ショパン「Op.2 ラ・チ・ダレム(『ドン・ジョヴァンニ』より)変奏曲 ロ長調」を深掘りする:若き天才の歌と技巧の融合
はじめに
フレデリック・ショパンの「変奏曲 Op.2(『ドン・ジョヴァンニ』の二重唱〈ラ・チ・ダレム・ラ・マーノ〉による)」は、彼が十代後半に手がけたピアノ作品の一つで、ショパンの初期のスタイルと将来の作曲技法の萌芽が垣間見える重要な作品です。作品番号からも分かるように本作は初期作品にあたり、歌(cantabile)を大切にするショパンの美学と、若き日の華やかな技巧が交錯する点で興味深いものです。本稿では、楽曲の出自、形式と分析、演奏上の特徴と注意点、史的評価およびおすすめの聴きどころを詳しく解説します。
出自と歴史的背景
変奏曲 Op.2 は、モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』に登場する二重唱〈Là ci darem la mano(ラ・チ・ダレム・ラ・マーノ)〉の主題を素材に用いた作品です。ショパンがまだワルシャワで学んでいた若年期に作曲されたと考えられており、彼のレパートリーの中では数少ない管弦楽(あるいはピアノ伴奏)を伴う作品のひとつでもあります。ショパンは生涯で主にピアノ独奏曲を作曲しましたが、本作のようにオーケストラを伴う作品は、当時の公開演奏や自身のピアニストとしての活動に即した性格を持っています。
主題(モーツァルトの〈ラ・チ・ダレム〉)の扱い
モーツァルトの二重唱は、親しみやすく歌いやすい旋律線を特徴とするものです。ショパンはこの素材を単なる装飾の対象とするのではなく、自身の“歌”の言語へと転換しています。原曲の旋律の輪郭を保持しつつ、ショパンらしい装飾的な旋律づくり、左右の手による対位的処理、和声の色付け(臨時記号や半音進行の挿入)などを用いて、多様な表情へと発展させています。
形式と構成の概観
本作は「主題提示 → 変奏群 → 終結(カデンツァ風のソロや華やかなフィナーレ)」といういわゆる変奏曲の伝統的な流れを踏襲しています。ショパンは各変奏で以下のような対比を設け、全体のドラマを構築します。
- 歌(cantabile)を重視した抑制の効いた変奏
- 装飾や分散和音で主題を飾る中間的な変奏
- 技巧や速度を強調した華やかな変奏(パッセージやトリル、オクターブ、連打など)
- 終結に向けて高揚するロマンティックなクライマックス
こうした構成は、聴衆に対して主題の親しみやすさを保ちながら、演奏者の表現力と技術を示す場を提供します。
和声・旋律・テクスチュアの特徴
ショパンは長調の枠組みの中でも、特徴的な和声進行や色彩豊かな短調への一時的転調、増四度や減五度の導入、半音的なアプローチを用いて独自の響きを作り出します。旋律線は常に歌うことを念頭に置かれ、右手の歌わせ方(フレージング、ポルタメント的な表現、装飾音の配置)が作品の中心です。一方で左手は伴奏に徹する場面と、対位的に動いて曲の推進力を生む場面の両方を担います。
テクスチュアの面では、以下のような手法が頻出します。
- 右手に歌う旋律、左手にアルペジオやシンプルな和音の保持
- 和音のブロックや分散和音による色彩的な響き
- 装飾的パッセージによる音の層の重ね合わせ(トリル、速いパッセージ)
- 時折見られるオクターブや重音による力強い声明
ピアニスティックな工夫と演奏上の要点
本作は、ショパンがピアニストとしての自己を印象づけるために書かれた側面があり、同時に歌を失わないことが最大の課題です。演奏に際しての具体的な注意点を挙げます。
- 歌わせる右手:旋律の長いフレーズごとに呼吸とアゴーギクを考え、装飾音は主旋律を損なわない位置で置く。
- 左手の柔軟性:伴奏型が繰り返される箇所でも音色や強弱を変えることで背景の表情を作る。
- 技巧的な変奏の明瞭さ:速いパッセージでは指先の独立性とスタミナが求められるが、音の輪郭を落とさないこと。
