モーツァルト「大ミサ曲 ハ短調 K.427 (K6.417a)」──未完成が示す宗教曲としての巨匠性

概要:未完成でありながら“偉大”と呼ばれる理由

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの「大ミサ曲 ハ短調 K.427(K6.417a)」は、1782年から1783年にかけて作曲された宗教曲で、しばしば単に「大ミサ」と呼ばれます。作品は未完成のまま現存しますが、壮大なスケールと高度に練られた対位法的手法、オペラ的な独唱陣の扱いなど、モーツァルトの宗教音楽における到達点の一つとして高く評価されています。

作曲の時期と資料

大ミサはウィーン移住直後の1782年から1783年にかけての作品とされます。現存する自筆譜(自筆スコアやパート譜の断片)はザルツブルクのモーツァルテウムなどで管理されており、完結した全曲譜は残っていません。部分的に完成した大曲が並ぶため、作品としての構成や演奏形態についてはのちの研究者や編者による補筆・補完が多数行われてきました。

楽器編成と歌唱陣

一般的な編成はソプラノ、アルト(メゾソプラノ表記の場合もある)、テノール、バスの独唱4声(四重唱)と混声合唱、弦楽器群に加え木管・金管・ティンパニを含むオーケストラです。モーツァルトは宗教曲においてもオペラで培った色彩感やソリスティックな扱いを取り入れており、独唱と合唱の対比、ソロによる劇的表現が特徴的です。正確な管楽器や装備については自筆譜の断片に基づき復元版ごとに若干の差がありますが、古典派の大編成で演奏されることが多い作品です。

楽曲構成と未完成の実態

作品は典礼のミサ形式に沿って複数の楽章(Kyrie, Gloria, Credo, Sanctus, Benedictus, Agnus Dei など)を想定して作られています。現在伝わる自筆譜では、キリエやグロリアのいくつかの部分が完全に楽譜化されている一方で、クレード(信仰宣言)の後半やサンクトゥス以降に関しては未完のまま残されています。細かい断片やスケッチがいくつか存在するため、演奏上はそれらを基に補完が行われ、版によっては全曲演奏が可能な形に整えられています。

音楽的特徴:オペラから宗教へ向けた融合

大ミサの魅力は、オペラ的表現と教会音楽の厳格さが同居している点にあります。モーツァルトは独唱に対してアリア風の叙情性を与えつつ、グロリアやクレードのような大規模合唱場面ではカノンやフーガ的書法を効果的に用いており、宗教文言にドラマ性と構築性を同時に付与しています。

  • Kyrie:序唱的な荘厳さと合唱の対話が印象的で、短い部に凝縮された濃密な表現。
  • Gloria:華やかな合唱と独唱のソロ回しが繰り返され、古典派交響楽的な運動感を持つ。
  • Credo:信仰告白というテキストが持つ長尺性を利用して対位法やホモフォニーを交互に用いるが、後半は断片のまま残る。

こうした楽曲的な振幅こそが、この作品を単なる教会音楽の延長ではなく、交響曲やオペラと肩を並べうる“総合芸術”たらしめています。

なぜ未完成なのか:背景と推測

作品が未完成のまま残された理由については諸説あります。1782年はモーツァルトが結婚し、ウィーンでの活動を本格化させた時期であり、多忙や他の委嘱作品、劇場音楽の優先などが原因であった可能性が指摘されています。また、当時の演奏機会や宗教曲の需要の変化も影響したと考えられます。確定的な理由は資料上明らかでないため、研究者の間でも慎重な議論が続いています。

後世の補筆と版、演奏史

未完成であったため、19世紀以降に多くの学者や編者が演奏可能な版を作るための補筆・補完を行いました。20世紀後半からは、原典主義の立場から自筆譜の断片を尊重しつつ、様々な補筆案が提示されています。近年では歴史的演奏実践に基づく演奏や、学術的に整えられた補完版の採用によって、より多様な解釈が可能になっています。演奏史上、この作品は盛んに録音・上演され、未完であることが逆に関心を呼び、研究と演奏の双方を刺激してきました。

解釈上のポイントと聴きどころ

演奏・鑑賞の際に注目したい点を挙げます。

  • 独唱と合唱の配合:モーツァルトはソリスティックな場面を多用するため、独唱陣の役割分担と合唱のバランスが演奏の印象を大きく左右します。
  • フーガと対位法の扱い:大規模合唱部には対位法的技法が用いられ、ここでのテンポ感や発語の締め方が曲の構築感に直結します。
  • 補筆部分の版の違い:どの補完版を使うかでクレード後半やサンクトゥス以降の音楽的帰結が変わるため、演奏者も聴衆も版の出自を確認すると理解が深まります。

学術的評価と文化的意義

学術的には、これはモーツァルトの宗教曲作法と作曲技法を知る上で重要な資料です。未完成という性格ゆえに作品全体の完成像を巡る議論が続き、モーツァルト研究に新たな視点を与えてきました。文化的にも、18世紀後半の宗教音楽と世俗音楽の相互作用を示す好例であり、作曲家が宗教的テキストに対してどのように劇的表現を適用したかを示す重要な証拠です。

現代への示唆

未完のまま伝わる大ミサは、芸術作品の「完成」とは何かを考えさせます。楽譜という客観的な資料が不完全であっても、演奏家や編者、聴衆による解釈と対話を通じて作品は生き続ける。補筆や復元は確かに創造行為を伴いますが、その過程でオリジナルの価値が再検討され、新たな演奏伝統が生まれてきました。

まとめ

モーツァルトの大ミサ ハ短調 K.427 は、未完成であることがかえって多様な関与と解釈を招いた稀有な作品です。オペラ的叙情性と宗教音楽の形式性が融合した音楽は、今日でも深い音楽的・学術的関心を引き続けています。版や補完の選択、演奏解釈の差異を踏まえながら聴くことで、この「未完成の傑作」が持つ多層的な魅力をより豊かに味わうことができるでしょう。

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参考文献