グレートアメリカンソングブックとは:起源・名曲・影響を徹底解説

序論:グレートアメリカンソングブックとは何か

「グレートアメリカンソングブック(Great American Songbook)」は、アメリカの大衆音楽史における一連のポピュラーソング群を指す概念です。公式なカタログや単一の楽譜集を指す言葉ではなく、主に1910年代から1950年代ごろに作られた、ブロードウェイ・ミュージカル、Tin Pan Alley(ティン・パン・アレー)、ハリウッドの映画音楽、そしてジャズやシンガーソングライターの解釈を通じて不朽の名曲として定着した楽曲群の総称です。これらの楽曲は「スタンダード(standards)」として数多くの歌手やジャズ奏者に歌い継がれてきました。

歴史的背景:発展の系譜

グレートアメリカンソングブックの成り立ちは、19世紀末から20世紀前半のアメリカ都市文化の発展と密接に結びついています。ニューヨークのTin Pan Alleyは、音楽出版社と作曲家が集まるエリアで、商業音楽の生産と普及の中心地となりました。ここからブロードウェイのミュージカル音楽や、映画音楽が生まれ、多くの楽曲が大衆の支持を得て「ポピュラーな標準曲(standards)」となりました。

同時に、20世紀初頭から中盤にかけての録音技術の発達、ラジオや映画の普及は、楽曲の全国的・世界的拡散を促しました。ジャズの台頭も大きな要因で、ジャズ・ミュージシャンによるアレンジや即興によって、歌詞とメロディがさらに演奏の「素材」として消費されるようになります。結果として、ブロードウェイやTin Pan Alleyで生まれた楽曲群が「演奏と録音を通じて何度も再生産される」ことで、時代を超えて残る“ソングブック”になったのです。

主要な作曲家・作詞家と代表曲

この時期に活躍した作曲家・作詞家は数多く、以下はその代表的な人物と代表曲の一例です。

  • George Gershwin(ジョージ・ガーシュウィン)/Ira Gershwin(アイラ・ガーシュウィン):"Someone to Watch Over Me"、"Embraceable You"、オペラ・ミュージカル『Porgy and Bess』の"Summertime"(作曲:George、歌詞はDuBose Heywardとの協働)
  • Cole Porter(コール・ポーター):"Night and Day"、"I Get a Kick Out of You"、洒脱でウィットに富んだ歌詞と洒落たコード進行が特徴
  • Irving Berlin(アーヴィング・バーリン):"White Christmas"、"Cheek to Cheek"など、幅広い商業的成功を収めたソングライター
  • Jerome Kern(ジェローム・カーン):『Show Boat』のための"Ol' Man River"など、ミュージカル音楽の発展に寄与
  • Richard Rodgers(リチャード・ロジャース)とLyricists(Lorenz Hart/Oscar Hammerstein II):Rodgers & Hartの"My Funny Valentine"、Rodgers & Hammersteinのミュージカルでのヒット曲群

上記に限らず、Harry Warren、Harold Arlen、Johnny Mercer、Harold ArlenとTed Koehlerの共作、そしてBroadwayや映画音楽に携わった多数の作家たちがこの「ソングブック」を形作りました。

楽曲の音楽的特徴と構造

多くのグレートアメリカンソングブックの曲には共通する音楽的特徴があります。

  • 形式:32小節のAABA形式(いわゆる32バー・ソング)が多く見られます。Aセクションが主題を提示し、Bセクション(ブリッジ)が対照的な和声や旋律で変化を与えます。
  • 和声:二次ドミナントや代理和音、モーダル・インターチェンジ(借用和音)など、豊かな和声進行が用いられ、ジャズ的な解釈でさらに拡張されます。
  • メロディと歌詞:メロディは歌いやすく記憶に残る一方で、巧妙なリズム配置や語句のアクセント(prosody)により高度な表現力を持ちます。歌詞は物語性やウィット、ロマンティシズムが強調される傾向にあります。

歌手と編曲家による解釈の文化

グレートアメリカンソングブックの楽曲は、原曲そのものよりも「誰がどう歌うか/どう編曲するか」によって新たな命を得ることが多いです。代表的な例がElla Fitzgeraldの「Songbook」シリーズ(Verve)で、彼女はCole PorterやGershwin、Rodgers & Hartなどの作品を自身のボーカルとジャズ的アプローチで再解釈しました。

Frank Sinatraはビッグバンド編成やネルソン・リドルらのアレンジを通じて、ミクロなフレージングやドラマティックな表現により楽曲の新たな標準像を確立しました。Billie HolidayやSarah Vaughan、Nat King Coleなども各々の声質と解釈で曲の印象を大きく変え、ジャズ・スタンダードとしての地位を強固にしました。

ジャズとの関係:インプロヴィゼーションと「標準曲」

ジャズはグレートアメリカンソングブックの曲群と密接に絡み合っています。多くのミュージシャンはこれらの曲を「スタンダード」としてレパートリーに持ち、テーマ(ヘッド)を演奏した後に即興ソロを展開します。こうした演奏実践が、和声進行やメロディの解釈を進化させ、楽曲を演奏ごとに再創造する文化を生み出しました。

さらに、ミュージシャンたちが共有する「Fake Book(フェイクブック)」や後の「Real Book」には多数のスタンダードが掲載され、即興演奏やセッションの共通言語として機能してきました。

「ソングブック」という概念の形成と論争

「グレートアメリカンソングブック」はあくまで後付けで形成された「カノン(正典)」です。その選定は時代や文化的背景、音楽ジャンルの評価軸によって変わります。例えば、当初評価が低かった作家や黒人音楽の貢献は、後年になって再評価されることが多く、カノンの形成には常に議論が伴います。

現代の音楽学や文化研究では、「誰が」「なぜ」ある楽曲を「重要」と見なすのかというメタ的問いも重視されるようになりました。商業的成功、録音史、パフォーマンス史、そして人種やジェンダーの視点が再評価の鍵となります。

保存と継承:現代における役割

20世紀後半から現代にかけて、グレートアメリカンソングブックの楽曲は教育、映画・ドラマの音楽、レコーディング・プロジェクトなどで繰り返し引用されています。Michael Feinsteinらによる「Great American Songbook Foundation」など保存活動も行われ、楽譜や録音、関連資料のアーカイブ化が進められています。

またポップスやロック以降の世代のアーティストがこれらの曲をカバーするケースも多く、例えばノラ・ジョーンズやダイアナ・クラールのようにジャズやポップの境界で再解釈されることで、新たなリスナー層へと橋渡しされています。

教育的観点と実践的利用

音楽教育の現場では、グレートアメリカンソングブックの楽曲はコード進行、メロディの作り方、歌詞表現、即興の教育素材として有用です。多くのジャズ講義やボーカルワークショップでは、これらの曲を使ってフレージング、テンポ管理、アドリブの技法を学びます。また、ミュージシャン同士のコミュニケーションツールとしても不可欠です。

まとめ:伝統と革新の交差点

グレートアメリカンソングブックは、単なる過去の遺産ではなく、演奏者の解釈や時代の文脈によって常に再生産される生きた伝統です。豊かな和声、洗練されたメロディ、巧みな歌詞が結びついたこれらの楽曲は、ポピュラー音楽とジャズの橋渡しとなり、20世紀の音楽文化を深く形作りました。今日も世界中で歌われ、演奏され続けることで、新たな表現や発見を促しています。

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参考文献