を比較して、テンポ感・合唱の扱い・アーティキュレーションの差を聴き比べると理解が深まります。
まとめ
モーツァルトの〈戴冠ミサ〉ハ長調 K.317は、祝祭的な外観と宗教的な厳粛さ、そしてモーツァルト特有の旋律美と対位法的技巧が調和した名作です。典礼的な場面にも、コンサートホールにも映える汎用性を備え、聴くたびに新たな発見がある作品といえるでしょう。演奏者にとっては、バランス感覚と様式把握が問われる良い教材でもあります。
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参考文献
- IMSLP: Mass in C major, K.317 (score and parts)
- Encyclopaedia Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart (biography and works)
- AllMusic: Mass in C major ("Coronation Mass"), K.317
- Mozarteum Digital (Neue Mozart-Ausgabe、資料検索)
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