レインボー(Rainbow)――リッチー・ブラックモアが築いたハードロックの多面性と遺産

概要

レインボー(Rainbow)は、ギタリストのリッチー・ブラックモア(Ritchie Blackmore)が1975年にディープ・パープル脱退後に結成したロック・バンドで、その楽曲は初期の叙情的で叙事詩的なヘヴィ・ロックから、後期のポップ寄りでラジオフレンドリーなハードロックまで幅広く変化しました。バンドは1975年から1984年頃まで活動の中心を置き、ロニー・ジェイムス・ディオ(Ronnie James Dio)、グラハム・ボネット(Graham Bonnet)、ジョー・リン・ターナー(Joe Lynn Turner)など、個性豊かなボーカリストと多くのメンバー交替を経ながら独自のサウンドを築き上げました。

結成と初期のサウンド(1975–1978)

レインボーは、ブラックモアが深く愛した古典音楽と中世的なメロディ、そしてハードロックの重量感を融合させたサウンドを志向しました。1975年のデビュー作『Ritchie Blackmore's Rainbow』では、ロニー・ジェイムス・ディオの神話的で劇的な歌唱が際立ち、シングル曲『Man on the Silver Mountain』などに見られる英雄譚的な歌詞と、クラシカルなスケール感を持つギター・プレイが特徴です。

続く1976年の『Rising』は、レインボーの代表作とされることが多く、特に『Stargazer』はオーケストラ的なアレンジ感と長大な構成、ディオの物語性の強い歌詞が融合した大作で、後のプログレッシブかつヘヴィなロックの方向性を示しました。初期のラインナップは頻繁に変わりましたが、ブラックモアとディオのコンビによる芸術的志向はバンドに明確な個性を与えました。

黄金期とラインナップの変遷(1979–1983)

1979年にロニー・ジェイムス・ディオが脱退すると、バンドは方向性の転換を図ります。グラハム・ボネットをボーカルに迎えた『Down to Earth』(1979)は、ロック・ラジオ向けの楽曲を多く含み、ラッセル・バラード(Russ Ballard)作のカバー『Since You Been Gone』がヒットするなど、より商業的な路線へとシフトしました。さらにジョー・リン・ターナーを迎えた1981年以降の作品群(『Difficult to Cure』, 『Straight Between the Eyes』, 『Bent Out of Shape』)では、メロディアスなAOR的要素やポップなコーラスワークが強まり、シングル志向の曲が増えました。

この時期の変化は、単なる商業主義への傾倒だけでなく、ブラックモア自身の音楽的探求とバンドのメンバー構成の変化によるものでもあります。ドラマーやキーボード奏者、ベーシストの入れ替わりが相次ぎ、各メンバーの得意分野がサウンドに反映されました。たとえば、コージー・パウエル(Cozy Powell)の力強いドラミングはバンドのリズム面に大きな影響を与え、ドン・エイリー(Don Airey)やトニー・ケアリー(Tony Carey)らキーボーディストはシンフォニックな広がりを補強しました。

音楽性と歌詞の特徴

レインボーの音楽性は大きく二つの側面を持ちます。第一はブラックモアのギターに代表されるクラシカル/中世的な要素と劇的な構築美。特に初期から中期にかけては、和声やモード(旋法)を用いた旋律が目立ち、曲のスケール感を強調するためにオーケストレーション的なアプローチが取られることもありました。第二は、メロディ重視のポップ寄りアプローチで、後期はキャッチーなフックやコーラスを前面に出すことでより広いリスナーにアピールしました。

歌詞面では、ディオ時代に見られる神話やファンタジー的なモチーフ(英雄譚、予言、空想世界)は、バンドのドラマティックなイメージを確立しました。一方で後期は日常的な恋愛や人間関係、セルフ・モチベーションを扱う曲も増え、歌詞テーマの幅が広がりました。

