バッハ BWV97『わがすべての行いに(In allen meinen Taten)』徹底解説:構造・神学・演奏の聴きどころ
バッハ:BWV97「わがすべての行いに」概観
BWV97「わがすべての行いに」(独題:In allen meinen Taten)は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが賛美歌(コラール)を素材にして作曲したカンタータ群の一つで、原詩は17世紀のドイツ詩人ポール・フレーミング(Paul Fleming)による賛歌に由来します。バッハはこのようなコラールを用いることで、教会暦に即した神学的メッセージを音楽で強化し、信仰共同体の礼拝経験を深める作品を多数残しました。本稿では BWV97 のテキスト的・音楽的な特徴、構造、演奏・解釈のポイント、歴史的・神学的背景、そして現代の聴きどころに至るまで、できる限り詳しく掘り下げます。
テキストの源流と神学的主題
BWV97 の基盤となるコラール詩は、個人的な信頼と日常生活における神の導きを歌う内容で、キリスト教における信頼(Vertrauen)と奉仕の倫理が中心です。バッハは元の詩句をそのまま合唱で据える場合と、詩の句をソロやレチタティーヴォで部分的に展開してドラマ化する場合を使い分け、共同体の信仰告白としての合唱と個人的祈願としての独唱を対比させます。結果として、作品全体は〈共同体的な讃美〉と〈個人的な応答〉という二重構造を内包します。
楽曲構成と形式的特徴
バッハのコラール・カンタータに典型的な構造がここにも見られます。多くの場合、次のような流れをとります。
- 開幕合唱(コラール・ファンタジア)— 賛美歌の旋律(コラール・メロディ)がソプラノなどにカントゥス・フィルムス(固定旋律)として提示され、下声部や器楽が対位法的・即興的に展開する。
- 中間の独唱部やレチタティーヴォ— 詩のスタンザを自由詩に置き換えてアリアやレチタティーヴォで表現し、個の内面や神学的解釈を掘り下げる。
- 終結の四声コラール— 共同体の定式化された讃美で作品を閉じる。
BWV97 においても、開幕合唱が中心的役割を果たし、コラール旋律の提示と同時に器楽の描写的動機が合流して作品の主題を呈示します。中間部ではアリアやレチタティーヴォが詩の具体的情景や精神状態を描き、最後に安定した和声による四声合唱で結ばれます。
和声・対位法・旋律的特徴
バッハはコラール旋律を単に伴奏するだけでなく、和声進行や対位法的展開を通じてテキストの意味を音楽的に解釈します。たとえば「信頼」を語る句には安定した和声や長三和音が用いられ、試練や不安を示す句には短調や転調、経過和音やディミニッシュの用法が巧みに挿入されます。開幕合唱ではコラールの主要旋律がしばしば長音価で保持される一方、器楽部は短い切迫した動機やシーケンスで背景を織り、詩の語感や動きを強調します。
対位法の使い方も特徴的で、ソプラノに置かれたコラール旋律に対して下声部や器楽が模倣やフーガ的断片で応答する場面が見られます。これにより、単純なメロディ提示が多声的な語りへと拡張され、聴き手にはテキストの多層性が提示されます。
器楽編成と声部の取り扱い(演奏上の注意)
バッハのカンタータにおける標準的な編成は、通奏低音(チェンバロやオルガン+チェロ/コントラバス)と弦(ヴァイオリン群)、必要に応じてオーボエやリコーダーなどの管楽器を加えたものです。BWV97 においても弦楽器と通奏低音を基調とし、時にオーボエがコラール旋律を補強する形態が採られることが多い点に注意してください。歴史的演奏慣行を尊重する場合、バロック弓やガット弦、少人数のアンサンブルでの息遣いを重視するのが効果的です。
演奏・解釈のポイント
演奏にあたっては以下の点が重要です。
- コラール旋律の明確な提示:合唱または独唱で提示されるコラールは、テキスト理解の鍵となるため、音程と発語を鮮明に。
