バッハ BWV119「エルサレムよ、主をほめまつれ」徹底解説 — 歴史・構成・名演ガイド

序章:作品とタイトルの意味

「エルサレムよ、主をほめまつれ」(独:Preise, Jerusalem, den Herrn)は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの教会カンタータの一つで、通し番号はBWV 119です。タイトルは旧約聖書の詩篇(特に詩篇147:12ほか)に由来する賛歌的呼びかけを反映しています。祝祭性の強いテクストと、合唱・器楽の華やかな扱いが特徴で、バッハの祝典用カンタータ群に位置づけられます。

成立と上演の場(概説)

BWV 119 は、バッハのライプツィヒ在任期に制作された作品群に含まれ、祝祭的な機会に演奏されることを前提に書かれたと考えられています。具体的な初演の日時や場面については史料の解釈に幅がありますが、作品の編成や音楽語法から、礼拝や市の式典など公的な祝祭での使用を想定していることは確実です(史料や版に基づく詳細は下記参考文献参照)。

テクストと宗教的意味

冒頭の呼びかけは詩篇の語句を受け継ぎ、「エルサレム(あるいは民)よ、主をたたえよ」という公的礼拝にふさわしい召喚の言葉です。バッハのカンタータにおいて、詩篇や聖書句は合唱の総体的表現へと昇華され、個人的信仰告白のレチタティーヴォやアリアと交互に組み合わされることで、会衆と出演者の関係、公共性と個人性という二重性を音楽的に提示します。

楽曲の特色と構成(音楽分析)

BWV 119 は全体として祝祭色が濃く、しばしば金管(トランペット)や打楽器(ティンパニ)を含む編成で演奏されます。このような色彩的器楽配置は、バッハが「祝祭的」と判断したテクストに対して典型的に用いる手法です。

開幕合唱は力強いファンファーレ的動機や対位法的処理を組み合わせた設計になっていることが多く、主題の提示とその発展の中で合唱群とオーケストラが緊密に絡み合います。合唱のテクスチャは時にフーガ的、時に合唱句的で、聴衆に明確な宣言性を与えます。

中間のレチタティーヴォやアリアでは、個人の信仰や応答が描かれ、器楽は歌唱を支えつつも描写的な役割を果たします。バッハは言葉のアクセントや意味に応じてリズムや和声を細やかに変化させる「テキスト音楽化(text painting)」を多用し、語句の語尾や重要語に対して音楽的強調を置きます。

コラール的要素(既存の賛歌旋律の引用や対位的挿入)は、聴衆に馴染みのある信仰共同体の要素を作品に結びつける役割を果たします。最終合唱はしばしば総合的な宣言文として機能し、楽曲全体の閉じを確固たる祝祭的感覚で締めくくります。

演奏上のポイント(実践的視点)

  • 編成と音色:原典の写本や初期資料からは祝祭時に用いられる金管や複数の木管・弦が示唆されます。歴史的演奏慣行を採る場合、ピリオド楽器や低めのAピッチ、軽めの弦楽の音色が作品の明晰さを引き出します。
  • 合唱の規模:近年の新しい音楽学的議論では、バッハ時代でも合唱は比較的小編成であった可能性が指摘されています。ただし、BWV 119のような祝祭曲では複数の声部・トランペット・ティンパニが加入するため、場面に応じた柔軟なスケール調整が有効です。
  • テキストの明瞭さ:バッハのカンタータは言葉が中心なので、発語の明瞭さとテキスト呼吸の把握が重要です。レチタティーヴォでは語尾の意味や句読点を明確に反映することが、聴衆への説得力を高めます。
  • アゴーギクと装飾:ソロ・アリアの装飾は各指揮者・歌手の判断に委ねられますが、バッハの語法を尊重して過度な装飾を避け、文脈に即した装飾を用いると自然です。

歴史的・現代的受容と録音の選び方

BWV 119 のような祝祭的カンタータは、20世紀後半以降のバッハ復興運動の中で多く録音されてきました。選び方の指針としては、以下を参考にしてください。

  • 歴史的演奏慣行(古楽器、少人数合唱)を重視するか、近代オーケストラと大規模合唱による表現を好むかで録音は大きく印象が変わります。Masaaki Suzuki(Bach Collegium Japan)やJohn Eliot Gardinerなどは歴史的慣習を取り入れた一例です。
  • 歌手の発語と合唱のアンサンブル力は、カンタータの歌詞性を聴き取る上で最も重要です。ソプラノ/テナーなどのソロが言葉をどう処理するかに注目してください。
  • 録音によっては総奏の迫力を強調するもの、細部の対位法やハーモニーの精緻さを重視するものがあります。目的(礼拝的体験か音楽学的分析か)に応じて選択しましょう。

聴きどころ(ガイド)

まずは開幕合唱の「呼びかけ」としての力強さ、トランペットのファンファーレやオーケストラのリズム誘導に耳を澄ませてください。中盤のアリアではバッハの細やかな伴奏形と歌唱の表現的対話が楽しめます。終章では合唱が総合的な祝祭感を回復し、テキストの宣言性を音楽で完成させる瞬間に注目してください。

研究上の注目点

BWV 119 を巡る研究では、以下のようなテーマが繰り返し議論されています:原初版・写本の系譜、初演の社会的文脈(教会儀礼と都市祝祭性)、器楽編成の変遷、そしてバッハのテキスト解釈法。特に祝祭カンタータ群における金管と合唱の役割については、近年の譜学的研究で新たな見解が示されています(詳細は下記参考文献参照)。

おすすめ録音(入門〜研究向け)

  • Masaaki Suzuki / Bach Collegium Japan(歴史的慣習を尊重したバランスの良い演奏)
  • John Eliot Gardiner / Monteverdi Choir & English Baroque Soloists(ダイナミックで演劇性の高い解釈)
  • Helmuth Rilling(伝統的なオーケストラ演奏による明快な発話)
  • Ton Koopman(ピリオド楽器と鮮明なテクスチャーを重視)

結語

BWV 119「エルサレムよ、主をほめまつれ」は、バッハ独特の祝祭音楽の魅力を凝縮した作品です。詩篇に根ざす公共的なテクストと、個人的な信仰告白を織り合わせる文法は、聴く者に深い宗教的かつ音楽的な満足感をもたらします。史料や演奏解釈を参照しつつ、複数の録音を聴き比べることで、曲の多層的な魅力をより深く味わえるでしょう。

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参考文献