バッハ:BWV1048 ブランデンブルク協奏曲第3番 ト長調 — 編成・構造・演奏の魅力を深掘り

序論 — なぜ第3番は特別か

ヨハン・セバスティアン・バッハの『ブランデンブルク協奏曲』第3番ト長調 BWV 1048 は、「協奏曲」としての形式感と弦楽の勢いが極めて濃縮された作品です。6曲から成るブランデンブルク協奏曲集の一作であり、他の協奏曲と比べても編成・構造上のユニークさが目立ちます。本稿では歴史的背景、編成と楽器配置、各楽章の形式分析、演奏・解釈上のポイント、現代における受容とおすすめ録音まで、できるだけ丁寧に掘り下げます。

歴史的背景と成立

『ブランデンブルク協奏曲』全6曲はバッハが編纂して、1721年3月24日にブランデンブルク=シュヴェート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに献呈した写本として残っています。BWV 1048(第3番)はその一部として収められており、管弦楽法や協奏曲形式に対するバッハの創意と実験精神が反映されています。作品自体の素材はヴァイマールやケーテン時代の弦楽曲や室内楽から由来する可能性が指摘されており、完全に新作として一度に書かれたわけではなく、既存の小品を統合・再編した側面もあります。

編成と楽器配置の特徴

  • 標準的な編成:第3番は三つのヴァイオリン、三つのヴィオラ、三つのチェロ(あるいはヴィオローネ的な低弦)、および通奏低音(basso continuo)が用いられます。
  • “3×3”の構造:三つの同一系統の弦群(高・中・低)が並列に配され、コンチェルト・グロッソ的な“集団と個の拮抗”が生まれます。多くの協奏曲が独奏群(concertino)と全合奏(ripieno)を明瞭に分けるのに対し、第3番は同質の楽器群が層になって絡み合う点で異彩を放ちます。
  • 通奏低音の扱い:原得譜では通奏低音が明瞭に記されている版もありますが、三群のチェロで低音が充分に充足されるため、通奏低音を省く演奏やハープシコードを加える演奏の両方が史的・現代的に存在します。近年の史的演奏法ではどちらの選択も採られています。

楽章ごとの分析

第1楽章 — Allegro

冒頭から活気に満ちたアレグロは、短い主題動機が反復と移調を通して次々に展開される構造です。リトルネロ的な返答と、三群の対話がテンポ感と躍動感を生み出します。バッハならではの対位法的処理が見られ、同じモティーフが上下の声部で移動することで音楽に連続的な推進力が与えられます。

第2楽章 — Adagio(特異な中間楽章)

第3番で特に話題になるのが第2楽章です。スコア上では長いフェルマータを伴うわずか数個の和音しか記されておらず、実演では単なる「休息」ではなく、ソロ的な間(ま)の挿入として扱われることが多いです。歴史的にはここで通奏低音や独奏者が自由なカデンツァ風の装飾を加えることが許容され、現代の演奏でもしばしば一人ないし数人の楽器による即興風パッセージで補われます。バッハ自身が意図した正確な音形は不明ですが、「静と動」の対比を極端にすることで第1・第3楽章の活発さを際立たせる効果が生まれます。

第3楽章 — Allegro

終楽章は再び活気に満ちたアレグロ。リズムの切れと対位法的な重ね合わせが特徴で、短いフレーズが呼応し合いながら展開されます。ダンス的な要素よりは、知的な音型遊びと駆け引きが中心で、終結に向けてテンションが高まっていきます。構成上はやや輪郭が単純に見えて、実は内部で入念な声部計画が働いています。

和声・対位法上のポイント

第3番は全体として乾いた対位法の魅力が前面に出ます。和声的には明快な主調(ト長調)を基盤に、短いモジュレーションやシーケンスで色づけされますが、バッハの関心は主として各声部の相互関係にあります。特に同一系統の楽器を三つに分けることで、和声進行が声部間のポリフォニーとして提示される点が興味深いです。

演奏と解釈の諸問題

  • テンポとアーティキュレーション:近代オーケストラと史的演奏(原典版・古楽器)でテンポ感や弓使いが大きく異なり、音色の豊かさが曲の印象を左右します。
  • 通奏低音の有無:ハープシコードを入れるか否かは奏者の解釈によります。ハープシコードを入れるとバッハ時代の幕のある立体感が得られる一方、三群のチェロだけで締めると透明なアンサンブル感が強調されます。
  • 第2楽章の処理:長い和音をそのまま演奏するか、あるいはソロによる即興的な装飾を置くかで演奏の性格は大きく変わります。現代でも多くの録音でソロ・ヴァイオリン等によるフィルインが行われています。

楽曲の位置付けと影響

第3番はブランデンブルク協奏曲集の中でも特に弦楽的エネルギーが凝縮された一曲として演奏会でも人気があります。協奏曲という枠組みを取りつつも、協奏的な「独奏と合奏の対立」を単純化し、群れとしての弦の力を示した点で特異です。後代の作曲家や編曲家にとってもこの“均質な多声”による絵画的なテクスチャは魅力的な素材となりました。

おすすめの聴きどころと学習法

  • 第1楽章:短い動機のやり取りを追い、どの声部が主導しているかを数小節ごとに追いかけると対位法の面白さが理解しやすい。
  • 第2楽章:休止のように見える部分に込められた意味を想像する。もし演奏が装飾を入れているなら、その装飾がどのように主調の輪郭を補強/対照しているかを考えると良い。
  • 第3楽章:声部の重なりから生まれるハーモニーの瞬間を拾い、終結へ向けた短いフレーズの連鎖を追跡すること。

録音と演奏の推薦(参考)

史的演奏(古楽器)と近代オーケストラによる演奏の両方に魅力があります。史的解釈は小編成の透明感とリズムの切れを重視し、近代的な大編成は豊かな音色とダイナミクスが聴きどころです。いくつか代表的な指揮者・団体の録音を聴き比べると解釈の幅がよく分かります(例:ニコラウス・ハルナックト、トレヴァー・ピノック、現代オーケストラによる録音 etc.)。

結論 — 第3番が教えてくれること

BWV 1048 は短い楽章構成と限られた楽器群にもかかわらず、豊かな対位法と色彩を提示します。協奏曲という形式の中であえて「群としての弦」に焦点を当てることで、バッハは音楽のダイナミクスや集団的なアンサンブル表現の新たな可能性を示しました。演奏する側にとっては均質な弦群のバランス調整と、沈黙(第2楽章)の扱いこそが腕の見せどころになります。

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参考文献