天然砕石とは?用途・製造工程・品質管理・環境対策を詳解

はじめに — 天然砕石の位置づけ

天然砕石は、山地や採石場から切り出した岩石を物理的に破砕・選別して得られる骨材で、道路の路盤・基層、コンクリート・アスファルト混合物、排水層、埋戻し材など、土木・建築の幅広い用途で重要な資材です。本コラムでは、天然砕石の定義・分類、製造工程、物性、品質管理、施工上の扱い、環境影響と対策、再生骨材との比較まで、実務で役立つ視点を盛り込み詳しく解説します。

天然砕石の定義と分類

天然砕石は天然の原石を破砕機で砕いて得られる粒状の骨材を指します。用途ごとに細骨材(ふるい目4.75mm以下)と粗骨材(4.75mm以上)に分けられ、さらに粒度(ふるいによる篩分け)や最大寸法、岩種(花崗岩、安山岩、玄武岩、石灰岩など)で分類されます。

  • 岩種による違い:硬質で摩耗に強い玄武岩・花崗岩、吸水性が高い石灰岩など。
  • 形状:角礫状(角張る)と丸みを帯びる破砕片で、角張り具合は締固め性や付着性に影響。
  • 粒度区分:一般に細骨材はモルタルやコンクリートの砂、粗骨材はコンクリート骨材や路盤級配材として使われる。

製造工程(採石から出荷まで)

砕石の代表的な製造工程は以下の通りです。品質を左右する工程が多く、現場管理が重要です。

  • 採掘・原石取得:露天掘りで原石を採取。地質調査、掘削計画、除染・覆土の保全計画が前提。
  • 一次破砕:大型破砕機やハンマーで原石を粗く破砕。
  • 二次・三次破砕:円錐破砕機、ショットクラッシャー等で所定の粒度に整形。
  • 篩分け(スクリーン):ふるい機で粒度分類。必要に応じて洗浄で粉塵や細粉を除去。
  • 洗浄・選別:洗浄プラントや水槽で粘土・有機質を取り除き、品質を改善。
  • 貯蔵・品質検査:ロットごとに採取・試験(粒度、比重、吸水率、LA値など)を実施。
  • 出荷・運搬:トラック・トレイン・船で施工現場へ供給。混合や風散防止対策が取られる。

主要な物理・化学特性とその意味

砕石を設計や選定で扱う際、代表的な物性を理解することが不可欠です。

  • 粒度(grading):ふるい分析で表され、配合や締固め・空隙率に直結します。特に路盤・コンクリート設計で重要です。
  • 最大寸法(最大粒径):コンクリートの配筋間隔や施工性に影響。配筋のクリアランスを考慮して選定します。
  • 形状(角礫性・丸み):角ばった骨材は締固め性や密粒化が良好だが、ワーカビリティ(作業性)には影響します。
  • 比重・吸水率:比重は体積計算に、吸水率は混合時の水量管理や耐久性評価に関係します。花崗岩等の硬質岩では比重約2.6〜2.8、吸水率は一般に低い。
  • 強度・耐磨耗性(LA値等):舗装やコンクリートに使う場合に摩耗抵抗性を示すLAアブレーション値などで評価。値が小さいほど耐摩耗性が高い。
  • 不純物(粘土、有機物、硫酸塩など):コンクリートやアスファルトの長期耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるため、規格で管理します。

品質管理と規格(現場で注意すべきポイント)

設計図にはしばしば「規格品」として骨材の条件が示されています。供給元の品質証明に加え、現場でも受入検査が必要です。代表的な管理項目は以下です。

  • 粒度試験(ふるい試験):納品ごとにサンプルを採取し、設計仕様と照合。
  • 比重・吸水率試験:混合設計での水量補正や単位体積質量の確認。
  • 含泥量・有機物検査:洗浄が不十分な場合は除去してから使用。
  • 耐摩耗試験(LA試験等):舗装用や路盤用に応じた基準を満たしているかチェック。
  • 化学性の確認:硫酸イオンや塩分の含有は腐食やアルカリ骨材反応(ASR)などを引き起こすため確認が必要。

