ショパン Op.64 三つのワルツ徹底解説 — 各曲の分析・演奏法・聴きどころ
序文
フレデリック・ショパンの《ワルツ》Op.64は、三曲から成る小品集で、ピアノ・レパートリーの中でも特に人気の高い作品群です。それぞれ性格の異なる三つのワルツは、サロン音楽としての魅力を保ちながらも、ショパン独自の詩情と高度なピアニズムを備え、演奏者と聴衆の双方を惹きつけます。本稿では各曲の楽曲分析、歴史的背景、演奏上の留意点、聴きどころや参考録音までを詳しく解説します。
Op.64 概観
Op.64 は三つのワルツ(No.1 ニ長調、No.2 嬰ハ短調、No.3 変イ長調)からなり、それぞれが短いながらも明確な性格と構成を持っています。ワルツという舞曲形式を基盤としつつ、ショパンはそこに詩的な間、微妙なリズム処理、複雑な和声進行を織り込み、単なる舞曲を超えた芸術性を付与しました。作品集としてはまとまりがありながら、個々の曲は独立した小品としても高い存在感を示します。
第1番 ニ長調 Op.64-1(通称「小犬のワルツ/楽章のミヌエット」)
通称「円舞曲(ミヌエット)」「子犬のワルツ」や英語圏での「Minute Waltz(ミニット・ワルツ)」として知られるこの曲は、軽快で速いテンポ、流れるような右手の装飾的な旋律、そして伴奏を支える左手の規則的な打鍵が特徴です。短い曲ですが、左手のリズムが拍子感を保ちながら右手の歌を際立たせる設計になっています。
構成は単純なA–B–A形式に近く、中央部でテーマの変奏や転調が現れます。テクスチュアは多くの部分で二声的に整理され、右手で装飾音やアルペジオ風の流れを担当し、左手は伴奏のオスティナート的な役割を担います。演奏にあたっては、速いテンポに流されすぎず、左手の均一な拍の維持と右手のフレーズの形づくりが重要です。
エピソードとして、ショパンが小犬が自分の周りを回るのを見て霊感を得たという話がしばしば紹介されますが、これは伝説的な説明であり、史実として断定することはできません。しかしこの逸話は曲の軽やかさや愛らしさを象徴するものとして広く受け入れられています。
第2番 嬰ハ短調 Op.64-2
Op.64-2は一転して内省的で、陰影のある情緒をたたえたワルツです。主部は嬰ハ短調という色彩の濃い調で書かれ、切迫した感情と不安定な和声進行が印象的です。中間部(トリオに相当)では、調性が変化して明るさを帯びる箇所が現れ、対比が効果的に用いられています。
この曲では、ショパン得意の細やかな内声処理や、短いモチーフの発展が味わえます。演奏上は、強弱の微妙な揺れ(ニュアンス)とフレーズの線の作り込み、そしてテンポ・ルバートの使い方が鍵になります。ルバートは感情表現の道具であると同時に、拍子感を損なわないよう節度を保つことが求められます。
第3番 変イ長調 Op.64-3
Op.64-3は三曲中最も華やかで堂々とした性格を持ち、しばしばアンコールピースとしても演奏されます。大きなスケール感、左手のしっかりとした伴奏、そして豊かな和声進行によって、ショパンのワルツが舞曲という枠を超えてコンサートピースとして機能することを示しています。
楽曲は明快な主題を持ち、装飾音やダイナミクスの幅が広く、終結部は華やかに締めくくられます。演奏では、和声の色彩感を出すこと、メロディと伴奏のバランス(特に左手の重さをどの程度出すか)、そして広いダイナミック・レンジの表現がポイントです。
形式と和声の特徴
三曲ともにワルツの三拍子性を保持しつつ、ショパンはしばしば拍の内での不均等さやアクセントのずらしを用い、拍行進の均一さからの微妙な逸脱を作り出します。また、平行調や近親調への移行、短調と長調の対比、そして巧妙なモジュレーションが各曲のドラマを生み出しています。左手のアルペジオやベース・オスティナートはリズムの下地を作り、その上で右手が自由に歌う構図が多用されます。
演奏上の実践的アドバイス
- 拍子感の確立:ワルツの三拍子を基軸に、左手で拍の核(特に第一拍)を明確にする。ただし強拍が重くなりすぎないように。
- ルバートの節度:ショパンの語法としてルバートは不可欠だが、乱用すると拍子の崩壊を招く。短いフレーズごとに意味のある遅速を設計する。
- ペダリング:ペダルは色彩や残響を作るために用いる。音が濁らないように小まめな踏み替えとハーフペダルの活用を考える。
- 音色の分離:右手のメロディと伴奏的な内声を明確に分ける。指の重さと手首の使い分けで声部を浮かび上がらせる。
- テンポ設定:各曲の性格に応じたテンポを選ぶ。第1番は軽快だが過度に速くしない。第2番は内省的に、第3番は堂々と。
楽譜版と校訂について
ショパン作品は初版や校訂版によって細部が異なることが多く、特に装飾音やフェルマータ、ペダル指定などに差が見られます。学習や演奏の際は複数版(初版、ショパン全集版、現代の校訂版など)を参照し、ショパン当時の慣習と演奏上の実用性を照合して解釈を決めると良いでしょう。
聴きどころとおすすめの録音
各ワルツにはそれぞれの魅力があります。第1番はその愛らしさと技術的な軽やかさを、第2番は内的な表現力を、第3番は堂々たる色彩とフィナーレ感を楽しんでください。録音に関しては、アルトゥール・ルービンシュタイン、アルフレッド・コルトー、ウラディーミル・ホロヴィッツ、マウリツィオ・ポリーニなど名演が多数あります。現代の演奏では、演奏者ごとのルバートや音色の違いを聴き比べることで新たな発見が得られます。
ピアニストへの練習法
- 部分練習:速いパッセージはゆっくりから始め、徐々にテンポを上げる。必ずリズムの正確さを維持する。
- 手の独立性:右手と左手で役割が明確なため、片手ずつの練習で音色と動きの違いを際立たせる。
- フレージング練習:小節ごと、句ごとに目標とする呼吸点を決め、歌うように弾く練習をする。
- 録音チェック:自分の演奏を録音してリズム、バランス、テンポ習慣を客観的に確認する。
聴衆に伝えたいこと
Op.64の三つのワルツは「短い」ことが美点です。短さゆえに無駄がなく、ショパンは僅かな音数で深い情感を伝えます。聴く際は、表層の技巧だけでなく和声の移り変わりや内声のうねり、休符の作る間(ま)に耳を傾けると、より豊かな世界が開けます。
結語
ショパンのOp.64は、技術と詩情がバランス良く結びついた名作集です。演奏者には繊細な表現力と構築力が、聴衆には濃密な音楽体験が要求されます。各ワルツの個性を理解し、演奏の選択肢を増やすことで、より深い演奏と鑑賞が可能になります。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica: Frédéric Chopin
- IMSLP: Waltzes, Op.64 (score)
- Wikipedia: Waltzes (Chopin)
- AllMusic: Waltzes, Op.64
- Naxos: liner notes and commentary on Chopin's waltzes
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