バッハ《BWV25 Es ist nichts Gesundes an meinem Leibe(汝の怒りによりてわが肉体には)》徹底ガイド:テクスト、音楽表現、演奏と受容
序文:作品の概観と訳題
J.S.バッハのカンタータBWV25は、ドイツ語の祈祷的な文言を基にした宗教作品で、日本語題として知られる「汝の怒りによりてわが肉体には」(原題の一節に由来する)という表現は、本文が詩篇の苦悩や神の怒りへの嘆きを扱っていることを示しています。本コラムでは、文本の出典とリトルギー的背景、音楽的特徴、演奏上の注意点、史的資料と現代的な受容までをできる限り正確に検証しながら詳述します。
テクストと宗教的文脈
BWV25のテクストは、旧約聖書の詩篇(特に苦悩や神の叱責に関する節)を基にしたものとされ、その語り口は悔悟と肉体的・精神的苦悩の描写に重きを置いています。ルター派礼拝の文脈では、詩篇は個人的な悔悛と共同体的祈祷の両面を持ち、カンタータは礼拝においてその教訓的役割を果たしました。
作詞者(リブレット作成者)は明確に特定されていないことが通説で、バッハが当時用いた言語的素材は既存の賛美歌句句や聖書本文の逐語的引用、ならびに匿名の説教的改作(詩的なパラフレーズ)を含むことが多いです。したがって、作品を理解するには聖句の意味とその礼拝上の機能を踏まえることが不可欠です。
作曲時期・初演の位置づけ(概説)
BWV25は、バッハのライプツィヒ時代初期に属すると考えられており、礼拝用カンタータ群の一作として位置づけられます。初演の正確な日付については諸説ありますが、ライプツィヒでの教会暦に従う用途を持つ作品である点は明確です。原典資料としては写譜や初期版が残されており、これらが現代の校訂版や演奏版の根拠となっています。
編成と楽章構成(一般的特徴)
バッハの多くの教会カンタータと同様、BWV25は混声合唱(SATB)、独唱声部(ソロ歌手群)、弦楽器、木管(しばしばオーボエ系)、通奏低音(チェロ、コントラバス、チェンバロまたはオルガン)を基本編成とすることが一般的です。楽章数は作品によって差がありますが、典型的には合唱で幕を開け、続いてレチタティーヴォやアリア、最後にコラール(賛美歌)で閉じる構成が取られます。
この配置は礼拝中の読み物や説教の流れに合わせ、合唱が共同体の声、ソロが個人の祈りや感情を表す役割を担うというバッハの典型的なカンタータ観に合致します。
音楽的特徴と表現技法
BWV25に特徴的なのは「テキスト・ペインティング」の用法です。たとえば、神の怒りや人間の苦悩を描く箇所では、半音階的下行進行や不協和音、長い停留と連続する短い音価の対比によって緊張感が生まれます。バッハは言葉の意味を音形で忠実に表すことを得意とし、その結果として和声の急激な転調や一時的な短調領域の拡張が生じます。
合唱部分では対位法的な処理や短いフーガ主題の導入が見られ、共同体の祈りとしての重さを与えます。一方で独唱アリアでは、旋律線の装飾やリズムの自由さ(アリアのアッフェクトを深めるための伸縮)が強調され、個人的嘆願の性格を際立たせます。
和声と言語描写
詩篇的テキストに対応して、バッハは痛恨や悔恨を表すために、短調の途次的和音進行や増四度・減五度といった緊張を含む和声を多用します。特に重要なのは、神の『怒り』や『罰』といった概念を表す低音域のしっかりした根音進行と、高音域の不安定な半音運動の対比です。この対比が聴き手に「恐れ」と「救いの望み」のコントラストを伝えます。
演奏上のポイント(指揮者・歌手・器楽奏者向け)
- テキスト理解を最優先に:各語句の意味を明確にし、それに応じてフレージングと音色を変える。語尾の切り方、語頭のアタックで意味が変わることがある。
- 装飾とレトリック:独唱アリアの装飾は過度に華美にせず、歌詞の感情線に寄り添うこと。バロックでの意味論的装飾(言葉の重要箇所でのモルデントなど)を適宜用いる。
- 合唱の規模:歴史的演奏復興派は「OVPP(一声部一人)」を採ることが多いが、教会空間や音響、指揮者の意図に応じて小編成合唱を選ぶのも一策。合唱のアンサンブル精度が作品の説得力を左右する。
- テンポとアクセント:テクストの語気(断定、嘆願、問いかけなど)に合わせてテンポ感を緩急させる。特にレチタティーヴォでは語りかけるような自然な速度感を重視。
版と資料(原典校訂の観点)
現代で演奏される際には、新バッハ全集(NBA)や主要な校訂版、または原典版を参考にすることが推奨されます。バッハの手稿譜や初期写譜、さらには18世紀の楽譜慣習を踏まえた解釈注が付されている版を用いると、装飾やリピート、オルナメントの付与方法などが明確になります。演奏者は校訂者の判断と原典資料の差異を理解した上で最終的な音楽決定を下すべきです。
受容史と録音史の概観
BWV25はバッハのカンタータ群の中ではやや専門的な位置にあり、全カンタータ録音プロジェクトを行った指揮者たち(ジョン・エリオット・ガーディナー、トン・コープマン、鈴木雅明ら)によって20世紀末から21世紀初頭にかけて複数録音が制作されています。これらの演奏はそれぞれ歴史的演奏慣習(HIP)に基づいた解釈を示しており、アーティキュレーション、テンポ、合唱配置の違いが興味深い比較を可能にします。
分析:代表的場面の具体的考察
(1)冒頭合唱:共同体の声としてのフーガ的導入と、悲嘆の主題を担う下降進行の併用が聴かれる。合唱の和声進行における急転回は、神の不可解な裁きを音楽的に示唆する。
(2)ソロ・レチタティーヴォ:語りの部分では通奏低音との緊密な駆け引きがあり、しばしばアゴーギク(テンポの揺らぎ)で語りのセンテンスが強調される。エモーショナルな頂点ではアコレード(伴奏の転調)を伴うことが多い。
(3)アリア:メロディックな装飾と器楽の応答(リトルネロ)の間で感情が開陳される。器楽的なモチーフの反復がテキストのフレーズを反復し、聴覚的にメッセージを強化する。
聴きどころと教育的利用
聴衆に対しては、まずテキストを事前に読むことを勧めます。言葉の意味を理解した上で音楽を聴くと、バッハの音楽表現が如何にテクストと結びついているかがより明瞭になります。教育現場では、和声進行のテクスト描写やバロック時代のアリア構造の教材として非常に有用です。
まとめと現代的示唆
BWV25は、詩篇に由来する深い宗教的感情とバッハが培った対位法・和声語法が結実した作品です。礼拝用音楽としての機能性と高度な音楽表現が両立しており、解釈の幅が広い分だけ演奏者の思想や歴史観が如実に反映されます。原典資料と現代校訂を照合しつつ、言葉への忠実さを第一に据えた演奏が作品の核心に迫る鍵となるでしょう。
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参考文献
- Bach Cantatas Website — BWV 25
- IMSLP — 楽譜(Es ist nichts Gesundes an meinem Leibe, BWV 25)
- Bach Digital — Bach-Archiv / デジタル・リソース(作品検索)
- Bible Gateway — Psalm 38(参考テクスト)
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