バッハ:BWV 909 — 協奏曲とフーガ ハ短調の深層解剖(演奏・史料・聴きどころ)
作品概説 — BWV 909とは何か
BWV 909『協奏曲とフーガ ハ短調(Concerto and Fugue in C minor)』は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのキーボード作品目録に付された一曲です。一般に鍵盤楽器(クラヴィーア/チェンバロ/ピアノ)用に伝わる一連の小品の一つとして扱われ、楽想には協奏的なリトルネッロ的要素と厳格な対位法(フーガ)が結びついています。本稿では、史料的背景、作曲様式の特徴、演奏上の留意点、聴きどころおよび研究上の論点を詳しく掘り下げます。
史料と来歴
BWV 909 をめぐる一次史料は限られており、現存する写本(個人蔵あるいは18世紀譜の写し)に基づく伝承が主です。作品がいつどのような経緯で成立したかについては確定的な日付が欠け、他の鍵盤協奏曲や自作の編曲群と同様に、バッハ自身が鍵盤用に編曲した可能性や、器楽協奏曲の一部を鍵盤独奏用に転用した可能性が議論されています。
現代の主要な版(たとえばNeue Bach-Ausgabeなどの近代校訂)に収録されているため、演奏・研究の対象として一定の地位を占めています。ただし、作品の起源や成立時期、場合によっては真作性(真正性)について学術的に議論が残る点もあるため、聴き手・奏者はいくつかの視点を併せ持って接近することが望ましいです。
形式と管見 — 協奏的側面とフーガ
曲名が示すとおり、本作は「協奏曲風の楽想」と「厳格なフーガ」という二層構造を持ちます。協奏曲部分では鍵盤独奏がソロ楽器的に華やかな動機を提示し、リトルネッロ的反復や対話的パッセージが見られます。一方フーガでは主題(トピカ)が明確に提示され、対位の展開と和声的転回が作品の緊張を生み出します。
- 調性と情感:ハ短調という調性はバッハにとってしばしば厳粛・悲劇性・深い感情を伴う表現を引き出すために選ばれます。和声進行や半音階的な処理からは陰影の濃い性格が感じられます。
- 協奏曲的書法:リトルネッロ形式をそのまま用いるのではなく、鍵盤上で協奏感を生むためのパッセージ(オスティナート風リズム、交互出現する主題と伴奏形)を取ります。
- フーガの構造:主題は対位法的に扱われ、転調や模倣によって密度が増し、クライマックスへと向かいます。フーガの展開部では移調模倣や寸断的なフレーズ運動が見られます。
和声・対位の分析(ポイント)
楽曲の和声語法はバロック後期の典型を示しつつも、細やかな半音移動や副属和音の扱いに独自性が見られます。以下に着目ポイントを示します。
- 主和音と属和音の交替を基盤としつつ、ニ短調・変ロ長調への短い側面的な転調が表情を作る。
- フーガ主題には特徴的なリズム型(付点や跳躍)や、反復動機が含まれ、これが模倣されることで統一感が生まれる。
- カデンツァ的箇所では鍵盤的な技巧が和声的に核心を強調する役割を果たす。
演奏上の実践考察
BWV 909 を演奏する際には、以下の点に注意すると作品の輪郭が明瞭になります。
- 楽器選択:原典はクラヴィーア/チェンバロ向けの鍵盤書法を想定している可能性が高いです。チェンバロ(歴史的奏法)での演奏はリズムの明晰さと対位の透明性を引き出しますが、モダンピアノを用いると和声の持続とダイナミクスの幅で別のドラマ性を得られます。
- テンポ設定:協奏的部分はリトルネッロの躍動感を保ちつつ、内声のラインが混濁しないテンポを選ぶこと。フーガは主題の明瞭さと対位の呼吸を優先して設定します。
- 装飾とアーティキュレーション:バロック習俗に従った装飾(モルデント、トリル等)は楽句の終端や接続部で効果的に用いること。過度の装飾は対位の輪郭を曖昧にするため節度が必要です。
- レジストレーション(チェンバロの場合):対旋律を浮かび上がらせるために音色の対比(主題は明るめ、伴奏は薄く)を工夫する。
聴きどころ(場面ごとの注目点)
聴取時のガイドとして、以下のポイントを押さえると鑑賞効果が高まります。
- 冒頭の主題提示:協奏曲風パートの第1主題が提示される瞬間。そのリズムとフレージングは作品全体の性格を決定します。
- ソロ的技巧の出現:鍵盤が楽器的に“語る”箇所で、瞬間的なポリフォニーの処理や速いパッセージが表情を与えます。
- フーガの主題導入:主題の呈示は作品の核心。主題の輪郭、それが副題や転調でどう変容するかを追うと楽しめます。
- クライマックスと終結部:和声の張り付きや対位の密度が最大になる部分で、バッハ特有の緊張解消(訴求力のある終止)を味わってください。
学術的論点と未解決問題
BWV 909 を巡っては、以下のような学術的な論点が存在します。
- 起源と編曲の可能性:この曲が他の器楽協奏曲(ヴァイオリンやオーボエなど)を元にした鍵盤編曲なのか、あるいは鍵盤独自のオリジナルなのかという点。
- 真作性の検討:写本系統や筆跡学、和声・対位の様式から真正性(J.S.バッハ自身の作曲かどうか)の議論が行われてきました。現在は多くの研究者がバッハの作品群として扱う傾向にありますが、疑問を呈する意見も残ります。
- 伝承史の解明:どの写本に起源があるか、弟子や家族の手による改変がないか、といった点のさらなる史料探索が望まれます。
版と校訂 — どの楽譜を使うか
演奏用・研究用の版としては、伝統的なバッハ全集(Bach-Gesellschaft-Ausgabe)や近代の校訂であるNeue Bach-Ausgabe(NBA)などが参照されます。また、校訂者による解釈注記や写本差異に関する注釈を確認することが重要です。近年はオンラインで原典写本や複数写本の比較が可能になり、奏者は自らの解釈根拠を写本に基づいて検討できるようになっています。
録音・演奏史的な視点
BWV 909 はバッハの主要な鍵盤作品ほど頻繁に録音されるわけではありませんが、鍵盤独奏曲集や小品集に含めて録音されることがあります。歴史的奏法の潮流(チェンバロ復興、古楽器奏法の普及)は、本作の解釈に多様性をもたらしました。演奏家は曲の協奏的性格と対位法的厳密さの両方をどうバランスさせるかで個性を示します。
実践者へのアドバイス(練習法)
- 対位の独立性を鍛える:フーガ部分は声部分離の練習を積み、各声部のラインを歌わせる訓練をすること。
- テンポをメトロノームで確認:協奏部分は拍子感とリズムの安定が命。速くなりすぎないようにメトロノームで基礎を固める。
- 音色の微妙な変化を試す:モダンピアノを用いる場合でも、タッチやペダル(装飾的・支えとしての使用)を慎重に用いてバロック的な輪郭を保つ。
まとめ — BWV 909 の魅力とは
BWV 909 は短めながらも、協奏的な鮮やかさと対位法の深さが同居する興味深い作品です。演奏者にとっては技術と音楽的洞察を要求し、聴き手にとってはバッハの多面的な表現世界を短時間で味わえる好材料となります。調性の暗さと明晰な構成、美しい対位の処理が一体となって、作品は独自の緊張感と解決を提示します。
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参考文献
- Wikipedia: Concerto and Fugue in C minor, BWV 909
- IMSLP: Concerto and Fugue in C minor, BWV 909(スコア)
- Bach Digital(作品データベース、検索ページ)
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