バッハ「BWV 60 おお永遠よ、汝おそろしき言葉よ」徹底解剖:テクストと音楽が描く“永遠”の劇

導入 — 『O Ewigkeit, du Donnerwort』は何を語るのか

ヨハン・セバスティアン・バッハのカンタータ BWV 60『O Ewigkeit, du Donnerwort(おお永遠よ、汝おそろしき言葉よ)』は、短くも劇的な対話形式の教会カンタータです。中心となるテーマは“永遠(Ewigkeit)”と“死(Tod)”という普遍的な主題であり、歌詞の強烈さと音楽の彩りによって聴衆に直接訴えかけます。本稿では、テクストの宗教的背景、バッハの音楽的表現、演奏・解釈上の注意点、そして代表的な録音と参考資料までを広く掘り下げます。

テクストと神学的背景

作品の題名にもある“O Ewigkeit, du Donnerwort”は、17世紀のドイツの宗教歌(コラール)のタイトル語句で、永遠を“雷の言葉(Donnerwort)”にたとえる表現が強烈です。こうしたイメージは、ルター派の終末観や最後の審判に関する聖書的モチーフと深く結びついており、具体的には“人はいつ死ぬかを知れない・永遠への備えが必要だ”という呼びかけに帰着します。バッハはこの種のテキストを、教会暦の朗読(福音書の箇所)と呼応させて音楽化することで、礼拝の説教を音楽的に補強しました。

形式とドラマ:対話形式の意味

BWV 60 は、ソロ声部同士の対話(典型的には“魂(Seele)”と“死(Tod)”の擬人的役割)を通じて、内的な葛藤を舞台化します。バッハはしばしば人物の対話を通して倫理的・神学的メッセージを鮮明にしたため、このカンタータでも声と器楽の対比や相互作用が演劇的効果を生み出します。対話の構成は、単なる情緒表現にとどまらず、信仰告白や悔悛のプロセスを聴衆に体験させる仕掛けになっています。

音楽的特徴:和声、リズム、テクスチュア

バッハは言葉の意味を音楽的に具体化するために多様な作法を用います。例えば「Donnerwort(雷の言葉)」のような強意語には、ドッタリズムや短い切迫したフレーズ、重音的な和声移動を当てることが多く、聴覚的な“衝撃”を作り出します。一方で“永遠”という観念については、持続音や広がりのある和声、反復と展開を用いて時間の拡張感を表現することが考えられます。また、対話部分ではテクスチュアがしばしば簡潔になり、声部が明瞭に聞こえるように器楽伴奏が抑制される場面が見られます。

楽器編成と声部運用(演奏上の注意)

BWV 60 は小編成で上演されることの多い作品です。対話的な性格を持つため、ソリストの演技性や発語の明瞭さが重視されます。古楽演奏ではヴィオラ・ダ・ガンバやリコーダー、オーボエ等の色彩を用いる場合があり、モダン楽器でも個々の音色を意識してバランスを取ることが大切です。特に低声部(死を象徴する役)には輪郭のはっきりした低音が求められ、上声部(魂)には柔らかさと人間性を感じさせる歌い回しが求められます。

モティーフと語り口の分析(例示的考察)

楽曲中に繰り返し登場する小さな動機や和声進行は、テクストのキーワードと結びついて意味を帯びます。たとえば不安や恐怖を表す短い下降形のモティーフ、不可避性を示す厳格なリズム、解決を先延ばしにするための半終止の多用などが考えられます。これらはバッハに典型的な“音楽による語り”の要素であり、テキストのニュアンスを聴覚的に増幅します。

合唱(あるいはコラール)の機能

この作品では、コラール(宗教歌)の引用や応答が、物語の道標として働きます。コラールの箇所はしばしば集団的な信仰告白や、音楽的な落ち着き(安らぎ)を提供し、個人的な対話部分とのコントラストを強めます。礼拝における共同体の役割を音楽的に再現するため、合唱部分あるいはコラールをどのように配置するかは演奏者の解釈により大きく表情が変わります。

演奏史と録音の系譜(簡潔に)

20世紀後半以降、歴史的音楽実践(HIP)の潮流により、BWV 60 のような小編成カンタータは古楽器・小編成で演奏されることが増えました。一方でモダン楽器による伝統的な演奏も根強く、解釈の幅は広いです。名高い演奏家・指揮者による録音は複数存在し、それぞれ表現の焦点が異なります。録音を聴き比べることで、音色、テンポ感、アーティキュレーションの差異を学ぶことができます。

実演・聴取のためのガイドライン

  • ソリストの声質に注目する:魂と死の性格付けが演奏の質を左右します。
  • テキストを読んでから聴く:ドイツ語の語感が音楽理解を助けます(訳を手元に)。
  • 器楽の細部に耳を澄ます:低音の動きや continuo の装飾が劇的効果を生むことが多いです。
  • コラールの扱いに注意:合唱・コラールが作品全体のメッセージを集約する役割を担います。

現代の演奏と解釈のヒント

現代の演奏では、バランスと明瞭さ、語りの自然さが鍵になります。声部のダイナミクスや呼吸の位置をテクストに合わせることで、対話の“生々しさ”が増します。また、古楽器ならではの音色の差異を活かすこと、モダン楽器では弦のボウイングや管楽器の色彩でドラマを作ることが有効です。指揮者は会衆(聴衆)を視野に入れて、礼拝音楽としての機能とコンサート作品としての表現をどう均衡させるかを判断します。

結び — BWV 60 が現代に投げかけるもの

BWV 60 は短いながらも濃密な宗教劇であり、永遠や死といった普遍的主題を鋭く提示します。バッハはテクストと音楽の結合を通して、単なる教理の提示を越えた“体験”を創出しました。現代の私たちがこの作品を聴くとき、そこには時代を超えた問いと、音楽が持つ説得力が残っています。礼拝の場でもコンサートホールでも、この作品は聴く者に深い内省を促すはずです。

エバープレイの中古レコード通販ショップ

エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

エバープレイオンラインショップのバナー

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery

参考文献