King Crimsonの系譜と革新 — プログレッシブ・ロックを再定義した軌跡
概要
King Crimson(キング・クリムゾン)は、1968年にギタリストのロバート・フリップを中心にロンドンで結成された英国のロックバンドであり、プログレッシブ・ロックの歴史において最も影響力のある存在の一つです。1969年のデビュー作『In the Court of the Crimson King』は、当時のロックの枠組みを拡張し、ジャズや現代音楽、前衛的な要素を取り入れたサウンドで一世を風靡しました。以降、メンバーの頻繁な入れ替わりとともに常に変化を続け、ロバート・フリップが唯一の一貫した中心人物としてバンドを牽引してきました。
結成と初期(1968–1971)
創設メンバーはロバート・フリップ(ギター)を中心に、イアン・マクドナルド(マルチ・インストゥルメンタリスト/木管、リード)、グレッグ・レイク(ベース/ボーカル)、マイケル・ジャイルズ(ドラム)、そして詩人かつ照明演出も手がけたピーター・シンフィールド(リリック)でした。1969年に発表された『In the Court of the Crimson King』は、「21st Century Schizoid Man」や「Epitaph」などを収録し、メロトロンや歪んだギター、複雑なアレンジを駆使した革新的な作品として評価されます。
デビュー後もラインナップはすぐに変動し、グレッグ・レイクはエマーソン、レイク&パーマー(ELP)結成のため脱退。1970年には『In the Wake of Poseidon』『Lizard』『Islands』といった作品を発表し、各作ごとに音楽性が移ろいながらも「実験的でダイナミック」な姿勢を維持しました。
第2期〜1974年の変遷
1972年から1974年にかけては、よりジャズや前衛音楽への接近が顕著になった時期です。代表的なラインナップとして、ロバート・フリップに加え、ビル・ブルーフォード(ドラム、元Yes)、ジョン・ウェットン(ベース/ボーカル)、デヴィッド・クロス(ヴァイオリン/キーボード)、ジェイミー・ミュア(パーカッション)らが参加しました。この編成で制作された『Larks' Tongues in Aspic』(1973)は、より重厚で実験的、時に即興性を含む楽曲を特徴とします。
1974年には『Starless and Bible Black』と『Red』を発表。『Red』はその激烈なヘヴィネスと不協和音的なアンサンブルにより、後のヘヴィ・メタルやアヴァン・ロックに与えた影響が大きいとされます。「Starless」は同時期の名曲として高く評価されています。この時期に多くのメンバーが脱退・休止し、1974年をもってバンドは一度活動を停止しました。
1981年の再結成と80年代
1981年、フリップは新たにアドリアン・ブリュー(ギター/ボーカル)、トニー・レヴィン(ベース/Chapman Stick)、ビル・ブルーフォードを迎えて再結成を果たします。1981年の『Discipline』は、ポリリズムや複雑なギター・インタラクション、ミニマルな反復を取り入れた新しい方向性を示し、当時のニュー・ウェイヴやポスト・パンクの文脈とも響き合いました。続く『Beat』(1982)、『Three of a Perfect Pair』(1984)ではメロディアスさと実験性が共存しますが、1984年のツアー後にこの編成も解体されます。
1994年のダブル・トリオと90年代
1994年にはいわゆる「ダブル・トリオ」編成が生まれました。ギター&ボーカルのアドリアン・ブリュー、ロバート・フリップ、ベース/Chapman Stickのトニー・レヴィン、トレイ・ガン(Warr Guitar/タップ奏法)、そして二人のドラマー、ビル・ブルーフォードとパット・マステロットの六人編成です。この編成は1995年のアルバム『THRAK』で具現化され、厚いテクスチャーとポリリズムを存分に発揮しました。
2000年代以降と活動の続行
1990年代終盤以降もキング・クリムゾンは断続的に活動を続け、2000年には『The ConstruKction of Light』、2003年には『The Power to Believe』を発表しました。2000年代以降はスタジオ・アルバム発表の間隔が長くなった一方で、ツアーや大量のライヴ記録、リマスター/アーカイブ作品のリリースが活発になりました。ロバート・フリップは自らのレーベル/運営組織を通じて公式ブートレグやアーカイブ音源の公開を行い、ライブ活動を中心とした運営方針を取っています。
音楽的特徴と革新性
- ポリリズムと複雑な拍子感:ビル・ブルーフォードらによる複雑なドラミングと、フリップのギターが生む非直線的なリズム進行。
- 前衛的な音響実験:フリップが用いたフリッパートロニクスやギター・クラフトの影響、ノイズや不協和音を積極的に取り入れたサウンド設計。
- 即興と構築の融合:精緻に構築された楽曲とライブでの大規模な即興演奏が両立しており、同一楽曲でも公演ごとに異なる表情を見せる。
- 楽器編成の多様性:メロトロン、ヴァイオリン、Chapman Stick、Warr Guitarなど、ロック・バンドとしては異色の楽器を導入。
ライブとアーカイブ文化
キング・クリムゾンはライブを重視し、ライヴでの即興演奏を通じた楽曲の変容を重要視してきました。公式アーカイブやDGM(Discipline Global Mobile)を通じて、過去のツアー音源や未発表曲が体系的にリリースされている点も特徴です。また、1970年代のライブ録音群(例:『Earthbound』や『USA』など)は当時の荒々しさと実験性を伝える重要資料です。
影響と評価
キング・クリムゾンはプログレッシブ・ロックの定義を拡張しただけでなく、後のメタル、ポストロック、数学的なロック(Math Rock)や現代のプログレ系、実験的ロックに大きな影響を与えました。多くのミュージシャンがフリップのギターワークやバンドの構造的アプローチを賞賛しており、バンドの作品は批評的にも高い評価を受け続けています。
代表作と聴きどころ(短評価)
- In the Court of the Crimson King (1969) — 入門にも最適なデビュー作。メロトロンと叙情性、前衛性の融合。
- Larks' Tongues in Aspic (1973) — ジャズ的即興性とヘヴィネスの混在。バンドの実験性が明確に示される。
- Red (1974) — シンプルかつ強烈なヘヴィなアンサンブル。後のヘヴィ・ロックに与えた影響が大きい。
- Discipline (1981) — ポリリズムと交差するギターワークが刷新された80年代の名盤。
- THRAK (1995) — ダブル・トリオの厚みを活かした現代的サウンド。
結論
キング・クリムゾンは、その都度メンバーを入れ替えつつも「常に変わり続ける」ことを体現したバンドです。ロバート・フリップの強いビジョンのもと、プログレッシブ・ロックの枠を越えた音楽的探究は現在に至るまで多くのアーティストに影響を与え続けています。初期の叙情的かつ壮大なサウンドから、70年代の前衛的アプローチ、80年代のリズム重視の革新、90年代以降の再編と多層的な音響まで、King Crimsonの軌跡は現代音楽史における重要な章と言えるでしょう。
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参考文献
- King Crimson Official Site
- Encyclopaedia Britannica — King Crimson
- AllMusic — King Crimson Biography
- Wikipedia — King Crimson
- Rolling Stone — King Crimson: 10 Greatest Songs
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