バッハ BWV 545a:前奏曲とフーガ(ハ長調)を深掘り — 作品の位置づけと演奏解釈
バッハ:BWV 545a 前奏曲とフーガ ハ長調 — 早期稿の位置づけと音楽的特徴
J.S.バッハの前奏曲とフーガ ハ長調 BWV 545 は、オルガン作品群の中でも明るく華やかな性格をもつ作品として広く知られています。その変種として記載される BWV 545a は、BWV 545 と関連する写本群や異稿の総称として扱われることがあり、楽曲の成立過程や写譜史を考察するうえで興味深い手がかりを与えます。本稿では BWV 545a を中心に、歴史的背景、形式構造、音楽的特徴、演奏/登録の実践、そして録音史に触れながら、作品理解を深めていきます。なお、写本や版の詳細は複数の音楽学的資料やスコア(ファクシミリ)を参照して整理しています。
楽曲の概要と成立に関する手がかり
BWV 545 は一般にバッハの中期から後期にかけてのオルガン作品群に位置づけられ、華やかな前奏曲と対照的に整然としたフーガが対になっています。BWV 545a と呼ばれるものは、現存するいくつかの写本や異稿に由来する variant としてカタログ上に示されることが多く、必ずしもバッハの最終校訂稿ではない可能性が指摘されています。写譜の筆者や伝写の時期により細かな相違が生じるため、資料を突き合わせて比較することが重要です。詳しい写本情報や諸稿の所在については Bach Digital やスコアアーカイブ等の一次資料で確認できます。
形式と全体構成
前奏曲とフーガという対構造自体はバロック期のオルガン作品における慣習のひとつですが、BWV 545 系列では両者の対比が非常に鮮明です。前奏曲は即興風のトッカータ的な要素をもちつつ、協奏風のリトルネロ的断片や華やかな和音連結によって展開します。対してフーガは対位法的規律に基づき、明快な主題とそれに続く応答、エピソード、転調の経路が体系的に配置されています。BWV 545a の異稿では、転調の位置や装飾、和声進行の細部で相違が見られることがあり、これが演奏や解釈に影響を与えます。
前奏曲の分析 — 表情と構築
前奏曲部分は開放的でテクスチュアルに豊かな書法が特徴です。手鍵盤群による対句的な掛け合い、左右手の分散和音、そしてペダルによる根音の支えが組み合わさって、オルガンならではのダイナミクスと響きの層を生み出します。リズム面では明確な拍感と装飾の自由さが共存し、曲全体を通して緊張と解放のバランスが巧みに操作されます。BWV 545a に見られる異稿上の違いは、たとえば前奏句の短縮や繰り返し省略、あるいは一部和声進行の簡略化などであり、これらは作曲過程における実験や伝写時の省略と解釈できます。
フーガの分析 — 主題と展開
フーガ主題は明瞭で輪郭のはっきりした動機を呈し、対位的扱いに耐える堅固さをもっています。主題に対する応答は通常にして巧みに転回や伸縮を用いて展開され、各声部の進行は転調を伴いつつ均衡を保ちます。中央部ではエピソードが主題断片を加工して動的な推進力を生み、終結部に向けて再び主題の力を回復してクライマックスへ導きます。BWV 545a の稿におけるフーガの差異は、声部の処理や装飾の有無、あるいは終結部の書法上の変化といった微細な点が中心で、作品の骨格自体は共有していることが多いです。
史的演奏慣習と登録(レジストレーション)
当時のオルガンは地域や製作家により設計や音色が大きく異なり、北ドイツや中央ドイツ系の楽器の特徴を踏まえた登録が求められます。BWV 545 系列の前奏曲では、明るい主体音(Principal, Octave, Mixture)を基調にしつつ、分散和音や伴奏的なアルペジオではより柔らかな音色を選んで対比をつけるのが効果的です。フーガでは声部の明瞭化を優先し、各声を適切に浮き立たせるための手鍵盤とペダルのバランス調整が重要です。近現代の大オルガンを用いる場合は、音色や登録の過剰な重複を避け、バロック感の再現を心がけるとよいでしょう。
奏法と解釈の実践的ポイント
- テンポ設定:前奏曲は存在感と推進力を兼ね備えたテンポが有効。遅すぎると装飾性が失われ、速すぎると構築感が損なわれる
- フレージング:手鍵盤のフレーズを明確に区切りつつ、ペダルの持続で全体の線を保持する
- 装飾の扱い:写本に見える装飾は様式的に解釈し、過度なロマン的装飾は避ける
- 手の分配:複雑な分散和音では右手と左手の役割分担を工夫し、対位線の独立性を確保する
録音史と主要演奏者のアプローチ
BWV 545(およびその異稿)は多くのオルガニストに取り上げられてきました。ヘルムート・ヴァルヒャ、マリー=クレール・アラン、トン・クープマンなど、歴史的実践に基づく演奏を提示する演奏家たちがそれぞれ異なるレジストレーションと奏法で魅力を引き出しています。ヴァルヒャは主題の輪郭を重視した厳格な対位法的アプローチ、アランは色彩的な音色操作で多面的な表情を示すなど、録音を比較すると解釈の幅が分かります。BWV 545a に注目した録音や研究は限定的ですが、異稿比較を含むプログラムや解説付きの録音は学術的興味も満たします。
楽曲の意義と聴きどころ
BWV 545/545a は、バッハのオルガン作品群における技法と音楽言語の豊かさを端的に示しています。前奏曲はオルガニストの即興性や音色選択の妙を要求し、フーガは緻密な対位法的構成美を提示します。聴きどころは、細部の和声処理や声部間の対話、そして終結に向けた力学的な盛り上がりです。異稿(545a)を参照することで作曲者の修正意図や演奏慣習を想像する材料が得られ、より多角的な作品理解が可能になります。
まとめ — 異稿から見えるもの
BWV 545a を巡る検討は、単に別版の比較にとどまらず、バッハがいかに楽曲を磨き上げ、あるいは写譜の過程で変化が生じたかを考える手がかりになります。演奏者は複数の稿を参照して、作品の表現に幅を持たせることができますし、研究者は写本史の細部から作曲史の断片をつなぐことができます。聞き手としては、異稿の存在を知ることで同じ作品を異なる角度から楽しむことができるでしょう。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Bach Digital — バッハ作品データベース
- IMSLP — Prelude and Fugue in C major, BWV 545(スコアとファクシミリ)
- IMSLP — Prelude and Fugue in C major, BWV 545a(異稿資料)
- Wikipedia — Prelude and Fugue in C major, BWV 545
- Oxford Music Online / Grove Music Online(参考記事、要購読)


