バッハ「BWV 923a ロ短調 前奏曲」徹底解剖 — 履歴・音楽分析・演奏ガイド

序文:作品の位置づけと本コラムの目的

バッハの前奏曲群は鍵盤音楽の教養的かつ実践的なレパートリーとして長年親しまれてきました。本稿では「バッハ:BWV 923a 前奏曲 ロ短調」を取り上げ、作品の来歴(版や伝承の問題を含む)、楽曲構造と和声的特徴、演奏上の実践的示唆、そして参考になる現代の版や録音をまとめて解説します。学術的な見地と演奏家の視点の両方から深掘りすることを目標とします。

BWV番号と「a」付番の意味

BWV(Bach-Werke-Verzeichnis)はバッハ作品を分類するための通称カタログです。BWV番号に付く英小文字(例:"a")は、同一番号の別稿、改訂、あるいは版上の変異を示すことが多く、必ずしも作曲年代順を意味しません。BWV 923a と表記される場合、BWV 923 系列の中で別稿や別伝承として伝わる楽曲であることを示しています。

来歴と出典(伝承・版の状況)

BWV 923 系列の小品は、いわゆる「小前奏曲(Little Preludes)」や鍵盤練習用の短い曲群に近い位置づけで扱われることがあります。こうした小品は、バッハ自身の自筆譜が現存しないものや、弟子・写譜師を通して伝わったものが多く、写本間での異同や転調表記の差異が見られることが珍しくありません。

そのため、現代における演奏や出版では、校訂者が原典写本を比較検討して最終版を編集する作業が重要になります。版によっては装飾音や指番号、あるいは和声的解釈(和音の転回や臨時記号の扱い)に相違があり、演奏に際しては版注を参照することが推奨されます。

形式と総体像

BWV 923a のような短い前奏曲は、長大なフーガへの前段として、あるいは独立した小曲としての機能を持ちます。典型的には単一楽章の自由な前奏形式で、以下の要素が観察されます。

  • 短い導入部に続き、明確な動機(モチーフ)を反復・展開する構造。
  • 和声の推移は機能和声に基づきながら、通過的な経過和音や連結的パッセージを通して短時間で調的焦点が移る。
  • 声部は比較的簡潔で、主に右手の流れるような内声と左手の伴奏的進行に分かれるが、時に対位的な扱いも見られる。

主な音楽的特徴(和声・対位法・リズム)

以下は本曲に特に注意すべき一般的特徴です(同様の小曲群に共通する点を含む)。

  • 調性:ロ短調というマイナー調の選択は、短いながらも内省的で暗めの色合いを与える。短調の主和音(i)と属和音(V)を中心に、借用和音や副属和音を用いることが表情の幅を生む。
  • モチーフの活用:数小節の簡潔な動機が、変形や転回、転調を伴って楽曲全体を牽引する。連続的な16分音符や分散和音が装飾的に用いられる場面がある。
  • 対位法的要素:短い前奏曲でも二声〜三声の対位的な絡みがあり、独立した声部を如何に明確に歌わせるかが演奏上の課題となる。
  • リズムとテンポ感:流動的な前奏曲ゆえに、拍感の保持とフレージングによる自由度とのバランスが重要。均質なテンポで進めつつも、フレーズ終端での小さな呼吸(減速)や表情付けが生きる。

小節構成と代表的な解析(聴きどころ)

具体的な小節ごとの分析は版により異なる場合がありますが、典型的には次の点に注意して聴くと曲の構造が把握しやすくなります。

  • 冒頭の提示部:主要動機が提示される部分で、ここが作品全体の“命題”となる。和声的には主調の確認と主要進行の提示。
  • 中間部の展開:提示動機が転調や配列替えで変形される。ここでの和声的な遠隔化や順次進行が中核的表情を作る。
  • 終結部:主調への回帰、あるいは終止形を明確にする小節群。短い曲ゆえに、余分な装飾を排して明瞭に終止することが多い。

演奏上の実践的ポイント

演奏者が特に気をつけたい点を、楽器別(チェンバロ/古楽ピアノ/モダンピアノ)に分けて示します。

  • チェンバロ・古楽ピアノ
    • 音量の持続が限られるため、フレーズの輪郭を音の強弱と指遣いで作る。スタカートとレガートの切り分けを明確に。
    • 装飾やトリル等は原典に依るが、写本で省略されている場合もあるため、装飾は様式的に自然であるかを検討して付加する。
  • モダンピアノ
    • 音色の持続性を利用してレガートを強調する一方、バッハのダイナミクス観に配慮して過度なルバートや過剰なペダリングは避ける。
    • 現代ピアノでは音響的に情報過多になりがちなので、各声部のバランス(特に低声部を埋もれさせない)を意識する。

装飾・指番号・解釈上の判断

原典に装飾が明記されていない場合、バッハ時代の装飾習慣(短い上行スラー的なモルデント、ターン等)を参考に、曲想に即した装飾を選ぶとよい。指番号は現代の手に合わせて合理的に付け替え、内声の独立性を保てる配列を優先します。

近現代版と校訂の見どころ

校訂版を選ぶ際は次をチェックしてください。

  • 用いられた原典写本の出所と比較の有無
  • 編者による改変(和声転回や臨時記号の補入など)の注記
  • 演奏上の実践注記(指番号、装飾例、テンポ指示)

信頼できる版としては古典的な出版社のもの(Bärenreiter、Henle など)が校訂の透明性という点で有利です。

おすすめの聴きどころ・録音

BWV 923a のような小品は、同一演奏家の他のバッハ小品と並べて聴くと解釈の一貫性が見えやすいです。録音はチェンバロとピアノ双方で聴き比べ、テンポ感・レガートの取り方・装飾の扱いに注目するとよいでしょう。

学術的注記と留意点

本稿では、伝承や版に関する一般的な事実と演奏上の実践的助言を中心に述べましたが、BWV 923a に関しては写本ごとの差異がしばしばあります。厳密な学術研究や新たな校訂を行う場合は、原典写本(あるいはその高解像度画像)を直接確認することが必要です。

まとめ

BWV 923a 前奏曲 ロ短調は短いながらも濃密な表情と技巧的な要素を併せ持つ作品で、演奏者にとっては解釈の幅とともに原典をどう読むかという課題が残されます。版を選び、装飾や指遣いを慎重に検討することで、より説得力のある演奏が可能となります。ぜひチェンバロ版とピアノ版を聴き比べ、異なる音色の可能性を探ってください。

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参考文献