バッハ:BWV1046a ブランデンブルク協奏曲第1番 ヘ長調──成立・編成・楽曲分析と演奏解釈

はじめに

ブランデンブルク協奏曲第1番ヘ長調(BWV 1046)は、6曲から成る『ブランデンブルク協奏曲』の中で特異な位置を占める作品です。BWV 1046a はその初期稿(あるいは異写本上の版)として分類され、最終的に1721年頃にまとめられた献呈稿(一般に言う BWV 1046)へと発展しました。本稿では、BWV 1046a の成立事情、編成・楽器法、各楽章の構成と音楽的特徴、さらには演奏上の留意点と史料に基づく比較を踏まえ、深掘りして解説します。

成立と史料概観(BWV 1046a の位置づけ)

『ブランデンブルク協奏曲』全曲は1721年にバッハがマルグラーフ(ブランデンブルク=シュヴェート)クリスティアン・ルートヴィヒに献呈したことが知られていますが、それぞれの協奏曲の個別の素材はさらに遡ります。BWV 1046a は「第1番」の初期稿として音楽学上に記載されている番号で、写譜や断片、別稿との比較から最終版(BWV 1046)との相違点が指摘されています。成立年代は明確ではないものの、ケーテン時代(1717–1723)やヴァイマル期など、1710年代から1720年代前半のいずれかに起源を持つと考えられています。

編成(楽器構成)の特徴

第1番は6曲の中でも最も大きな編成を必要とし、「協奏交響的」な性格を持ちます。代表的な編成は次の通りです。

  • ホルン(2本、自然ホルン)
  • オーボエ(3本)
  • ファゴット(通奏低音に加え内部声部として機能)
  • 弦楽合奏(第1第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスまたはヴィオーネ)
  • 通奏低音(チェンバロまたはオルガンと低弦)

この編成は「協奏的大編成」を志向しており、三本のオーボエが独立したコンサート・グループを形成している点、そしてホルンが狩猟的な効果を頻繁に担う点が特徴です。BWV 1046a における写本差異は、具体的には各パートの細部や装飾、場合によっては内声の扱いに現れることが多く、最終稿と比べて音形の簡略化や別の内声割当が見られる場合があります。

楽曲構成(楽章ごとの概観)

第1番は4楽章構成(速—緩—メヌエット/トリオ—速)で、同一セット中で唯一4楽章を持つ協奏曲です。以下に各楽章の主要な特徴を概説します。

第1楽章:Allegro

冒頭は力強いリトルナル(合奏リフレイン)で始まり、狩猟ホルンの豪放な開放弦的モチーフが目立ちます。弦と木管が対話的に扱われ、リトルナル形式に基づきつつ対位法的な扱いも散見される、バロック協奏法と管弦楽的な対位法が融合した楽章です。BWV 1046a と最終稿の差は主に細かな声部の充実度や、コラール的引用の有無などに現れます。

第2楽章:Adagio

第2楽章は幽玄で内省的な性格を持ち、独奏的なヴァイオリンとオーボエの対話、低弦とファゴットによる豊かな和声的支えが印象的です。最終稿に比べてBWV 1046a では装飾や間の取り方が若干異なる写しが残るため、表情付けやテンポ選択で演奏解釈に幅が出ます。

第3楽章:Menuet — Trio

舞曲楽章は軽快なメヌエットと中間のトリオを含み、舞曲様式の均整とコントラストを提示します。舞曲のリズム感は全曲の中央で休息を与える役割を果たし、管楽器群が彩りを添えます。

第4楽章:Allegro

終楽章は生き生きとした活気に満ち、しばしばフーガ的な要素や模倣技法を取り入れた展開を見せます。ホルンと管群の呼びかけが再登場し、協奏的大合奏によるフィナーレへと収束します。

作曲上・様式上の注目点

第1番は形式的には協奏曲形式を超えて、協奏交響曲的な広がりを持つ点が興味深いです。複数の独立した管楽器群(特に三本のオーボエ)を用いることで、バッハは色彩的かつテクスチャ的に多層的なサウンドを作り出しています。また、自然ホルンの使用はしばしば狩猟的な響きを演出し、バロック的な儀礼性や宮廷的雰囲気を強調します。さらに、対位法的技巧と舞曲的要素の混成が、作品全体に均整と躍動を与えています。

演奏・解釈のポイント(史的奏法を踏まえて)

  • 自然ホルンの音域制約を踏まえたフレージングと呼吸感。
  • オーボエやファゴットは当時の楽器(バロックオーボエ、バロックファゴット)を用いると音色の均衡が取れる。
  • 通奏低音の扱い:チェンバロ(あるいはオルガン)と低弦のバランスを工夫し、和声の明瞭さを保つ。
  • テンポ設定は楽章ごとの性格に即して柔軟に。特に第2楽章はルバートの余地をもって内面的に歌うことが多い。
  • 装飾・アーティキュレーションは写本差異(BWV 1046a と最終稿)を参照し、復元的か創作的かを判断する。

BWV 1046a と最終稿(BWV 1046)の比較と音楽学的見解

BWV 1046a は単に草稿というより「初期版/別版」の一つとして捉えられます。写譜の差異は演奏上のニュアンスに影響を与え、例えば第1楽章の繰り返し句や第2楽章の装飾符の有無が異なる場合があります。音楽学では、これらの差異を基に作曲の過程やバッハの意図修正を推定しますが、決定的な結論は得られないことが多いため、演奏者はどの版に基づくかを明確にして解釈を組み立てます。

現代の録音と比較視聴のすすめ

歴史的演奏実践(HIP)に基づく録音と、近代楽器による録音では音色・テンポ感・ダイナミクスに大きな違いがあります。バロック・オーケストラ(自然ホルン、バロック木管、チェンバロ)による演奏は、当時想定された音響に近づけるため、BWV 1046a の初期稿に立ち戻る際に有益です。一方で、現代オーケストラによる雄大な解釈もまた別の魅力を提示します。複数の録音を比較することで、楽章ごとのニュアンスや版による表現の違いを聴き取ることができます。

まとめ

BWV 1046a はブランデンブルク第1番の初期的側面を伝える重要な資料であり、編成の豪奢さ、ホルンと木管群の色彩、対位法と舞曲性の混成など、バッハならではの多層的音楽性が凝縮されています。史料的差異を踏まえた版の比較は、演奏解釈を深めるうえで欠かせません。本稿が読者の聴取と演奏の両面で、新たな発見の手助けになれば幸いです。

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参考文献