マルトエキスとは？ビール・酒造・製菓での使い方と選び方、成分・保存・注意点を徹底解説

2025年12月26日 最終更新日時 : 2025年12月26日 エバープレイ編集部

はじめに：マルトエキスとは何か

マルトエキス（malt extract）は、発芽させた大麦（モルト）を原料にして、糖分や酵素、アミノ酸などを濃縮した液状または乾燥粉末の製品です。家庭用・業務用を問わず、ビール醸造、焼菓子や製パン、栄養補助食品、菓子製造など幅広い用途で使われます。この記事では、その製造過程、成分、酒造における役割、種類の違い、取り扱い・保存法、健康上の注意点までを詳しく解説します。

製造過程の概要

マルトエキスは大きく分けて次の工程で作られます。まず大麦を湿潤・発芽させる「麦芽化（マルティング）」を行い、発芽過程でデンプンを糖化する酵素（α-アミラーゼ、β-アミラーゼなど）を生成させます。次に乾燥してモルトを得た後、粉砕して温水で糖を抽出する「糖化（マッシング）」を行います。糖化液（ウォート）を濾過して得た糖化液を加熱濃縮し、液状のまま製品化したものが液体マルトエキス（LME）、さらに水分を飛ばして粉末化したものが乾燥マルトエキス（DME）です。

主な成分と機能

マルトエキスの主要成分はマルトース（麦芽糖）、グルコース、デキストリン、低分子の糖質および蛋白分解物（アミノ酸・ペプチド）です。酵素は通常、製造段階の加熱で失活しますが、特定の未加熱製品や「ジアスタティック（酵素活性あり）マルトエキス」では酵素活性が残っている場合があります。

  • 糖分：酵母の栄養源となり、発酵を促進する
  • アミノ酸・窒素分（FAN）：酵母発育に必須の窒素源となる
  • 色・香り成分：カラメル化やメイラード反応により風味を与える
  • 酵素（存在する場合）：追加の糖化やデンプン分解を助ける

種類と選び方：ジアスタティック／ノンジアスタティック、LME／DME

製品は用途に応じていくつかのタイプに分かれます。まず酵素活性の有無による区別で、酵素を保持しているジアスタティックタイプは、麦芽以外のデンプン材料（トウモロコシやライス）を糖化させる補助として使えます。一方、ノンジアスタティック（酵素不活化）タイプは風味付けや糖分補給が目的です。

また物理形状では液体（LME）と粉末（DME）があり、それぞれ利点があります。LMEは扱いやすく溶解性が良い反面、水分が多いため保存性が劣ります。DMEは水分が少なく長期保存に向き、計量や保管が楽です。使用時は目的（発酵の一次糖源、追い糖、風味付け、パンの風味強化など）に合わせて選んでください。

酒造（ビール・発酵飲料）での使われ方

ビール醸造では、マルトエキスは以下の用途で広く使われます。

  • エキス分の補給：麦芽原料が不足する場合や、ライトなビールを短時間で作るための基材
  • ホームブルーイングの主原料：マッシング工程を省略して簡便に醸造する「エキスブルーイング」で用いられる
  • 発酵栄養補助：FANなどにより酵母健康を支える
  • カラーモディファイアや風味付与：特定の色やトースト香、カラメル感を加える

プロのブルワリーでも、季節商品やコスト調整のために限定的に使用されることがあります。ただし原料表示や法令（国ごとの酒税・表示規定）に従う必要があります。

蒸留・他の酒類での活用と注意点

蒸留酒の発酵母地となるウォッシュ（発酵液）を作る際の糖源としてマルトエキスが利用されることがあります。麦芽由来であるため麦の風味を残しやすく、シングルモルト風味を模した蒸留酒の生産に使われることもあります。ただし、国や地域の酒税法や表記規定により「モルト由来」や「麦芽使用」の表示に影響する場合があるため、商業生産では事前に確認が必要です。

日本の清酒（日本酒）では、麹（こうじ）と蒸米による糖化発酵が中心のためマルトエキスは一般的に使用されません。

製菓・製パンでの使い方

製菓業界では、マルトエキスは独特の香ばしさと深みを与えるため、クッキー、パン、キャンディ、マルチミルク製品などに使われます。パンではクラストの色づきや風味向上、糖化の補助（イースト栄養）として有効です。粉末タイプは配合しやすく、液体タイプは生地の柔らかさを維持する際に便利です。

保存・取り扱いのポイント

保存は製品の種類で異なりますが、共通して直射日光を避け、乾燥で涼しい場所に保管することが重要です。LMEは水分があるため開封後は冷蔵保存または密封して早めに使い切るのが望ましい。DMEは吸湿性が高いので湿気を避け、開封後はしっかり密閉してください。微生物汚染のリスクを避けるため、使用時に清潔な器具を用いることも大切です。

栄養・安全性とアレルギー

マルトエキスは主に麦芽由来であるためグルテンを含み、セリアック病や重度のグルテン感受性を持つ人は摂取を避ける必要があります。栄養面では糖質が主体であり、ビタミン・ミネラルは限定的です。糖質量が多いため糖尿病などの疾病管理を要する方は摂取量に注意してください。

選び方と実践的アドバイス

購入時のチェックポイントは用途、酵素活性の有無、色（ライト〜ダーク）、物性（液体／粉末）、原材料表記（大麦100％かどうか）です。ホームブルーイングでは、初めてならノンジアスタティックのLMEで基本のエキスブルーイングを学び、その後DMEやジアスタティック製品を試すとよいでしょう。商業利用では、風味の一貫性と原料表示規定を必ず確認してください。

まとめ

マルトエキスは麦芽の風味と糖分、酵母栄養を手軽に利用できる便利な原料です。ビールや蒸留酒、焼菓子、パンなど多様な分野で役立ちますが、製品タイプや酵素活性、保存方法、法規制、アレルギーの観点を理解して使うことが重要です。用途に合わせた選択と適切な管理で、風味・品質を高める強力なツールになります。

参考文献

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お酒
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