和音理論を徹底解説:基礎から応用、ジャズ・ポピュラーへの実践技法
和音理論とは何か
和音理論(和声理論)は、複数の音が同時に鳴ったときに生まれる音の関係と機能を体系化した学問です。西洋音楽を中心に発展してきた概念ですが、ポピュラー音楽やジャズ、民族音楽におけるコード形成や進行の理解にも応用されます。本稿では音程・和音の構造、機能和声、コード表記、テンションや代理和音、実践的なボイシング技法までを詳細に解説します。
基礎:音程と三和音の構造
和音は基本的に音程の積み重ねで成り立ちます。最も基本的な和音は三和音(トライアド)で、根音(ルート)から長3度・完全5度あるいは短3度・完全5度といった組み合わせにより分類されます。
- 長三和音(メジャー): 根音・長3度・完全5度(例:C-E-G)。明るく安定した響き。
- 短三和音(マイナー): 根音・短3度・完全5度(例:A-C-E)。やや暗めで感情的な響き。
- 減三和音(ディミニッシュ): 根音・短3度・減5度(例:B-D-F)。緊張感が強く不安定。
- 増三和音(オーグメント): 根音・長3度・増5度(例:C-E-G#)。前へ進むような拡張感。
三和音は転回(根音以外を最低音にすること)により、その役割を変化させます。第一転回(第3がベース)、第二転回(第5がベース)はベースラインの動きやボイシングに不可欠です。
四和音とテンションの理論
三和音に第7音を加えた四和音は和声の豊かさを大幅に増します。主要な四和音は長7、長7マイナー、短7(ドミナント7)、半減7、減7などがあります。特にジャズやポピュラーでは「テンション」と呼ばれる9度、11度、13度の音が装飾的に加えられますが、これらは基音とのインターバルや和声機能との整合性を保つ必要があります。
- 9th(9度): 2度を1オクターブ上げたもの。コードに色彩を加える。
- 11th(11度): 4度の延長。ナチュラル11はトニックやサブドミナントで使われやすいが、ドミナントでの使用はテンションの選択に注意。
- 13th(13度): 6度の延長。よりジャズ的で厚みのあるサウンドを生む。
テンションの選択は基本的に3度と7度(コードのトライアドと7の構成音)との関係で決まります。例えば、メジャー・コードに対しては9と13が自然に働きやすく、ドミナントにはb9,#9,b13などの緊張系テンションが効果的です。
機能和声:トニック・ドミナント・サブドミナント
機能和声は、和音が持つ役割(機能)に注目する考え方です。主な機能はトニック(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(S)。
- トニック(T): 安定・解決の場所(例:I)。
- ドミナント(D): 緊張を生成しトニックに向かわせる(例:V, V7)。
- サブドミナント(S): トニックから離れ、ドミナントへと移行する橋渡し(例:IV)。
西洋古典やポピュラーの多くの進行はこのT-S-Dの動きに基づいており、II-V-I進行(S→D→Tの典型)は特にジャズで頻出します。ドミナント機能は代理和音(例: tritone substitution)により置き換えが可能で、異なるベースラインとテンションを生み出します。
代理和音と循環和声
代理和音とは、ある和音の機能を別の和音で代替する技法です。代表例はトライトーン・サブスティテューション(Vの代理としてbII7を使う)で、Vの3度と7度を含むトライトーンを維持しつつ異なる根音を与えます。循環和声(サークル・オブ・フィフスに基づく進行)は、五度圏に沿った和音移動で強い方向感を生みます。
モードとスケールによる和声の違い
和音を構成する音は、使用するスケール(モード)に依存します。例えばドリアン・モード上のマイナーコードは6度がナチュラルであり、和音の色付けが異なります。モードの選択はメロディと和声の整合性を左右するため、コード進行を作る際は目標とするモードを明確にすることが重要です。
コード表記と分析の方法
コード表記には大文字アルファベット(C, Am, G7など)とローマ数字(I, ii, V7など)があります。ポピュラー音楽ではアルファベットが一般的で、ジャズや古典分析ではローマ数字が用いられます。ローマ数字は調性(キー)に対する機能を明確に示すため、転調や機能の追跡に便利です。
ボイシング(配置)と音色の設計
同じコードでも音の配置(ボイシング)で響きは大きく変わります。以下の考え方が実践的です:
- 密集(クローズド)ボイシング:隣接音を固める。密度が高く厚い。
- 分散(オープン)ボイシング:オクターブや広い間隔で配置。透明感や広がり。
- テンションの配置:テンションは3度や7度とのバランスを考え、ぶつかり(ディソナンス)をコントロール。
- ベースライン設計:和音の機能とベースの動き(歩行ベースなど)を同期させる。
応用テクニック:転調・モーダルインターチェンジ
転調(キーの変更)は曲にダイナミクスを与える手法です。半音や五度圏に基づく転調だけでなく、隣接モードからの借用(モーダル・インターチェンジ)も有効です。例えばメジャーキーでマイナーivやbVIなどを借用すると、色彩豊かな和声効果が得られます。
ジャズ的な考え方:ドミナントの拡張と代替
ジャズではドミナントに多彩なテンションや9,#9,11,b13などを重ね、サブスティテューション(tritone substitution)や二次ドミナント(V/Vなど)を駆使します。II-V-Iの各部分でのテンション選択と解決パターン(テンション→解決音)は即興演奏における重要な材料です。
実践的な作曲/編曲アドバイス
- 目的を決める:感情や場面に応じて「安定」「進行」「曖昧さ」などの和声目標を設定する。
- シンプルから始める:まずはI-IV-Vなど基本進行に色付けする形でテンションや代理を試す。
- ベースの動きに注力:ベースラインが和声の印象を決定づける。ステップ、跳躍、ペダルを使い分ける。
- メロディとの整合:和声はメロディを支える役割が基本。和音がメロディラインを抑圧しないよう配慮する。
- 耳を鍛える:理論は道具。実際に弾いて、録音して比較することで最適な和声感覚を養う。
よくある誤解と注意点
和音理論は規則の集まりではなく、音楽的効果を説明・予測するための道具です。たとえば「テンションは常に解決すべき」という一般化は状況依存です。現代音楽やアンビエント、ポピュラーではテンションを持続させることで独特の響きを作ることも多く、機能和声のルールをそのまま強制するべきではありません。
まとめ:理論と実践の橋渡し
和音理論は、音楽の響きや方向性を理解・設計するための強力なフレームワークです。基礎である音程や三和音、四和音の構造を押さえ、機能和声とテンションの扱いを学ぶことで、作曲や即興、編曲の表現力が飛躍的に向上します。最終的には理論を道具として使い、耳と感覚に基づいた判断を磨くことが重要です。
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参考文献
- MusicTheory.net — 音楽理論の基礎(英語)
- Wikipedia: Chord (music)
- Wikipedia: Functional harmony
- Wikipedia: Chord progression
- Wikipedia: Tritone substitution
- Wikipedia: Mode (music)
- Mark Levine, The Jazz Theory Book(参考書)
- Walter Piston, Harmony(参考書・解説)
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