モーツァルトの4声カノン K.562c (Anh.191) — 起源・構造・演奏の深掘り

イントロダクション:小品の奥に潜むモーツァルトの工夫

モーツァルトは交響曲やオペラといった大作だけでなく、友人や同僚との社交、室内の楽しみのための小品――特にカノンやミヌエット、単純な二重唱など――を数多く残しました。今回取り上げる「4声のカノン K.562c (Anh.191)」は、そうした小品群の一つとして位置づけられ、短いながらも対位法的技巧と機知に富んだ構成を示す作品として注目されます。本稿では、作品の来歴(帰属問題を含む)、楽曲の構造と対位法的特徴、テクスト(歌詞)がある場合の意味、演奏・録音上の留意点、参考資料までを詳しく掘り下げます。

来歴と帰属(作品番号の意味)

まず番号表記について説明すると、K.562c と付される場合、これは伝統的なケッヘル目録(Köchel-Verzeichnis)の本編には収まらず、付録(Anhang, 略称: Anh.)に置かれていることを示します。Anhangに入る作品群には、作曲者不明、または真正性が疑われる作品、あるいは断片・異稿などが含まれます。そのため K.562c (Anh.191) といった表記からは、当該カノンの出自や真正性について何らかの不確定要素があることが読み取れます。

モーツァルトのカノン類は、彼自身の筆による原典譜が残るもの、友人や門弟が筆写した写譜にのみ残るもの、さらには後年に別人によって誤って帰属されたものが混在しています。したがって、本カノンについても、初出史料や写譜の所在、筆写者や年代の特定が帰属判断の鍵となります。学術資料や版の注記を確認すると、K.562c(Anh.191)は伝統的にモーツァルト作として受け継がれている場合と、帰属が慎重に扱われている場合が混在しており、現時点では完全な一致した見解は存在しません。

楽曲の体裁と構造(一般的な4声カノンの分析)

カノンとは、主題(カノン主題)が一定の間隔・一定の声部関係で追いかけられる模倣技法です。4声のカノンでは典型的に、第一声が提示した主題を一定の遅れで第二声、第三声、第四声が追従することで多声音楽が形成されます。モーツァルトのカノン群に見られる主要な特徴を踏まえつつ、K.562cを分析する際の着眼点を挙げます。

  • 模倣の間隔と時差(エントリー間隔):何小節遅れで次の声が入るか。短ければストレートな追いかけ、長ければカノンはより独立した層を形成します。
  • 調性と和声の処理:モーツァルトは古典派的和声感覚を用いながら、カノンの内部で整合するように転調や副和音を巧みに配置します。短い作品でも終止形の扱いに工夫が見られます。
  • 対位法的操作:逆行(リトログラード)や反行(モーションの反転)、音価の伸縮(増行・縮行)などの技法が用いられる場合、それが作品の性格を左右します。モーツァルトはしばしばユーモラスな効果や語感に基づいて、こうした手法を選択しました。
  • テクストとの関係(歌詞がある場合):カノンは歌詞と結びつくことでジョークや二重の意味を生むことがあります(特にモーツァルトの社交カノンに顕著)。テキスト有無は楽曲の意図と演奏解釈に直結します。

K.562cに関しては、譜例を直接参照すれば上の観点で細かい分析が可能です。例えば、提示部での旋律の動き、各声部の和声音程の関係、終結部の扱い(伸ばし終止、全休止、ハーモニック・フィナーレなど)を順に追うことで、曲の設計が明らかになります。

音楽的特徴と聴きどころ

モーツァルトのカノンには“技巧を見せるための仕掛け”と“社交性”の両面があります。本作品が短い場面音楽として用いられたのであれば、次の点が聴きどころになります。

  • 主題の造形美:短いモティーフが反復・転回・模倣される中で、旋律的な魅力が如何に保たれているか。
  • 和声的転回:狭い音域や限られた素材で、如何に変化と終結感を作るか。モーツァルトは転調や和声の小さな逸脱で色彩感を出すことが得意でした。
  • テクスト表現(歌付きの場合):歌詞がユーモアや皮肉を含む場合、アクセント配置や語尾処理が演奏上の重要ポイントとなります。
  • 声部間のバランス:四声それぞれが独立しつつ、全体の混声として均衡するよう演出すること。声部のフォルテ・ピアノの取り方、語尾での揃え方が作品の印象を決定付けます。