- 器楽のテクスチャー:器楽が提供する対位的動機やリズムはテキストの情感を補強するため、過度に平坦化せず、ダイナミクスとアクセントで言葉の意味を映す。
- レチタティーヴォの語り口:宗教的内容を伝えるため、語り(レチタティーヴォ)の語感を大切にし、テキスト・アクセントに忠実に。
- テンポの選定:合唱と器楽の一体感を維持するテンポ、かつ詩の行間(語間)を聞かせられるテンポ設定が望ましい。
歴史的・神学的背景の読み解き
この種のコラール・カンタータはルター派の礼拝文化と密接に結びついています。共同体の祈りや讃美が日常生活の中に織り込まれていた時代、賛美歌は教義の伝達手段としても機能しました。BWV97 のような作品では「人の行いと神の導き」というテーマが繰り返し登場し、個々人の倫理と共同体的信頼が音楽を通じて示されます。バッハ自身は礼拝音楽家としての職務を全うする中で、神学的深度を音楽的技巧と融合させることを旨としました。
聴きどころ(楽章ごとの聴法)
開幕合唱:コラール旋律の提示方法、器楽の対位的絡み、合唱の音色バランスに注目してください。旋律が長音価で保持されるとき、下から湧き上がる動機がどう意味づけを与えるかが聴きどころです。
アリア/レチタティーヴォ:ソロの表現力—装飾音の使い方、フレージング、呼吸—がテキストの感情を可視化します。特にレトリック的なフレーズ終止や内声の反応がテキスト解釈を左右します。
終結のコラール:四声コラールは共同体的な決意表明です。和声の安定や最後の終止感をどう作るかで作品全体の帰結が変わります。
録音と推薦演奏(入門ガイド)
BWV97 を聴く際は、歴史的演奏に基づくアプローチと伝統的な大型編成の両方を比較するのが有益です。代表的な指揮者として、ヘルムート・リリング、ジョン・エリオット・ガーディナー、鈴木雅明(Bach Collegium Japan)などが多くのカンタータ録音を残しており、それぞれ音色や解釈に特徴があります。初心者はまず一つの録音で曲の形をつかみ、違う解釈を並べて聴き比べると新たな発見が得られるでしょう。
合唱団・室内楽団への実践的アドバイス
実演を目指す合唱団や室内楽団には次の点を提案します。第一にテキストの明瞭化を最優先にすること。和声的な美しさ以前に言葉が通じることが礼拝音楽の要です。第二に、器楽と声のバランスを稽古時から意識し、アンサンブルの細かな揃え(スタッカート、スラー、アクセント)を統一すること。第三に歴史的なリズム感—テンポの柔軟性や発語のタイミング—を研ぎ澄ますことが、音楽に深みを与えます。
現代における受容と解釈の幅
BWV97 のようなカンタータは、宗教的文脈を離れても「人間の営みと信頼」という普遍的主題を持つため、現代の聴衆にも響きます。コンテクストの異なる場(コンサート形式)で演奏される場合、礼拝での生起的意味をいかに伝えるかが解釈の課題となります。近年は原典主義的解釈と自由な演奏の両極が共存し、演奏ごとに新しい側面が顕在化しています。
まとめ:BWV97 を深く聴くために
BWV97 は、テキストと音楽が緊密に結びついた典型的なバッハのカンタータです。聴く際はまずコラール旋律とその提示方法に耳を向け、次に器楽の対位法的動機とテキストの対応関係を追ってください。合唱と独唱、器楽がどう互いを補強しあうかをたどることで、作品が持つ神学的深度と人間的普遍性が明瞭になります。
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参考文献
- Bach Cantatas Website: BWV 97
- Bach Digital – Bach Werke Verzeichnis
- IMSLP – BWV97 検索結果
- Paul Fleming (poet) — Wikipedia
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