バッハ:BWV1047 ブランデンブルク協奏曲第2番 ヘ長調——華麗なる協奏と管楽ソロの饗宴(解説・歴史・演奏ガイド)
概要
ヨハン・ゼバスティアン・バッハの《ブランデンブルク協奏曲》第2番ヘ長調 BWV1047は、六つあるブランデンブルク協奏曲の中でも際立った色彩と技巧を示す作品です。小規模な協奏的編成(コンチェルト・グロッソ的な対比ではなく、独奏群と合奏群の鮮烈な掛け合い)と、特に高音域を駆使するトランペットのソロが聴衆の印象に強く残ります。1721年にバッハがブランデンブルク辺境侯クリスティアン・ルートヴィヒに献呈した六曲の一つで、管楽器と弦楽器が活発に会話を繰り広げる名曲です。
成立と歴史的背景
ブランデンブルク協奏曲集は1721年にまとめられ、バッハがフランクフルト近郊のブランデンブルク辺境侯に献呈した書簡とともに贈られました。ただし、各協奏曲の作曲時期は必ずしも同年ではなく、第2番についてはおそらく1710年代前半(ヴァイマールやケーテン時代)に成立したとする見解が有力です。つまり、1721年はあくまで献呈の年であり、作品自体はバッハが様々な地で培った室内楽的技法と管楽器奏者の技量に応じて書かれた成熟した作品群の一部といえます。
自筆譜と献呈
献呈用の手写譜は現在ベルリンの所蔵庫に保管されており、献辞のある書簡と並んで現存しています。これにより、ブランデンブルク協奏曲集が意図的に編集・提示されたコレクションであることが確認できます。ただし各曲の初期レッスン・断片や初演の記録は限られており、当時の演奏実態については推測が伴います。
編成と特色
第2番は『トロンバ、フラウト、オーボエ、ヴァイオリン』を独奏群(コンチェルティーノ)とし、弦楽合奏と通奏低音が伴奏(リトル)を務めるという独特の編成です。ここでの「トロンバ」はナチュラルトランペット(クラリーノ奏法を用いる高音域を多用するタイプ)が想定され、ヘ長調の明るさと高い音域の輝きが作品の色調を決定づけます。オブリガートのヴァイオリンや木管(当時はフルートやリコーダーの区別が演奏伝統により混在することがあり、フラウトと記されるパートはフラウト・トラヴェルソ(横笛)やリコーダーで演奏されることもあります)がトランペットと巧みに絡み合います。
楽章構成と詳細な音楽分析
第2番は三楽章形式で、典型的には次のように配されています。
- 第1楽章:Allegro — 速いテンポで開始するソナタ風・リトルネル形式。入り口のリトルネロ主題が合奏で提示され、独奏群が順次応答・装飾をほどこす展開が繰り返されます。カノン的な模倣や対位法の技巧はバッハの得意とするところで、特にトランペットは高音域で明晰な旋律線を担い、他の独奏楽器と短いモチーフのやり取りを行います。
- 第2楽章:Andante — 緩徐楽章は対照的に内省的で、独奏群のうちトランペットは通常控えめに扱われます。細やかな装飾と歌わせるフレーズが中心で、通奏低音を含む合奏が温かな伴奏を提供します。楽器間の対話が室内楽的に展開され、バッハの歌心と和声センスが際立ちます。
- 第3楽章:Allegro assai(またはAllegro) — 快活な終楽章は再びリトルネロ的構造に戻り、躍動的なリズムと対位法的展開で曲を締めくくります。短い主題が次々に受け渡され、独奏群と合奏群の応酬がテンションを高めることで、華やかなフィナーレとなります。
技巧と演奏上の課題
この曲の演奏における最大の技術的挑戦は、何といってもトランペットのクラリーノ技術です。ナチュラルトランペットはピストンなしの自然倍音列に依存しているため、ヘ長調という調性で要求される高音域の正確さと音量コントロールは高度な熟練を要します。また、独奏群のバランス調整も難しく、古楽器編成では管楽器が弦を圧倒しないように配置や録音技術が工夫されます。さらに、バロック時代の装飾法(トリル、被装飾音の扱い、アーティキュレーション)をどの程度復元するかは解釈の分かれる点です。
演奏慣習と現代での再解釈
20世紀以降、古楽復興運動の進展により、原典に基づく演奏(原典版の把握、古楽器使用、低めのバロック・ピッチなど)が広まりました。古楽器アプローチでは、ナチュラルトランペットやバロック・オーボエ、フラウト・トラヴェルソを用いることで当時の音色が再現され、より透明で対話的なサウンドが得られます。一方、近代的なピストン式トランペットやモダン弦楽器での演奏も多く、それぞれが異なる魅力(壮麗さ、音の厚み、鮮明なダイナミクス)を示します。いずれにせよ、《第2番》は編成の個性が強く、指揮者・ソリストの選択と解釈により印象が大きく変わります。
楽曲の意義と受容
ブランデンブルク協奏曲第2番は、バロック協奏曲の発展における重要な一例であり、ソロと合奏の関係を柔軟かつ創造的に再定義した作品として称賛されます。特にトランペットという当時の軍楽や祝祭音楽を想起させる楽器を室内楽に取り込んだことで、色彩的なコントラストと劇的効果をもたらし、その独自性が今日まで高く評価されています。
聴きどころと鑑賞ポイント
- 第1楽章のリトルネロ主題と独奏群の応答に注意し、モチーフがどの楽器で変化するかを追ってみる。
- 第2楽章では歌わせるラインと和声の移ろい、通奏低音の役割を細かく聴き分けると内面的な深さが見えてくる。
- 第3楽章の対位法的展開とフィナーレの躍動感をもって、バッハの構築力を感じ取る。
おすすめの参考演奏(聴き比べの視点)
原典主義的な演奏とモダン・アンサンブルによる演奏では、音色・テンポ感・バランスが大きく異なります。原典主義(古楽器)では透明で対話的な性格、モダン演奏ではより華やかで重厚な表現が得られます。聴き比べることでこの曲が持つ多層的な魅力を理解できます。
楽譜と原典資料
スコアや自筆譜の版を参照することで、細かな筆記法や装飾の痕跡を確認できます。現代の演奏解釈を考える際は、原典版や信頼できる校訂版にあたることが重要です。
演奏・編曲の余談
第2番は小編成での清澄な対話が魅力のため、映画や広告の音楽に引用されることもありますが、バッハ自身がコレクションとして提出した意図を尊重して鑑賞することで、本作品が放つ宗教性や祝祭性の両面を見ることができます。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica - Brandenburg Concertos
- IMSLP - Brandenburg Concerto No.2, BWV 1047 (score)
- Bach Digital - Work BWV 1047
- Bach Cantatas Website - BWV 1047


