Yesの全貌:プログレッシブ・ロックの革新と変遷 — バンド史・音楽分析・代表作解説
概要:Yesとは何か
Yes(イエス)は、1968年にイギリスのロンドンで結成されたプログレッシブ・ロックを代表するバンドです。長年にわたるメンバー交代と音楽的実験を通じて、複雑な楽曲構成、卓越した演奏技術、荘厳なコーラスワーク、豊富なシンセサイザー/キーボード音色によって「プログレ」というジャンルの重要な柱の一つとなりました。活動は1969年のデビュー・アルバム『Yes』から現在に至るまで続き、1970年代のアルバム群で国際的な評価を確立し、1980年代にはポップ志向の成功を成し遂げるなど、長期にわたって変容と革新を続けています。
結成と初期の歩み(1968–1970)
Yesは1968年に、ベーシストのクリス・スクワイア(Chris Squire)とボーカリストのジョン・アンダーソン(Jon Anderson)を中心に結成されました。初期ラインナップはクリス・スクワイア(b)、ジョン・アンダーソン(vo)、ピーター・バンクス(g)、ビル・ブルフォード(dr)、トニー・ケイ(key)で、1969年にセルフタイトルのデビュー作『Yes』、1970年に『Time and a Word』を発表しました。初期はブルースやポップの影響も残るサウンドでしたが、メンバー交代とともに徐々に複層的で即興性の高い方向へ進化していきます。
「クラシック期」と呼ばれる黄金時代(1971–1974)
1970年にピーター・バンクスに替わって加入したギタリストのスティーヴ・ハウ(Steve Howe)と、1971年にキーボーディストとして参加したリック・ウェイクマン(Rick Wakeman)の加入により、Yesは音楽的に大きく花開きます。1971年の『The Yes Album』で高い評価を得ると、同年末から1972年にかけて発表された『Fragile』(1971)、『Close to the Edge』(1972)はバンドの革新性を象徴する作品となりました。
この時期の特徴は以下の点に集約できます。
- 長尺で多楽章的な組曲(例えば『Close to the Edge』の組曲構造)
- 複数の主題とアレンジを組み合わせた起伏の大きな曲展開
- ポリリズムや不均等拍子などを用いたリズムの複雑化
- リック・ウェイクマン等のフルートやハモンド、モーグ/ARP系シンセの多彩な使用
- クリス・スクワイアの派手でメロディックなベースラインと、ジョン・アンダーソンの高音域を活かした透明感のあるボーカル
また、1973年の二枚組『Tales from Topographic Oceans』は、宗教的・哲学的テーマを題材とする長大な楽曲で賛否両論を呼びましたが、実験性と野心の高さを示す作品として現在も議論の対象となっています。1974年の『Relayer』では、パトリック・モラズ(Patrick Moraz)がキーボードを担当し、ジャズやフュージョンの要素が顕著になりました。
演奏と作曲の特徴:メンバー別分析
Yesのサウンドは個々の奏者の個性が濃厚に反映されます。
- ジョン・アンダーソン(Vo):クリアで高音域の伸びを持つ歌声と、神秘性や自然観をテーマにした抽象的な歌詞が特徴。
- クリス・スクワイア(Bs):リード的な役割を果たす独特のトーンとメロディックなベースライン、ファンキーかつシンコペーションの効いたフレーズで楽曲の骨格を作る(2015年に死去)。
- スティーヴ・ハウ(G):クラシックからブルース、カントリー、ジャズまで幅広い奏法を持ち、アコースティックとエレクトリックを自在に使い分ける。
- リック・ウェイクマン/パトリック・モラズ(Key):シンセやキーボードの音色とアレンジで楽曲の空間を作り出し、シンフォニックな色付けを行う。
- ドラマー(Bill Bruford→Alan White):ブランフォードの精緻でジャズ寄りのタッチ、アラン・ホワイトのロック的推進力という対照的なアプローチがバンドのリズム感を多様化させた。
サウンド・プロダクションと技術革新
Yesはスタジオ録音においても先進的でした。シンセサイザーの積極的な導入(モーグ、ARP、Yamahaなど)や、多重録音を駆使した複雑なコーラス・アレンジ、当時の録音技術を最大限に利用した空間処理など、アルバムごとにサウンドの厚みや立体感を追求しました。プロデューサーやエンジニアとの協働で、楽曲のダイナミクスを精緻に設計する姿勢が目立ちます。
商業的変遷と1980年代の再解釈