テキスト(歌詞)の取り扱いと意味合い

モーツァルトのカノンの中には、風刺的・猥雑な歌詞を持つものが複数あります。これらは当時のサロン文化の一部で、内輪受けや酔客の笑いを誘うために用いられました。K.562c(Anh.191)についても、写譜に歌詞が付されている版と器楽のみの版が存在する可能性があります。歌詞の存在は、仮にそれが俗語や冗談を含む場合には、現代の演奏では慎重な解釈が求められます(史料批判的に原典を確認し、訳注を付けるなど)。

写譜と校訂版――演奏史的問題

この種の小品は個人的なやり取りのために口伝や写譜で流通したことが多く、オリジナルの自筆譜が残っていない場合も少なくありません。したがって現代の演奏者や編集者は、複数の写譜を突き合わせ、筆者や記譜法の差異を見て校訂を行う必要があります。主な注意点は次の通りです。

  • 拍子記号やテンポ標記の欠如:当時は簡略記譜が行われることがあり、復元の際は文脈的判断が必要になります。
  • 歌詞の綴りや節分けの相違:写譜ごとに語句が異なるケースがあります。意味や韻律の観点から最も自然な読みを選ぶことが重要です。
  • 和声の補填:写譜が簡易なため和声の暗記に頼った記譜がある場合、補筆を行うか否かの判断が必要です。

演奏の実践的アドバイス

K.562cのような短い4声カノンを演奏する際のポイントを列挙します。

  • 明確な発音とアーティキュレーション:特に歌詞付きカノンでは単語の切れ目が模倣と同期することが多く、揃えが肝要です。
  • リズムの厳密さ:模倣関係を聴かせるためにはテンポの一定性が重要ですが、楽曲の性格に応じて自然な柔らかさ(rubato)を導入する余地もあります。
  • ダイナミクスの計画:対位法的な層を浮かび上がらせるため、声部間でのバランス調整を事前に決めておきます。
  • アンサンブルの呼吸:4声が直線的に追いかける場面ではブレスの位置を工夫して一致させると、模倣の効果が高まります。

代表的な版・録音とその注記

学術版を利用する場合は、作品番号(K番号)とAnhang表記に注意して、版ごとの校訂方針を確認してください。デジタル化が進んだ現在、写譜原典や複数版をオンラインで比較することが容易になっています。代表的な一次資料や総覧的リソースについては下の参考文献欄を参照してください。録音に関しては、モーツァルトの小品集やカノン全集に収録されることが多く、歌詞の有無や語句の扱いで演奏解釈が大きく異なる点に注目すると面白いでしょう。

帰属問題の影響――なぜ正確な割当が重要か

作品の帰属が不確かな場合、作風分析、年代推定、演奏史的評価が難しくなります。モーツァルト作と認められれば、その作品は彼の創作傾向や後期の様式形成に関する証拠となり得ますが、別人作ならばそうした解釈は誤導を生みます。K.562c(Anh.191)のような例では、慎重な史料批判と音楽学的検討が不可欠です。

結論:小品に見る大作曲家の技巧と遊び心

K.562c(Anh.191)という短いカノンは、形式的にはシンプルでも、対位法的な配置、和声処理、歌詞との結びつきにおいてモーツァルト的な工夫を垣間見せる可能性があります。帰属の問題は学術的な課題を残しますが、演奏者や聴衆にとっては、こうした小品を通じてモーツァルトの多様な顔――技巧家としての一面、社交の場でのユーモア――を味わう良い機会となります。

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参考文献