バッハ BWV1065 — 4台のチェンバロのための協奏曲(イ短調):成立・編曲技法・聴きどころ徹底解説

バッハ:BWV1065 — 4台のチェンバロのための協奏曲(イ短調)とは

BWV1065はヨハン・ゼバスティアン・バッハが編曲した協奏曲で、4台のチェンバロ(独奏)と弦楽オーケストラ、通奏低音のための作品です。原曲はアントニオ・ヴィヴァルディの「四つのヴァイオリンのための協奏曲」作品で、リチェルカーレ的な対位法や協奏曲の書法を学んでいたバッハが、イタリア・コンチェルトの語法を鍵盤楽器へ移植した好例として広く知られています。

編成のユニークさと高度な対話性により、演奏会でも聴き応えのあるレパートリーとなっており、歴史的な研究・演奏実践の観点からも注目される曲です。

成立と編曲の背景

BWV1065は、バッハがヴェネツィアの作曲家ヴィヴァルディの協奏曲を鍵盤楽器向けに編曲・写譜した一連の作品の一つです。ヴィヴァルディの原曲は四つの独奏ヴァイオリンを擁する協奏曲(通称 RV 580)で、バロック期におけるヴァイオリン協奏曲の様式をよく伝えています。

バッハによる編曲はおそらくライプツィヒ滞在中、1729年から1735年ごろに行われたと考えられています。正確な成立年は不明ですが、バッハがイタリア協奏曲や他の編曲を通じてヴィヴァルディ風のリズム感や形式を吸収していた時期と重なります。

原曲との関係と編曲上の工夫

BWV1065は原曲からの直訳ではなく、鍵盤用として実際的かつ効果的になるよう複数の調整が施されています。特徴的なのは以下の点です。

  • 転調・移調:ヴィヴァルディの原曲が属していた調性からバッハは一部を移調し、演奏の均衡や鍵盤の扱いやすさを考慮してイ短調に整えています。
  • 音色の分配:4人の独奏ヴァイオリニストが担っていた対位線を、チェンバロ4台に巧みに割り当てており、各チェンバロがソロとして独立した線を担当します。同時に弦楽合奏はリトルネッロ的な伴奏や和声支えを担います。
  • 装飾と重音処理:弦楽合奏では実現しにくいチェンバロ特有のアルペッジョや重音処理を活かす場面があり、鍵盤ならではのテクスチュアを導入しています。

楽器編成とスコアの特徴

典型的な編成は4台のチェンバロ(あるいはチェンポリオンやチェンバロ+クラヴィコードなど組合せ)と弦5部及び通奏低音です。現代ではチェンバロ4台を用いることが難しい場合、二台のチェンバロや二台のピアノ+通奏低音で代替する演奏もあります。

スコア面では、ソロ群とリトゥルネル(合奏)とのコントラストが明確で、バッハは原曲の素材を尊重しつつも鍵盤合奏のためのバランス調整とフレーズ処理を行っています。対位法的な応酬が随所に見られるため、演奏者のアンサンブル能力が問われます。

楽章ごとの分析と聴きどころ

第1楽章:アレグロ

快速で切れ味の良いリトゥルネル形式が基本。ヴィヴァルディに由来する主題動機がチェンバロ群の間で受け渡され、短い切れ目や対位的な模倣が活発に展開されます。聴きどころは、四つの独立したソロが如何にして主題を取り合い、合奏と融和するかという点です。装飾や連続的なパッセージをどのように分散して聴かせるかが演奏上の鍵です。

第2楽章:ラルゴ(またはラメント風の緩徐楽章)

この楽章は情感深く、和声進行と伸びやかな旋律線が聴衆の注意を引きます。原曲の歌うようなヴァイオリンのソロがチェンバロ群に移されることで、独特の響きが生まれます。チェンバロの音は弦の持続音に比べれば短いが、バッハは間やフレージングでそれを補い、対位法的な応答を巧みに配置しています。緩徐楽章では音色のコントラストとレガート感の演出が重要です。

第3楽章:アレグロ(フィナーレ)

最終楽章はフーガ的要素やスプリントするような連続パッセージを含み、技巧的で活気に満ちています。ここでは各チェンバロが主題を受け持つ場面が多く、交互に主導権を握るダイナミズムが曲を牽引します。終結部に向けてテンポとテクスチュアが高まり、観客に爽快な印象を残します。

演奏・解釈のポイント

演奏面ではいくつかの実践的な検討が必要です。

  • チェンバロとピアノの選択:歴史的実践に基づく演奏ではチェンバロを用いることが標準ですが、現代のコンサートではピアノによる演奏やチェンバロとピアノの混合も行われます。チェンバロは減衰が速く、アーティキュレーションでフレーズを形づくる必要があります。
  • 調律・テンポ:平均律やミーントーン等どの調律を選ぶかで和声の色彩が変わります。テンポ設定はヴィヴァルディ的なリズム感を保ちつつ、チェンバロの音の短さを考慮して緩急をつけることが求められます。
  • アーティキュレーションと装飾:バロック装飾は必須。特に緩徐楽章では装飾や間の取り方で歌い方が変わります。フレーズの受け渡しでは明確な輪郭を作ることが重要です。
  • 合奏のバランス:4台のチェンバロが互いに干渉しないよう、配置や音量管理に工夫が必要です。弦楽合奏は通奏低音と和声支えに徹しつつ、ソロ群との対話を大事にします。

受容と音楽史的意義

BWV1065はバッハがイタリア協奏曲の様式を取り込み、自らの対位法的語法と結びつけた事例として意義深い作品です。ヴィヴァルディの素材を単に模倣するのではなく、鍵盤合奏という異なる媒介に移すことで新たな表情を獲得しています。また、バッハの編曲作業は若い作曲家や後世の音楽家にとって学習資料ともなり、作品分析や編曲術の手本としても活用されてきました。

聴きどころのガイド

初めて聴く人へのポイントは次の通りです。

  • 第1楽章では主題がどのチェンバロから登場するかに注目する。受け渡しの巧みさが聴き取れる。
  • 第2楽章ではチェンバロの短い発音を補うフレージングと弦の持続をどう融合させるかを聴く。
  • 最終楽章は各ソロの対話とリズムの推進力を楽しむ。終結部の一体感に注目する。

スコアと資料の参照方法

研究や演奏準備のためには原典版や信頼できる校訂版のスコア参照が不可欠です。IMSLPなどの公開譜は入手しやすく、版の差異を比較するのにも役立ちます。楽曲の成立や原典に関する注記を確認するためには、専門文献や作曲家辞典(例えば Grove Music Online や Bach Digital の資料)も参照してください。

演奏録音について(聴き比べの提案)

録音は歴史的演奏慣習に忠実なチェンバロ主体のものから、モダンなピアノや編成で表現するものまで幅広く存在します。聴き比べの際は、テンポ感、アーティキュレーション、チェンバロの音色や配置、通奏低音の扱いに着目すると、それぞれの解釈の違いが明確になります。特にヴィヴァルディ原曲との対比で聞くと、バッハの編曲的選択がよく分かります。

まとめ:BWV1065が教えること

BWV1065は単なる編曲作品にとどまらず、バロック時代の様式融合、編曲技術、鍵盤楽器の表現可能性を示す重要な実例です。4台のチェンバロという非日常的な編成は、演奏者・聴衆双方に対位法の妙やアンサンブルの醍醐味を強く印象づけます。原曲の精神を尊重しつつ鍵盤音楽として再解釈したバッハの工夫を味わってください。

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参考文献