代表曲の分析

  • Man on the Silver Mountain(1975):デビュー作の象徴的なナンバー。シンプルなリフとディオの力強いボーカルで神話的イメージを提示し、バンドの初期方向性を示した。
  • Stargazer(1976):長尺の組曲的構成とオーケストラ的な展開を持つ名曲。黒魔術的・叙事詩的な物語を中心に据え、ブラックモアのリフとソロ、ディオの高揚感ある歌唱がドラマを生む。
  • Since You Been Gone(1979):ラッセル・バラードの作品をカバーしたシングル。グラハム・ボネット在籍期の代表曲で、ポップ寄りのアレンジがラジオでの成功につながった。
  • I Surrender(1981):ジョー・リン・ターナー期のヒット曲。メロディアスでキャッチー、AOR的な感触を持つが、ブラックモアのギター・フレーズが楽曲に堅牢さを付与している。

レコーディングとライブにおける特徴

レインボーのレコーディングは、楽曲のドラマ性と演奏の精度を重視する傾向があり、ブラックモアはスタジオでのサウンド作りに強いこだわりを持っていました。ライヴでは、特にディオ時代の曲は即興的なブリッジや拡張ソロが行われ、演奏の熱量が高く評価されました。1970年代のライブ盤『On Stage』(1977)はその演奏力を証明するものとして知られています。

商業的成功と批評

レインボーは、商業的成功と批評的評価の両面で複雑な位置を占めます。初期の作品は批評家から高く評価され、特に『Rising』はヘヴィ・ロック界の名盤として挙げられることが多い一方で、後期のポップ寄りの路線は一部のコア・ファンや批評家から「商業化」と批判されることもありました。しかし同時に後期のシングルはより幅広い層へ届き、バンドの知名度と市場性を高める結果となりました。

影響とレガシー

レインボーは、ヘヴィ・メタルやハードロック、さらにはパワー・メタルやネオクラシカル・メタルの発展に対して重要な影響を与えました。ロニー・ジェイムス・ディオの力強く表現力のある歌唱スタイルは後の多くのメタル・シンガーに影響を及ぼし、ブラックモアのクラシック音楽に根ざしたギターフレーズは、ギター・ヒーロー像の一つの典型となりました。また、楽曲構成における叙事詩的アプローチは、長尺曲やコンセプト志向の楽曲を作るバンドへ示唆を与えています。

バンドの終焉とその後

1983年の活動を経て、1984年頃にブラックモアはレインボーを一旦解散しました。解散後、ブラックモアは1990年代後半にフォーク/ルネサンス音楽を取り入れたBlackmore's Nightを結成し、まったく異なる音楽世界へ舵を切りました。一方、ロニー・ジェイムス・ディオはソロのバンド「Dio」を結成し、メタル界で確固たる地位を築きました。その他のメンバーも各方面でセッションや別バンドで活動を続け、レインボー時代の経験がそれぞれのキャリアに影響を与えました。

評価の再検討と現代における受容

近年では、レインボーの音楽性は単純な「初期=良い、後期=売れ線」といった二項対立で語られることは少なくなり、各時期ごとの意図や音楽的価値が再評価されています。初期の叙事詩的作品はクラシックやプログレッシブな要素のあるヘヴィ・ロックとして、後期の作品は80年代ロックのポップな側面を示す資料として、それぞれ異なる文脈で高く評価される傾向にあります。多様なラインナップと変遷を経たことで、レインボーは単一の音楽的アイデンティティに収まらない、多面的な遺産を後世に残しました。

まとめ:なぜレインボーは今日も聴かれるのか

レインボーが今日も聴かれ続ける理由は、演奏力の高さ、楽曲のドラマ性、そして世代やジャンルを超えた影響力にあります。リッチー・ブラックモアという独特のギター・ヴィジョンと、時期ごとに異なる歌手たちが紡いだ多彩な表現は、バンドの音楽を単なる過去の遺物にとどめず、現在のロック/メタルの文脈でも参照される源泉となっています。

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参考文献