- バランス:オーケストラ伴奏がある場合、ピアノは主題を歌う存在であるため、伴奏に埋もれない音量調節と音色選択が重要。
- 自由なテンポの扱い:ロマン派的な自由さ(rubato)は本作でも効果的だが、過度な揺らぎは構造を曖昧にする。
オーケストレーションと楽曲の位置づけ
本作にはピアノと管弦楽のための版が存在しますが、ショパン自身のオーケストレーションは必ずしも評価が高いとは言えない一面があります。オーケストラはソロを支える伴奏的役割を果たし、楽曲全体のダイナミクスを補強します。近年の演奏では、ショパンの緻密なピアノ書法を活かすために、伴奏を手堅く整えた演出やピアノ主体の扱い(ピアノ独奏版・ピアノリダクション併用)を選ぶ演奏が多く見られます。
様式的・音楽史的意義
変奏曲 Op.2 は、ショパンの初期創作の中で「歌の伝統」と「ピアニズムの革新」が出会う作品例です。モーツァルトの素材を扱うことで古典的伝統への敬意を示しつつ、ロマン派的に個人的な表現へと昇華させます。また、この作品はショパンがピアニスト兼作曲家としての評判を築くうえで役立ち、後年のノクターンやワルツ、ポロネーズなどで発達する彼の旋律美や和声感覚の萌芽が見て取れます。
演奏史とレパートリーとしての扱い
本作はショパンの代表作(ノクターンやコンチェルトほど頻繁に取り上げられるわけではない)という位置づけですが、コンサートのプログラムに置かれると聴衆に親しみやすい魅力を発揮します。ピアニストにとっては早期に克服すべきレパートリーの一つであり、表現力と技巧の両方を示す好機となります。近年は歴史的演奏や多様な編曲・オーケストレーションの試みもあり、解釈の幅が広がっています。
聴きどころガイド
以下に、初めて本作を聴く・研究する際のポイントをまとめます。
- 主題の“歌”を常に意識して聴く。旋律線がどのように変奏され、装飾されるかを追う。
- 各変奏の性格(抒情・技巧的・リズミカルなど)を区別して把握する。
- 和声の変化や一時的な短調転調、また終結部へのビルドアップに注目する。
- ピアノと伴奏(オーケストラ)とのバランスに注目。オーケストラが何を補っているかを聞き分ける。
演奏家へのアドバイス
学習者・演奏者への実践的な助言としては、まず主題の歌唱性を確保すること、次に技巧的場面での音の明晰さを重視することです。装飾や速いパッセージは“見せ場”ですが、主旋律を犠牲にしては本末転倒です。テンポ選択は曲想に合わせた柔軟さを持ちつつ、曲の構造的要素(フレーズの始まりと終わり、重要な和声のポイント)を常に把握してください。
おすすめ録音・参考演奏の聴き比べ方
録音を聴く際は、テンポ設定、フレージングの長さ、ルバートの用い方、伴奏処理の違いに注目してください。ある演奏は歌を第一に据え、別の演奏は技巧性やショー的側面を前面に出すことがあります。複数の録音を比較することで、本作の多面的な魅力をより深く理解できます。
まとめ
ショパンの変奏曲 Op.2 は、古典的主題をロマン派的視点で再解釈した魅力的な作品です。若きショパンの歌心と技巧が同居し、演奏者にとっては表現の幅を示す格好の題材でもあります。楽曲の細部に注意を払いながら聴くと、モーツァルトの旋律がショパン独自の語法で再生される様子を味わうことができるでしょう。
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参考文献
- Fryderyk Chopin Institute(ショパン研究所)
- IMSLP(楽譜・スコア)
- Encyclopaedia Britannica:Frédéric Chopin
- Wikipedia:Variations on "Là ci darem la mano" (Chopin)
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