設計条件と合致しない骨材を使用すると、締固め性低下、透水性の変化、コンクリートの著しい品質低下など重大な不具合を招きます。

主要用途と設計上の扱い

天然砕石の用途は多岐にわたります。用途ごとに求められる性質が異なるため、適材適所で選定することが重要です。

  • 路盤材・基層材:粗骨材の粒度分布や角礫性が重要。圧密・締固め特性と排水性のバランスを設計する。
  • コンクリート骨材:強度、耐久性に直接影響。最大粒径や吸水率、異物混入の有無を管理。
  • アスファルト混合物:骨材の形状や摩耗抵抗が舗装の耐久性と密に関連。高温下での安定性も考慮する。
  • 排水材・透水層:粒度分布を粗くすることで透水性を確保。ただし目詰まり対策や洗浄が重要。
  • 埋戻し・盛土:経済性重視の場合が多いが、圧密特性と長期の変形挙動を評価する必要がある。

環境・社会的影響と対策

採石・砕石事業は地域経済に貢献する一方、騒音・振動・粉じん・景観破壊や水質影響などの問題を生じます。環境影響を低減するために次のような対策が一般的です。

  • 粉じん抑制:散水、集塵装置、被覆輸送、作業時間の制約。
  • 騒音・振動管理:破砕設備や爆破の時間帯制限、防音壁の設置、振動監視。
  • 水管理:洗浄水の循環利用、沈砂池での処理、排水の水質監視。
  • 景観・生態系配慮:段階的な採掘と復旧計画、植生復旧、採石場周辺の緑化。
  • 住民対応:情報公開・説明会、苦情対応窓口の整備。

法令・地域自治体の規制に基づき環境影響評価や監視が行われます。採石場の操業計画には採掘後の復旧計画(段階的埋め戻し、植生回復等)が必須となることが多いです。

再生骨材(リサイクル)との比較と活用の現状

近年はコンクリート廃材を再生骨材として利用する流れが進んでいます。天然砕石と再生骨材の主な違いは以下の通りです。

  • 品質の均質性:天然砕石は原石由来で比較的均一、再生骨材は混合物の影響で変動が大きい。
  • 物性:再生骨材は吸水率が高く、密着性や耐久性に配慮した設計が必要。
  • コストと環境負荷:運搬距離や処理コストに依存するが、再生骨材は廃棄物削減と資源循環のメリットがある。

実務では、用途に応じて天然砕石と再生骨材を組み合わせるハイブリッド利用が推奨されています。例えば、路盤下層には再生骨材を用い、表層やコンクリート骨材には品質が安定した天然砕石を用いるなどです。

物流・供給の課題と対策

天然砕石は重量物であるため、供給距離がコストに直結します。主要な課題と実務的な留意点は次の通りです。

  • 供給源の偏在:都市近郊での供給不足は運搬コストの上昇を招き、地域間格差につながる。
  • 輸送手段の最適化:トラックから鉄道や船舶への切替でコスト削減が可能な場合がある。
  • 在庫管理:現場在庫の最適化で施工性を確保しつつ余剰在庫による品質劣化を防止する。

施工上の注意点とトラブル事例

現場でよくあるトラブルと予防策を挙げます。

  • 含泥による締固め不良:納入時に含泥検査を行い、必要なら洗浄・再選別して使用する。
  • 粒度不適合による透水性低下:設計粒度と現場粒度を早期に照合し、足りない粒度帯を補う。
  • 高吸水率骨材による混合水量不足:事前に吸水率を測定して水セメント比を調整。
  • 化学的不具合(塩分・硫酸塩):特に海岸近接地で採取した骨材は塩分検査が必要。

選定ガイド — どのように天然砕石を選ぶか

実務的には以下の手順で選定を進めると良いでしょう。

  • 用途と要求性能(強度、耐摩耗性、透水性、耐久性)を明確化する。
  • 候補採石場の岩種・供給能力・運搬コストを調査する。
  • サンプル採取による物性試験(粒度、吸水率、LA値、含泥・有機物など)を実施。
  • 長期的な供給安定性と環境配慮(復旧計画、地域対応)を評価する。
  • 必要に応じて設計側で代替案(再生骨材の併用等)を検討する。

まとめ

天然砕石は土木・建築の基盤となる重要な材料であり、岩石の選定、破砕工程、粒度管理、化学的特性、環境対策まで総合的に管理することが品質と施工の成否を分けます。近年は資源循環や環境負荷低減の観点から再生骨材との組合せ利用や採石場の適正な環境管理がますます重要になっています。実務では、供給者との密な連携と現場での受入管理・試験が不可欠です。

参考文献