バッハ BWV5『われいずこに逃れゆかん(Wo soll ich fliehen hin)』徹底解説:歴史・楽曲分析・名演ガイド

序論 — BWV5とは何か

ヨハン・ゼバスティアン・バッハの〈BWV5〉は、独語のコラール(聖歌)を素材にしたカンタータで、一般に「Wo soll ich fliehen hin(われいずこに逃れゆかん)」として知られます。1724年にライプツィヒで初演されたこの曲は、バッハが行った“コラール・カンタータ・サイクル”の中心的作品群の一つであり、罪と救いという悔悛的な主題を深く掘り下げた傑作です。

歴史的背景と初演

BWV5は、1724年9月12日(ライプツィヒにおける14日後の日曜礼拝にあたる)に初演されたとされています。これはバッハのライプツィヒ在任初期、通称「第二年のカンタータ・サイクル」に属する作品で、当時バッハは教会礼拝のために定期的に新作を提供していました。テキストの原作はヨハン・ヘルマン(Johann Heermann)が1630年に著した讃美歌『Wo soll ich fliehen hin』であり、バッハはその宗教詩を音楽的に再解釈しています。

歌詞と神学的主題

ヘルマンの讃美歌は、戦乱と疫病の時代に生まれた悔悛(懺悔)の歌であり、個人的な罪の意識と神への避難(逃れ)を主題とします。バッハはこの既存の讃美歌を素材として、各連(stanza)に対して音楽的に異なる処理を施し、絶望から慰め、最終的な信仰の確信へと導くドラマを構築しました。礼拝の文脈では、「罪を悔い改め、キリストに避難する」ことが説教の中心テーマと呼応するため、BWV5は典礼的にも高い適合性を持ちます。

構成と楽器編成(概説)

Bachのコラール・カンタータに典型的な構成を取り、冒頭は合唱を中心としたコラール・ファンタジア、内部に抒情的なレチタティーヴォやアリアを挟み、最後は四声コラールで締めくくられます。編成は4声混声合唱・独唱陣に弦楽器、木管・オーボエ類、通奏低音を基本としたライプツィヒ教会楽団の編成が想定されます。楽器の詳細配役は版によって表記が異なることがありますが、色彩豊かな管楽器と弦楽器の対話が重要な役割を果たします。

楽曲分析:主な特徴と聴きどころ

冒頭のコラール・ファンタジアは、原唱の旋律(コラール旋律)をソプラノのカントゥス・フィルムス(cantus firmus)として安定的に配置し、下層で複雑な対位法とオーケストラのモティーフが展開します。バッハはこの形式を用いて、テキストの悲嘆や不安をオーケストラの動きや和声の転回、染み入るような半音階進行で描写します。特に「逃れ」という語句に対しては、不安定な和声や急速な動きで描く一方、救いのイメージに到達する箇所では和声が開き、トニックに戻ることで心の安堵を示します。

内面的なソロ部分では、しばしばレチタティーヴォが神学的な説明や訴えを担い、アリアが個人的な感情表現を担います。楽器伴奏は単なる装飾ではなく、テキストの語意に即した「語り手」として機能します。例えば、弦の細かい刻みやオーボエの持つ人声に似た色彩は、罪の苦悶や涙を表すことが多く、通奏低音は常に救済への土台を示す役割を果たします。

和声と影の描写:バッハの語法

Bachは和声的な転回、半音階的進行、クロマティシズムを用いて罪と恐怖を音で表現します。対照的に、救いの場面では明確な長調への転調やホモフォニック(和声的)な扱いが用いられ、聴覚的に「解放感」を感じさせます。こうした対比は、カンタータ全体を通じて繰り返され、聴者に精神的な旅路—絶望から信仰へ—を体験させます。

演奏と解釈の留意点

BWV5を演奏する際の重要点は、テキストの意味を常に音楽に反映させること、そしてバロック様式のアゴーギクや発音、バロック弦・通奏低音の扱いに配慮することです。合唱はポリフォニックな部分でのイントネーションとバランスを重視し、ソロは詩節の語尾や内的強調を明確にすべきです。また、管楽器の色彩を如何に用いるかが演奏の鍵で、オーボエなどの持つ「人間的」な音色がテキストの表情を豊かにします。

代表的録音と参考演出

BWV5は録音も多く、演奏スタイルによって印象が大きく変わります。歴史的演奏法を採る演奏(Masaaki Suzuki、Ton Koopman、John Eliot Gardinerなど)は透明なテクスチャーとリズムの鋭さを重視し、伝統的な大型合唱・オーケストラの演奏(Günther RaminやKarl Richterの旧録音など)はより重厚で劇的な表現を見せます。初めて聴くなら異なるアプローチの数点を聴き比べることを薦めます。

楽譜と研究資料

楽譜は新バッハ全集(Neue Bach-Ausgabe)や現代の批判版を参照するのが学術的に望ましいです。礼拝目的の作品であるため、テキストの変化や番号付け(stanzaの扱い)に注意し、歌詞の版や校訂差異を確認すると解釈に深みが出ます。

結論:BWV5が教えるもの

BWV5は単なる音楽的技巧の見世物にとどまらず、人間の罪とその救いという普遍的テーマを音と構造で深く描いた作品です。バッハは讃美歌という親しみやすい素材を、卓越した対位法と和声感覚で再加工し、聴く者を精神の旅へ誘います。日常的な礼拝音楽から生まれたこのカンタータは、現代のリスナーにも強い共感と感動を与え続けています。

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参考文献