高麗芝(コウライシバ)完全ガイド:ゴルフ場での特性と実践的な管理法

高麗芝とは何か

高麗芝は学名Zoysia japonicaに属する暖地型(夏型)芝草の代表種で、日本を含む東アジアで古くから庭園や公園、ゴルフ場で広く用いられてきた。葉幅がやや広く、地下茎と地上茎(スティロン)を併用して茂るため密度が高く、踏圧に強く耐乾性にも優れるのが特徴である。一方で生長速度は比較的遅く、冬季には休眠して褐色化するため冬の色彩維持が課題となる。

ゴルフ場における利用と適地

ゴルフ場では主にティー、フェアウェイ、ティーングラウンド周辺やラフの一部で採用される。高麗芝は踏まれても潰れにくく歩行やカートの通過に対する回復力が高いため、フェアウェイやティーに向く。しかし、ベント芝などのクールシーズン芝に比べてグリーン用途には適さないことが多い(刈高や密度、転がり特性の点で不利)。

高麗芝の長所・短所

  • 長所
    • 耐踏圧性と耐乾性に優れる
    • 葉密度が高く、しっかりした芝床が得られる
    • 手入れの頻度(施肥や散水)が比較的少なく済むことがある
  • 短所
    • 冬季に休眠して色が褐色になる(ゴルフ場では見栄え対策が必要)
    • 日陰耐性は低い(樹下など日照不足の場所では生育が悪化)
    • サッチ(芝の有機物堆積)が溜まりやすく、目土やバーチカルカットが必須となる場合がある

気候・土壌条件と生育のタイミング

高麗芝は暖地型のため、春〜秋の高温期に活発に成長する。植付けや改修は気温と地温が上昇する初夏が最も適しており、定着が良い。土壌pHは中性付近を好むが、一般的な園芸用土で問題なく育つ。排水が悪く過湿になると病害が発生しやすいので、適度な排水性と通気性の確保が重要である。

刈り込み(刈高と頻度)の実務ポイント

刈り込みは用途に応じて刈高を設定する。ゴルフ場の場合、用途別の目安は次の通りである(コース設計や競技規定により変動する)。

  • フェアウェイ:おおむね8〜20mmの範囲(コースの仕様による)
  • ティー:しっかり整備する場所はフェアウェイと同程度またはやや高め
  • ラフ:30mm以上など用途に応じて高めに維持

刈り幅を一度に深く落としすぎるとストレスを与え回復が遅れるため、1回あたりの刈取り量は葉長の1/3程度を目安に小刻みに行う。刈芝は原則として回収せず還元することで窒素循環を助けるが、サッチ過多の場合は回収・目土処理が必要である。

潅水(かん水)と乾燥管理

高麗芝は比較的乾燥に強いが、浅根化や締め固まった土壌では乾燥でダメージを受けやすい。灌水は深くゆっくりと行い、土壌深部まで浸透させることで根を深く張らせるのが望ましい。頻繁な浅い散水は表層根を誘発して耐乾性を低下させるため避ける。逆に長期の過湿は病害を誘発する。

施肥の考え方

高麗芝は高窒素を必要とするクールシーズン芝に比べて施肥量が控えめでよい。春から初夏、晩夏から秋にかけて成長が旺盛になる時期に窒素を適度に与えると良い。過剰施肥はサッチの増加と病害発生の原因になるため、土壌検査に基づく施肥設計を推奨する。リン・カリは土壌分析を基に補う。

サッチとエアレーション(通気)管理

高麗芝は有機マテリアルを多く生産しやすく、サッチが厚くなる傾向がある。サッチは水・肥料の浸透を阻害し、病害の温床にもなるため定期的にバーチカルカットやエアレーション(コアリング)で除去・改善する。エアレーションは活発に生育している時期(春後半〜夏)に行うと回復が早い。

病害虫とその対策

  • 主な病害
    • 大型菌核病やブラウンパッチなどのフザリウム・糸状菌系の病害が発生することがある。長雨や過湿、窒素過多でリスクが高まる。
  • 主な害虫
    • コガネムシ類の幼虫(白中)が根を齧ることで枯死を招くことがある。

防除はまず栽培管理(排水改善、過剰施肥の回避、適切な灌水)で健全な芝を維持することが基本。被害が大きい場合は地域の防除指針に従い薬剤を適切に選定・散布する。薬剤依存にならない統合的防除(IPM)を心がけること。

改修・張替えの方法

高麗芝の設置は芝張り(ロール芝)やプラグ(株分け)・スプラグ(ランナー片)で行うのが一般的で、種子は発芽が遅く実用上あまり用いられないことが多い。改修の流れは次の通りである。

  • 既存芝の剥ぎ取りまたはスケール除去
  • 土壌の整地と必要に応じた改良(排水層の設置、土壌改良材の投入)
  • 張芝やプラグの設置(密度は用途に応じて設定)
  • 目土・ローリングによる密着、定着期の灌水と雑草管理

新しく張った高麗芝は定着までに時間がかかるため、施工時期は暖かい時期を選び定常的な潅水を行う。

冬季の課題とオーバーシード(ライグラス等)

高麗芝は冬季に休眠して褐色化するため、コースの景観やプレーの視認性を維持する目的で秋に速やかに短期間性の一年性または越年性草本(例:ペレニアルライグラス)をオーバーシードする運用がよく行われる。オーバーシードは種子選定、播種仕様、施肥と刈り込みの調整が必要で、春に高麗芝が再び勢力を回復するまでの管理計画を事前に立てることが重要である。

実践的な管理チェックリスト

  • 定期的な土壌検査でpHと養分を把握する
  • サッチ管理として年1回以上のバーチカルカットや目土を計画する
  • エアレーションは高麗芝の生育期に行い、回復スケジュールを確保する
  • 灌水は深く・間隔を空けて実施し、浅い散水を避ける
  • 病害虫発生時はまず栽培条件の改善を行い、必要に応じて薬剤防除を検討する
  • 冬季の景観対策としてオーバーシード計画を立てる(地域の気候を考慮)

まとめ

高麗芝はゴルフ場において耐踏圧性や耐乾性、低肥料での維持のしやすさなどの利点がある一方で、冬季の褐色化や日陰耐性の低さ、サッチ問題など特有の課題がある。これらを踏まえた土壌改良、適切な刈込・灌水・施肥、定期的なサッチ除去とエアレーション、そして必要に応じたオーバーシードが良好な芝床を維持するための鍵となる。現場ごとの気候や利用状況に合わせた計画的な管理が、プレーの品質とコストの両立を実現する。

参考文献

コウライシバ - Wikipedia

University of Florida IFAS - Zoysiagrass

Oklahoma State University Extension - Zoysiagrass

USGA - Zoysiagrass Management