バッハ BWV87『今までは汝らなにをもわが名によりて』徹底解説:テキストと音楽の深層を読み解く
はじめに — BWV87という作品について
ヨハン・セバスティアン・バッハの教会カンタータ BWV87「今までは汝らなにをもわが名によりて」(原題ドイツ語:Bisher habt ihr nichts in meinem Namen)は、新約聖書ヨハネによる福音書の一節(16章24節)を出発点とした宗教的作品です。本稿では、テクストの神学的背景、バッハの音楽的応答、形式と和声語法、演奏・解釈上のポイント、そして現代の聴きどころまでを総合的に考察します。学術的詳細やスコア参照は末尾の参考文献を併せてご覧ください。
福音書の言葉とバッハの選択
「今までは汝らなにをもわが名によりて(Hitherto have ye asked nothing in my name)」という言葉は、祈りにおけるキリストの名の意味、信仰と喜びの関係を示す重要なテクストです。バッハは教会暦に合わせた説教の主題や聖書箇所に基づきカンタータを作曲しましたが、BWV87でも福音書の約束(祈りの応答がもたらす喜び)と信徒の内面的応答が中心テーマとなっています。
テキスト構造と神学的モチーフ
BWV87におけるテキストは、原典の一節を引用する導入部(イニシアルな問いかけ)、個人の信仰告白や受容を描くアリアやレチタティーヴォ、そして共同体的な終結をもたらすコラール(賛歌)へと展開します。ここで重要なのは「名前(in my name)」という語がもつ二重性です。一方ではキリストへの依拠と中保(仲介者)としての役割、他方では祈りが個々人の内なる確信へと転化される契機を示します。バッハはこの語義の変化を音楽上の動機や和声進行で明示的に表現します。
音楽的特徴:モチーフと和声の語り
このカンタータでは、バッハ的な短い動機の反復と対位法的展開が目立ちます。冒頭の楽想はしばしば「問い」の感覚を生む不安定な付点や跳躍を含み、続く答えや祈りの部分では長三和音への安定移行や旋律的に閉じたフレーズが与えられることが多いです。また、和声面では半音下行的な線(悲嘆や切望を示す)が祈りの切実さを表し、鮮やかな平行長調への転換が“喜びの達成”を象徴します。バッハの技巧的な対位法は、個別の声部の内面的運動を示すと同時に、共同体的な一致(和合)を音で描き出します。
形式面の観点:典型的なカンタータ構成
BWV87は、バッハの教会カンタータの典型に倣った構成を持っており、一般には合唱や独唱アリア、レチタティーヴォ、コラールが組み合わされます。各曲は以下のような機能を持ちます:
- 導入合唱や序文的アリア:主題(祈りをする者の心の問い)を提示する。
- レチタティーヴォ:神学的・解説的役割を担い、思想の進行を速める。
- アリア:個人的感情の深化(信仰、懇願、感謝など)を音楽化する。
- 終曲コラール:共同体的な応答・総括として、既知の賛歌旋律を用いることで聴衆の理解と参加を促す。
声部と器楽:音色による意味付け
バッハは器楽の選択でテキストのニュアンスを色付けします。木管楽器(オーボエやオーボエ・ダモーレ等)は人間の呼吸やささやきを思わせる一方、ヴァイオリンやヴィオラの分散和音は感情の揺れを描きます。また通奏低音(チェロ、バソン、チェンバロやオルガン)は祈りの下支えとなる安定を提供します。BWV87でも、オブリガート楽器がソロ声部と対話し、テキスト上の“問い”と“応答”を音色で描写している場面が見られます。
ハーモニーと言語の対応:テキスト表現の手法
バッハの典型的手法として、重要語に対する和声的強調があります。例えば「求める(ask)」や「喜び(joy)」の語句に際して和声が一時的に明るくなったり、終止形が強調されることで“応答”の確かさが示されます。対して不安や疑念を示す語には不協和音や半音進行、これに続く解決の遅延が用いられることが多く、BWV87でも同様の語法を観察できます。
演奏・解釈上のポイント
演奏するときの主な配慮点は以下の通りです:
- テクスト理解を最優先すること:個々のフレーズでの語尾(語句の切れ)を音楽的に明確にする。
- アーティキュレーションとフレージング:問いかけ的な句は軽い切れで示し、応答的な句は滑らかに繋ぐ。
- ピッチとテンポの選択:バッハを演奏する際の歴史的ピッチ(バロックA=415Hz前後)や適切なテンポは、テクストの重心を変えずに音楽を自然に流すために重要。
- 装飾とインプロヴィゼーション:歌唱やソロのカデンツァで過度に装飾しすぎず、テクストが聞き取れる範囲で表現を加える。
聴きどころ:各楽章に耳を澄ますポイント
・冒頭(導入)ではモチーフの提示とその反復に注目。問いがどのように音形化されているか。
・アリアでは器楽オブリガートと声部の対話により、祈りの内的変化がどのように表現されるかを聴く。
・レチタティーヴォは言葉の運びに沿って短調/長調の移行がどのように意味をつけるかを確認。
・終曲コラールでは、和声の配置や対位技法が共同体的な確信をどのように支えるかを味わってください。
現代的視点からの解釈と音源選び
近年は歴史的演奏慣行(HIP)に基づくアプローチが主流になり、自然な楽器音、軽やかなアーティキュレーション、明瞭なテクスト発音が強調されます。代表的なカンタータ全集を手がかりにすると良いでしょう。演奏者によりテンポや表情、声質が大きく異なるため、複数録音を比較してテキスト解釈の違いを聴き分けることをおすすめします。
まとめ:BWV87が示すもの
BWV87は、聖書の短い言葉を起点に信仰の個的側面と共同体的側面を音楽で豊かに描いた作品です。バッハは和声、対位法、器楽の色彩を駆使して、祈りと応答、疑いと確信といった精神の微妙な動きを描写します。演奏・鑑賞の双方において、テクスト理解と音楽的表現のバランスが鍵になります。
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参考文献
- Bach Digital(バッハ・デジタル・ワークス) — 作品データベース
- Bach Cantatas Website — BWV目録と解説(英語)
- IMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト) — 楽譜参照
- AllMusic — 録音ガイドと解説
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