バッハの四声コラール(BWV253–438)徹底解説:歴史・構造・演奏・教育的価値
はじめに — BWV253–438 の位置づけ
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685–1750)の四声コラールは、宗教歌(コラール)旋律に対してバッハが付けた和声的な四声編曲群として広く知られています。BWV(Bach-Werke-Verzeichnis、ヴォルフガング・シュミーダー編の目録)では、四声コラールの主要なまとまりが番号253から438に割り当てられており、この範囲には多くの典型的な礼拝用コラール和声化が含まれます。ただし、コラール全体の帰属や版によって番号や収録範囲に差異があるため、個々の作品については版注やニュー・バッハ・アウスガーベ(Neue Bach-Ausgabe)等で確認するのが重要です。
歴史的背景と編纂の経緯
四声コラールはルター派礼拝で用いられる聖歌(コラール)をもとに、教会音楽の実務の中で形成されました。バッハはカントルとして教会音楽の責任を負い、多くのカンタータやパッサカリアの終曲・合唱などでコラール和声を用いました。これらの和声化はしばしばカンタータの一部として生まれ、別稿として写本や生徒への教材として分配されたものもあります。
死後、バッハの作品は弟子や研究者によって蒐集・出版され、19世紀のバッハ復興期にコラールは音楽教育と教会音楽の教材として注目されました。20世紀にはシュミーダーのBWV目録(1950年)が整備され、四声コラール群はBWV253–438などの番号で整理されることが一般化しました。ニュー・バッハ・アウスガーベ(NBA)や諸エディション(Bärenreiter等)は、原典資料をもとに校訂を行い、今日の演奏・研究に利用されています。
音楽的特徴:旋律と和声の関係
バッハの四声コラールを特徴づける要素は、以下の点に集約されます。
- メロディ(通常ソプラノ)はコラールの歌唱旋律を忠実に保持し、歌詞の文節に合わせたフレージングが明確であること。
- アルトとテノールは内声として和音連結と対位法的な流れを担い、しばしば通過音やかかえ(suspension)によって表情を生むこと。
- バスは調性の基礎を支え、輪唱的な進行や低音導向(循環的な第五進行)を用いて和声的骨格を形成すること。
- 解決や終止におけるカデンツ(完全終止、半終止、斜め終止など)の多用と、そのバリエーション。
これらは単なる和音の配列ではなく、言葉と礼拝的機能を反映した設計がなされているのが特徴です。テンポやリズムは原曲の歌唱を規定しますが、和声的な引き延ばしや装飾的な経過音は作曲者(あるいは編者)の判断で巧みに配置されています。
調性運動と和声進行の典型
バッハのコラールにはいくつかの典型的進行が反復して現れます。たとえば、完全進行に向かうIV–V–Iや、循環的な第五進行(I–IV–VII°–III–VI–II–V–Iのような拡張)などが挙げられます。マイナー調の箇所では、和声的小節(和声的短音階)や導音の使用によって強い帰結感を作り出すことがよくあります。
また、Suspension(例:4–3, 7–6, 9–8 など)の処理はバッハ特有の「緊張と解放」を音語法として成立させます。これらは内声にも頻出し、単なる装飾ではなく進行の論理に組み込まれています。
テキストと宗教的機能
コラールのテキストは通常賛美歌や宗教詩であり、歌詞の意味が和声・旋律の扱いに直接影響します。バッハはテキストの感情や神学的意味を和声的な色彩(短調の転調、増和音の使用、半音進行の導入)で表現することがあり、これが彼の宗教音楽に固有の深みを与えています。
礼拝における実用性も重要で、集団歌唱を想定した明瞭な旋律線と、合唱・オルガン伴奏での再現性が意識されています。
版と帰属問題
BWV253–438 に含まれる諸曲の中には、バッハ自身が作曲したと確定できるものもあれば、弟子や同時代の作曲家によるものが混在する場合もあります。写本や版の出所(例えば生徒の写本、教会の記録、カンタータの自筆譜の一部)により帰属が議論されるケースがあるため、研究者はNBAや原典校訂を参照して真偽を確認します。
演奏実務と実践的留意点
今日の合唱団や演奏者がバッハの四声コラールを扱う際のポイントは以下の通りです。
- テキスト発音とフレージングの一致:賛美歌テキストのアクセントに基づき、メロディの語感を尊重する。
- 均衡のとれた混声:ソプラノの旋律が際立つ一方で、内声の音量と響きを整え、和声の輪郭を明確にする。
- 装飾の節度:時折装飾的な転回や経過音を用いるが、原典にない過度のロマンティックな装飾は避ける。
- テンポと拍節のコンテクスト:礼拝用ならば実用的な速度を、演奏会ならば作品の内的論理とテキストに応じた解釈を選ぶ。
教育的価値:対位法と和声学の教科書としてのコラール
バッハの四声コラールは、和声進行、声部導入、対位法の実践例として音楽教育で重用されています。17・18世紀の和声理論が実際の音楽でどう働くかを示す生きた教材であり、声部間の配慮(接続、交差回避、同音進行の制御など)を学ぶ場として最適です。多くの作曲家や理論家がコラールを教材に採用しており、今日でも作曲・編曲・合唱指導の基礎訓練に用いられます。
後世への影響と編曲史
バッハのコラールは、ブラームスやレーガーらの作曲家に強い影響を与え、ピアノ連弾やオルガン用の編曲、和声学的研究の素材となりました。19世紀のバッハ復興運動ではコラールが広く出版され、一般家庭のピアノレパートリーや宗教教育の教材としても普及しました。
具体的な鑑賞の勧めと聴きどころ
鑑賞時は以下に注目してください。
- 旋律の語尾(フレーズ終結)と和音の解決の関係。
- 内声の動き:短いモティーフやレガートな連結が和声の色をどう作るか。
- バスラインの指向性:低音が導く調性移動やカデンツの確立。
- テキストとの呼応:語句の意味を和声で強調する瞬間。
録音では、歴史的演奏慣習に基づく小編成合唱や、近代的な混声合唱の両方を聴き比べると解釈の幅が理解できます。
まとめ — 研究と実践の接点
BWV253–438 の四声コラール群は、バッハの宗教音楽的思考と和声職人技を凝縮したレパートリーです。研究者は原典版と写本を照合して帰属や版問題を精査し、演奏家はテキストと和声の関係を深く読み取ることで、現代の聴衆にも響く演奏をつくることができます。コラールは簡潔でありながら音楽的深みを持ち、学習・演奏・鑑賞のいずれにおいても長く価値を保ち続ける作品群です。
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参考文献
- Bach-Werke-Verzeichnis (BWV) — Wikipedia
- Neue Bach-Ausgabe — Neue Bach-Ausgabe (NBA)(原典校訂版のポータル)
- 371 Chorales (Bach, Johann Sebastian) — IMSLP
- Bach Digital — バッハ作品のデジタル資料館
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