1970年代末から1980年代にかけてロック業界やリスナーの嗜好が変化する中で、Yesも音楽性の再構築を迫られます。1979年以降のトレヴァー・ラビン(Trevor Rabin)加入により、よりコンパクトでポップ寄りの楽曲が増えます。1983年のアルバム『90125』と収録曲「Owner of a Lonely Heart」は、MTV時代のビデオ映像と相まってアメリカでの大ヒット(Billboard Hot 100で1位)となり、新しい世代のリスナーを獲得しました。
この時期は旧来のプログレッシブ要素を部分的に残しつつ、シンセ・リフやギター・フレーズを強調したモダンなロックとして成功をおさめた点が興味深い変化です。
ライブと視覚表現
Yesはライブ・パフォーマンスにも強いこだわりを持っていました。1970年代の舞台演出は大型のステージ・セットや照明、ビジュアル・アートと結びつき、楽曲のドラマ性を視覚的にも表現しました。長尺曲を途切れなく演奏する技術力、楽曲間でのテンポ変化や即興の呼吸感は、ライブを通じてバンドの価値を高めました。
批評と論争:評価の二面性
Yesの評価は一貫して賞賛される一方で、過度に難解である、あるいは自己陶酔的だと批判されることもありました。例えば『Tales from Topographic Oceans』はその長さとテーマ性から熱狂的支持と厳しい批判の両方を受けました。また、メンバー間の対立や頻繁なラインナップ変更は、作品の一貫性に影響を与えることもありました。しかし、多くの音楽家やバンドがYesの構築手法や楽器運用、長大な楽曲構造から影響を受けています。
影響と遺産
Yesの影響はプログレッシブ・ロックだけに留まらず、シンフォニック・ロック、ポスト・ロック、メタル、プログレ・メタルなど幅広いジャンルで認められます。複雑なアンサンブルとポップ・センスを融合させた点は、多くのミュージシャンにとって手本となりました。ロックの歴史における意義は大きく、2017年にはロックの殿堂(Rock and Roll Hall of Fame)に選出されています。
代表作ガイド(入門〜深掘り)
- 『The Yes Album』(1971):スティーヴ・ハウ加入後の飛躍を示す作品。ロック感と技巧のバランスが良い。
- 『Fragile』(1971):充実の楽曲群とメンバー間の演奏力を示す名盤。各メンバーのソロ曲も収録。
- 『Close to the Edge』(1972):バンドの最高傑作と評されることが多い組曲的構成の代表作。
- 『Tales from Topographic Oceans』(1973):大作志向の二枚組。好き嫌いが分かれるが聴き応えは圧倒的。
- 『90125』(1983):80年代リブートの成功作。シングル「Owner of a Lonely Heart」で大ヒット。
現在の状況と注意点
Yesはその後も複数の形態で活動を続け、派生的なプロジェクト(例:Anderson Bruford Wakeman Howeなど)も生まれました。創設メンバーの一人であるクリス・スクワイアが2015年に死去したことは大きな節目でした。また、ドラマーのアラン・ホワイトも2022年に逝去しています。これらの出来事はバンド史における重要な区切りですが、楽曲とレガシーは現在も世界中のリスナーに影響を与え続けています。
まとめ:Yesの音楽的価値とは
Yesは、技術的熟練と作曲の野心、そして進化を恐れない実験性を兼ね備えたバンドです。長尺の組曲的作品による精神的な高揚と、短尺で直感に訴えるポップな楽曲との両立を実現した点で稀有な存在といえます。プログレッシブ・ロックの代表例としての側面だけでなく、ロックの枠組みを越えて影響を与え続ける点が彼らの偉大さです。これから初めて触れる人は、まず『The Yes Album』『Fragile』『Close to the Edge』の順で聴くことをおすすめします。
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参考文献
- Official Yes Website — yesworld.com
- AllMusic — Yes Biography
- Rolling Stone — Yes Artist Page
- Rock & Roll Hall of Fame — Yes Inductee Page
- Billboard — Yes Chart History
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