モーツァルトの“Leck mich im Arsch” K.231(K.382c):不遜なユーモアと音楽史的背景を読む
はじめに
モーツァルトのカノン「Leck mich im Arsch」(ドイツ語で直訳すれば「俺の尻をなめろ」)は、作品番号K.231(改訂目録ではK.382c)として知られる短い世俗的カノンです。表題の下品さが注目を集めがちですが、本作は18世紀ウィーンの私的社交文化、モーツァルトのユーモア感覚、そしてカノンという形式の巧みさを理解するうえで示唆に富んでいます。本稿では楽曲の概要、成立事情、歌詞の意味と文化的背景、音楽的特徴、受容史と現代的意義をできるだけ事実に基づいて整理します。
楽曲の概要
「Leck mich im Arsch」K.231(K.382c)は短いカノンで、元は友人同士の内輪の楽しみのために作られたと考えられています。正式な公開を意図した宗教曲や大作とは違い、この種の世俗カノンは仲間内で歌われるジョークとして作曲・交換されることが多く、しばしば下品なテキストや駄洒落を伴います。作品の正確な成立年は文献により異なりますが、一般には1780年代初頭から中期のウィーン時代に作られたものとされます(諸目録では編纂の違いからK.231とK.382cの併記が見られます)。
成立の事情と写本・目録上の扱い
モーツァルトのこの種のカノンは多くが私的な写本や友人への献呈状に残され、公刊作品とは別の流通をしていました。そのため写本の所在や成立年、作者帰属については研究史上の議論の対象になってきました。19世紀後半から20世紀にかけての音楽学的整理により、多数の短いカノン類がモーツァルト作として整理されましたが、いくつかの作品は帰属に慎重な見解が示されることもあります。とはいえ、K.231(K.382c)については一般的にはモーツァルト作として扱われることが多く、現在の代表的な批判版や楽曲目録にも収録されています。
歌詞とその意味—18世紀のユーモア文化
表題に示される文句は下品で直截な命令形ですが、18世紀のドイツ語圏・ウィーンの私的ユーモアを背景に理解すると、必ずしも性的興奮を狙ったものとは限りません。仲間内での相互の侮蔑やからかい、駄洒落やスラング的な表現は、当時の手紙や日常会話の中にも散見されます。モーツァルト自身が残した手紙や周囲の証言から、彼が粗野な笑いを好み、親しい相手には率直で下世話な冗談を言う人物であったことは確かです。こうした背景があるため、このカノンは「仲間内での笑いを共有するための音楽的ジョーク」として位置づけられます。
音楽的特徴と形式
K.231は短いカノン=同じ旋律が時間差で追いかける形式=として構成され、簡潔な対位法と明晰な調性的輪郭を持ちます。皮肉なことに、下品なテキストに対して音楽はいたって古典派らしい透明で均整のとれた書法を示すため、テキストと音楽の落差がユーモア効果を高めています。演奏上の注意点としては、歌詞の明瞭さを保持しつつ、カノンの対位的な絡みを崩さないこと、そして室内的な親密さを再現することが求められます。
上演・録音史と受容
公の演奏においては表題や歌詞の粗野さのためしばしば論議を呼びますが、20世紀後半からは音楽史的興味からコンサートや録音で取り上げられることも増えました。現代の演奏では原語の歌詞をそのまま唱う場合と、より穏当な語に差し替えて演奏する場合があり、どの程度まで史実に忠実であるべきかは演奏者と聴衆の文化的コンテクストに依存します。なお、批評家や学者の間では「モーツァルトの人間像を理解するうえで不可欠な資料」として、この種の世俗カノンを重視する立場が一般的です。
なぜモーツァルトはこのような作品を書いたのか—人格と創作の二面性
モーツァルト研究では、彼の創作上の天才性と日常生活におけるひょうきんな側面、時に粗野なユーモアが同居していたことが繰り返し指摘されます。カノンのような小品は、当時の友人関係や社交の場で生まれる即興的な機会に適合した産物です。重要なのは、こうした作品がモーツァルトの芸術的総体性を損なうものではなく、逆に彼の人間性や社交的ネットワーク、当時の社会文化を理解するための手がかりを与えてくれる点です。
現代的な受け止め方—倫理と歴史的再現
現代では言葉の公害性や表現倫理が重視されるため、こうした下品なテキストをどのように提示するかは慎重な判断が必要です。史実に忠実であることを重視して原文で演奏・紹介することと、現代の公的場にふさわしい形に配慮することのバランスをとることが求められます。また、教育や解説においては当時の文化的背景を付記し、断片的な感情移入や単純な批判にとどまらない文脈化が重要です。
結論
「Leck mich im Arsch」K.231(K.382c)は表題のショック性に目を奪われがちですが、音楽史、社会文化史、モーツァルト個人史の交錯点に位置する興味深い資料です。私的なユーモア、当時の社交文化、そして古典派の対位法的技能が同時に感じられる短いカノンを通じて、モーツァルトの多面的な姿を見ることができます。現代における提示の際には、史料的背景の説明と受容に関する配慮が不可欠です。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- "Leck mich im Arsch (Mozart)" — Wikipedia
- IMSLP: Leck mich im Arsch, K.231 (スコアと写本情報)
- Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart(概説)
- デジタル・モーツァルト・エディション(Neue Mozart-Ausgabe のデジタル版)
投稿者プロフィール
最新の投稿
ビジネス2025.12.29版権料とは何か|種類・算定・契約の実務と税務リスクまで徹底解説
ビジネス2025.12.29使用料(ロイヤリティ)完全ガイド:種類・算定・契約・税務まで実務で使えるポイント
ビジネス2025.12.29事業者が知っておくべき「著作権利用料」の全体像と実務対応法
ビジネス2025.12.29ビジネスで押さえるべき「著作権使用料」の全知識――種類、算定、契約、税務、リスク対策まで

